アレク、ヴォルクスを巡る
商業都市ヴォルクスは、ペンドラゴン王国で王都ブランに次ぎ、二番目に栄えた都市だ。
国内で最大の港を持ち、他国との交易を一手に担っている為である。住民の数も十万人を超えるらしい。
近隣にはいくつもの小島が存在し、その中にはダンジョンも存在する。
海の魔物は雷属性に弱く、専用装備で効率的な狩りが行えるのが特徴だ。冒険者には中々に美味しい狩り場と言える。
また、ヴォルクスはカーズ帝国と隣接する領地でもある。今は停戦状態らしいが、ヴォルクスは戦争になると、国の盾役を担う事になる。
その為、この都市は巨大な城壁に覆われた、堅牢な作りとなっている。
「うわぁ……。ここが街なんだ……」
初めて見る都会に、アンナは目を輝かせていた。
この世界の村人は、殆どが村の中だけで人生を終える。なので、アンナの様に都市へ入った事が無い者が多い。
見ればギリーも平静を装っているが、その目はキョロキョロと落ち着き無い。
大人げないので、その事を指摘したり、からかったりはしないけどね!
「さあ、後ろが詰まってるから、早く中に入ろうか?」
「は、はい……!」
ボクの言葉に、アンナは慌てて前へ進む。
背後に目をやると、門の側に立つ兵士が苦笑していた。彼は肩を竦めると、何を言うでも無く次の人の手続きに移った。
ここはヴォルクスへ入る西門である。中に入るには兵士へ目的を告げ、安くない通行税を払う必要がある。
その金額は、某テーマパークよりも高い位の金額だ……。
ちなみに、街の住人とギルド所属の冒険者は、通行税が不要である。住民税を払っている事もあるが、街の経済が停滞しないのが目的だ。
……ボクも早くギルドに加入しないとな。
「あ、あの……。今からどこに向かうの……!」
アンナがソワソワしながら質問する。そして、質問しながらも、目は落ち着き無く、周囲へと動き回っている。
「目的地はギルド通りだけど……少し街を案内しようか?」
「い、いいの……!?」
アンナは嬉しそうに悲鳴を上げる。その様子にボクは、大きく頷いた。
「わあい、やったぁ……!」
七歳の少女らしく、アンナはその場で跳ねる様に喜ぶ。
しかし、そこでギリーが眉を寄せた。
「何故、アレクは街を案内出来る……?」
「ハンスさんに、色々と教えて貰ったからね」
「……ふむ、そうか」
一応、ギリーは納得する。そんな物かと思ったのか、ボクならあり得ると思ったかのどちらかだろう。
しかし、ハンスさんに聞いたというのは嘘だ。
村で唯一の商人であったハンスさんは、ヴォルクスの街並みに詳しくなかった。それはお金が無くて、街で長期滞在したり、遊んだり出来なかったからである。
ボクがヴォルクスを良く知るのは、ゲーム内で散々歩き回ったからだ。
細かな情報は異なるだろうが、港やギルドの位置が大きく変わると思えない。目的地を探すには困らないだろう。
「じゃあ、まずは今いる場所だね。ここは露天通り。店を持たない商人が、商品を売る為の場所だよ」
「へえ……」
門から中央に向けて大通りが伸びている。そして、大通りの両端にはチラホラと商品を広げた商人の姿が見られる。
ゲームでは見慣れた光景なのだが……。その人数は圧倒的に少ない。まるで過疎化したサーバーの様だ。
それと、ざっと見渡した限りでは、まともな商品が少ない。ゲーム内ではレアアイテムや、委託販売の武具等が並んでいた。
しかし、プレイヤーが存在しない為か、並ぶのは怪しい格安アイテムばかりだ。
「……じっくり見るのは今度にしよう。まずは港に向かおうか」
「港……?」
アンナは馴染みが無い為にピンと来て無い様だ。ボクは苦笑しながら東に向けて足を進める。
「ここは海に面した街だから、当然ながら船が停泊してるんだよ。アンナは海も船も見た事無いよね?」
「うん、見た事無いよ!」
アンナは手を上げて返事する。その目はキラキラと輝いていた。
「じゃあ、せっかくだし見て行こう。今後は船に乗って移動する事もあるしね」
「うわぁ、楽しみ……!」
ボク達は北の住宅通りを経由して、東の港エリアに向かう。最終目的地は南のギルド通りだが、せっかくなのでグルッと一周するのも有りだろう。
……正直、ボクも実物の街には興味あるしね。
ちなみに、街の中央は城壁に覆われている。中は貴族達の屋敷が建ち並び、中心地には領主の城がある。
ボク達は許可無く入れないので、遠目に城を眺めるだけだ。
「ほら、ここが港だよ」
「うわぁ……。これが海なんだ……」
徐々に見え始めた景色に、アンナの足が僅かに早くなる。
広がる景色は一面が青。その中にポツポツと浮かぶ大小の船。その全てが、アンナには初めて見る物だ。
「あ、あの! 急いで見に行こうよ!」
アンナは上気した顔で、駆け出して行く。初めての感動で、抑えが効かないのだろう。
実に子供らしくて可愛いと思う。
ボクがほっこりしながら歩いていると、すっとボクを追い越す影があった。
「ふっ……。アンナは仕方がないな……」
……すっかり存在を忘れていた。ここにも浮かれた仲間がいたんだった。
ギリーは保護者の様なすまし顔で、早足にアンナを追いかけて行く。
本人は落ち着いているつもりだろうが、その目からは好奇心が溢れだしている。
ボクは肩を竦めると、ヘイストを使って二人を追う。急いで向かったお陰で、港にはすぐに到着する事が出来た。
二人は楽しくて仕方ないらしく、周囲をキョロキョロと見回していた。
「広いよ……! それに大きい……!?」
港には大型船が数隻と、中型や小型の船が複数停泊していた。それらは荷物の運び入れをする物や、乗客の乗り降りする物が入り交じる。
興奮するアンナに向けて、ボクは説明を行う。
「大型船は外の国に向かう船だね。それ以外は、ペンドラゴン王国内の街や島に向かう船だよ」
「へえ……。そうなんだ……!」
アンナは目を輝かせて色々な船を見比べる。クランで依頼を受ける様になると、船に乗る機会は嫌でも増える。
もっとも、国外に出る事は当面無いので、大型船には乗らないだろうけど。
それから、二人が落ち着くまでしばし散策する。屋台があったので、ついでに魚介類の串焼きを買って昼食代わりにする。
「わぁ……! 味が強くて美味しいね!」
アンナはホタテっぽい、貝の串焼きが気に入ったらしい。ギリーはエビっぽいのが好みの様だ。
ボクは醤油が無いのが不満である。塩味でも美味しいけど、元日本人としては物足りない……。
「じゃあ、そろそろギルドに向かうよ」
「うう……。もう、お腹一杯だよ……」
「はは、食べ過ぎたね」
干物でない魚介類は珍しい為、ついつい食べ過ぎる気持ちはわかる。可哀想だが消化されるまで、苦しいのを我慢して貰うしかない。
ちなみに、ギリーはまだ食べ足りないのか、視線がお店に向いている。とはいえ、宿も確保しないといけないので、ここは我慢して貰おう。
ボク達は街の南に向かう。そこはギルド通りと呼ばれ、様々なギルドが集まる場所だ。それに、クラン事務局も存在する。
今日中にギルド加入と、クラン結成は終わらせたい。可能なら、クランハウスも今日から使えると良いのだが……。
アンナに合わせてゆっくり歩いていると、程なくしてギルド通りに到着する。街並みは綺麗に整っており、様々な看板の付いた建物が並んでいた。
「まずは魔術師ギルドだね」
ボクはすっと、ある看板を指差す。そこには二本の杖が交差した絵が描かれていた。そして、ボク達は真っ直ぐにその建物に向かう。
「次の予定もあるから、さっと登録してしまおう」
「う、うん……。ちょっと緊張するね……」
初めてのギルドにアンナは緊張していた。
ボクは彼女に微笑むと、先陣を切ってギルドへ踏み込んだ。




