広がる被害(アンナ視点)
<前回までのあらすじ>
幻想神ヴィジョンの仮想世界を介し、異世界より混沌の神ケイオスが紛れ込む。
そして、ケイオスを追う様にしてやって来た、秩序の神べフェールとトールは出会う。
この世界の神々はべフェールと協力して、ケイオスによる世界浸食を食い止めようとする。
しかし、メリッサの体を乗っ取ったケイオスは着実に世界の浸食を進めて行く…。
異世界より混沌の神ケイオスがやって来て、既に一月が経過している。状況としては余り良いとは言えない状況だった。
それと言うのも、ケイオスの侵略は加速度的に進み、その眷属の処理が秩序の神べフェールだけでは追いつかなくなってしまったからだ。
同時多発的に発生する、ユニーク級モンスターの眷属化。その対処を行うに辺り、対処チームを二つに増やす事となった。
一つがこの世界の有り方を学んだべフェール。お姉ちゃんの持つ悪魔ネットワークへアクセスし、ケイオスの気配を察知すると空を駆けて敵を討つ。
もう一つがお姉ちゃんと私の姉妹チームである。お姉ちゃんが眷属の元へと私を運び、私が神器を使って敵を討つ。神器の力であれば、眷属を一撃で撃破出来るからだ。
ケイオスの眷属には生半可な攻撃は効かず、下手をしたら相手やマナを取り込んでしまう。確実に仕留めるには、『神殺し』の特性を持つ神器の力が必要なのである。
「――けど、流石に切りが無い……」
私は目の前で崩れ去る、不気味な姿のモンスターを見つめる。元は巨大なクマの姿だったが、眷属化の影響で原型を留めずグズグズに溶けた姿であった。
相手の反撃を許さず一撃で仕留めたが、今日は午前だけで六匹目である。これが毎日続くのかと思うと、げんなりとさせられる。
「ごめんね、アンナ……。尻拭いに付き合わせちゃって……」
振り返るとお姉ちゃんが、申し訳なさそうに俯いていた。お姉ちゃんは事の原因がヴィジョンにあり、自分が親として責任を取らねばと思っているのだ。
私はお姉ちゃんの元へと歩み寄り、その身をギュッと抱いて優しい声で伝えた。
「謝らないで、お姉ちゃん。私達は姉妹でしょう? 困っていたら、助け合うのは当然じゃない?」
「アンナ、ありがとう……」
弱弱しい声でお礼を口にし、ギュッと私を抱き返す。こんな弱気なお姉ちゃんを、私は殆ど見た事が無い。
私の年齢は二十台後半。お姉ちゃんは十代後半で年齢が止まっている。見た目で言えば、周囲には私が姉に見える事だろう。
けれど、それでもお姉ちゃんは姉だった。見た目に関係なく、いつだって姉として私を気にし、私の面倒を見ようとしてくれた。
だからこそ、私に弱気な姿を見せる事は無かった。そんなお姉ちゃんが、初めて私を頼ってくれた。その弱い姿を見せてくれたのだ。
――お姉ちゃんは、私が助ける……。
元々、ヴィジョンは私の姪だ。そんな彼女の力になろうとは思っていた。
しかし、私は改めて誓ったのだ。ずっと私を想い、助けてくれたお姉ちゃん。今こそその恩を返す時なのだと。
何としてでもケイオスを仕留める。そして、私の大切な家族を、その苦しみから助け出さねば……。
「――あの~。お取込みの所、少々失礼致します……」
声を掛けられ初めて気付く。私達のすぐ側に、一人の青年が立っている事に。
彼の名はゼクス。お姉ちゃんの配下の一人であるドッペルゲンガーである。
その姿はギルバートの姿を模しており、若かりし執事時代の彼そのものである。
そして、今はアンリエッタ王女に仕えている。執事として彼女の支える彼が、どうしてこんな場所に居るのだろうか?
「アレク様がお呼びです。急ぎ白亜の塔まで移動願えないでしょうか?」
「アレク君が呼んでるの? それなら、すぐに向かうとしましょう!」
お姉ちゃんはパッと笑顔を浮かべる。そして、私に手を差し伸べて来た。お兄ちゃんに会えるとわかり、それだけでお姉ちゃんの機嫌が良くなったみたいだ。
私はその事に苦笑を浮かべつつ、お姉ちゃんの手を握る。すると、お姉ちゃんは指輪の力で、私達を白亜の塔まで転送させる。
私達が転送すると、見晴らしの良い景色をバックに、二人の人物が視線を向けて来た。
「やあ、早かったね。急に呼び出してごめんね?」
「ううん、いつでも呼んで良いんだよ。アレク君♪」
お姉ちゃんはニコニコと微笑み、アレク君の隣にピタリと身を寄せる。そして、そんな様子を息子のトールが苦笑を浮かべて見つめていた。
まあ、二人は幼馴染にして夫婦。仲が良いのはいつもの事だし、それについて言及するつもりは無い。
ただ、急な呼び出しと言う事は、何か急ぎの用事があるのだろう。そう思って見つめていると、お兄ちゃんは真剣な顔でお姉ちゃんに告げた。
「父さんの許可が下りたんだ。神器『騎士王の剣』を出してくれるかい?」
「――っ……?! 本当に、許可が下りたんだ……」
お姉ちゃん驚きで目を見開き、お兄ちゃんをじっと見つめる。そして、コクリと頷くのを見ると、闇の空間を開いてそこに手を伸ばした。
――チリッ……ジジジ……。
闇の中から一本の剣が姿を現す。黄金に輝く刀身に、きらびやかな装飾。
しかし、その剣は決して美術品等では無い。その剣は光の属性を持つ『神殺し』の武器である。
現に資格を持たないお姉ちゃんは、握るだけで手のひらが焼かれている。魔王であるお姉ちゃんですら、持つだけで激しい痛みに顔を歪めていた。
「――トール、急いで!」
「う、うん。わかった!」
声を掛けられたトールは、慌てて剣に手を伸ばす。そして、柄と刀身に手を添えて、そっとお姉ちゃんから剣を受け取る。
額に脂汗を浮かべながらも、ほっと息を吐くお姉ちゃん。平然と剣を掴んで掲げるトールの姿に、お兄ちゃんはほっとした様子で告げる。
「うん、問題無さそうだね。今日からその剣はトールの物だよ」
「マジかぁ……。試練も何も無しで、神器が貰えるとはなぁ……」
呆然とした様子のトールに、お兄ちゃんは神々しく輝く鞘を手渡した。トールはそれを受け取ると、神器『騎士王の剣』を鞘に納める。
十数年前の決戦の時より、ずっとお姉ちゃんが封印していた神器。それがついに、新たな持ち主の元へと渡った。
元々はシャルロッテ王女が使う予定だった神器。光と生命の神スルランが、それ以外の人への譲渡を認めるとは思っていなかった。
それだけ、今の状況は不味いと言う事なのだろう。神のプライドよりも世界の平和。ケイオスに対応出来る手段を、少しでも揃えて置かねばならないのだ……。
「わかっているね、トール。その神器を渡された意味を?」
「勿論だよ、父さん。この世界を壊されては困るからね!」
二ッと笑うトールに、お兄ちゃんは優しく微笑む。息子であるトールの成長を、内心では凄く喜んでいるんだろうね。
Lv50の騎士にして、ユニーク級スキル『英雄』を与えられた神の子。そのトールがついに、神器まで手にする事となる。
これでようやく私は、『人類最強』の名を返上出来そうである。学者である私が持つには、その二つ名は余りにも物騒過ぎるからね。
私は私でほっと胸を撫で下ろしつつ、これからの甥っ子の活躍に期待を寄せるのであった。
今回もGW利用して六話更新予定です。
4/29~5/4までの六日間でお楽しみ下さい!




