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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
番外編15 魔術の父

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最後の別れ

 私は赤髪の少女ミーアに連れられ闇の中を進む。かつて私が過ごした場所に、懐かしい思いが込み上げて来る。


 死者にとって、この闇は安らぎなのだ。全ての苦しみから解き放たれ、安心して眠れる場所なのである。


 この場所に戻れた事が私は嬉しかった。最早叶わぬ望みと思っていたが、まさか叶う日が来ようとは……。


「ガウルさん、到着したよ?」


「ここに……。我が師が……?」


 ミーアの示す先に視線を向ける。そして、かつての様に目を凝らし、闇の中から輪郭を見つける。


 それは私が望み続けた存在。何度も再開したいと、心の底から望んだ相手。


 返すべき杖はアンナと言う少女に渡し、かつての師との約束は果たせない。それでも私は、この再開に涙が止まらなかった。


『我が弟子よ。良く戻りました』


「おぉ……。師よ……。我が師よ!」


 私はその場で跪いて、手を組んで感謝の祈りを捧げる。この再開に、私の体が自然に動いたのだ。


 だが、そこで私は気付く。組んだ手の感触が柔らかい。見れば私の手は骨では無く、あの頃の若い肉体へと戻っていたのだ。


『良くぞ役目を全うしました。最後に望みはありますか?』


「役目を、全うした……?」


 師の言う役目とは何だろうか? 私はあの国を救えたのだろうか?


 そう戸惑う私に、師の口元が微かに綻ぶ。かつての様に、全てを察して師が説明を行ってくれる。


『貴方の望みは、国を救ってほしい。誰か一人でも助かって欲しい。そういうものでしたね? 私が聞き届けた祈りは、とうの昔に叶っています』


「あっ……」


 ……そうだ。そうであった。


 当初の願いはそうだった。幼い私はそう願って死んだのだ。


 しかし、師より授かった力が強大で、私はより多くを望む様になった。その望みには際限無く、どこまでも膨らみ続けて行ったのだ。


 けれど、それと同時にと思う。私の願いは叶ったとして、師は私に何を望んでいたのだろうか?


『私は多くを望んだ訳ではありません。あの国が成長する為に、貴方がその切っ掛けとなる事を望んだだけです。その望みとて、とうの昔に叶っていました』


「国が成長する切っ掛け……」


 ならば、私が地上に降りて、初めの十年で師の目的も果たされていた。国が安定し出して、私が弟子を取り始めた頃には既に……。


 しかし、私は大きな過ちも犯した。ヴァレンタイン領と言う一つの都市が滅んだのだ。師から与えられた知識を、正しく使う事が出来なかったのである。


『誰しも失敗はあります。失敗から人は学び、成長するのです。国全体として見れば、あれは失敗とも呼べないものです』


「国全体として見れば……」


 確かにヴァレンタイン領は国土全体で見れば、一割にも満たない土地。あの地が滅んでも、それで国が傾いたりはしない。


 むしろ、あそこから何かを学べば、後の者達は教訓を得る。ならば、私の視野が狭かっただけなのだろうか……。


『いいえ、貴方は人として正しい行動を取ったのです。貴方の出奔もまた、貴方の弟子達に影響を与えました。その全てに無駄など無く、全てが後へと繋がったのです』


「全てが後へと……」


 伏魔殿パンデモニウムはあの決戦を除けば、その後の歴史で使われていない。使用されれば、私が気付けぬはずもないからな。


 だとすると、多くの者には戒めとなった。私の行動によって、残された者達は何かを感じ、繋いでいったと言う事だろう……。


『それに、貴方はそれを切っ掛けに、ゲイルを育てました。彼の成長は想定外でした。しかし、かの地に影響力を持つ、私の使徒が誕生した意味は大きかった』


「ゲイルが、使徒ですって……?」


 使徒とは神の教えを授かり、その手足となって生きる者。私は使徒と認められているが、ゲイルがそれに該当するのだろうか?


 ただ、私の弟子なので孫弟子とは言える。その上で師がお認めになったなら、それは使徒となるのかもしれない。


『かの国は騎士の国。けれど、ゲイルの功績で魔術師の地位が高まった。更にゲイルと言う駒が、大きな影響力を持つ事が大きい。彼が隠居したケトル村も絶妙な位置でした。あの位置だからこそ、私の分霊を配置する一手が打てたのです』


「分霊とはアレクの事ですか……?」


 アレクがゲイルの元へと届けられたのは、我が師の導きで間違いないのだろう。


 ただ、その物言いが気になった。まるで我が師は、チェスの様な遊戯について語っているかの様で……。


『ええ、その通りです。これは私と彼によるウォーゲーム。人類が成長する為に、程よい刺激を与える為の遊びなのです。神のみぞ知る秘密の遊戯となります』


「――っ……?!」


 私は思わず喉を鳴らす。私はここに至って、この世界の真実に気付いてしまったのだ。


 かつてアレクも示唆していた。神々が人同士の争いを望んでいると。それは真実だったのだ。


 そして、魔術やスキルはその舞台設定。ゲームを楽しむためのルールなのだろう……。


 だが、私が戦慄していると、不意にミーアが手を上げた。そして、我が師は彼女に告げた。


『発言を認めます』


「ありがとう御座います。それでは、ガウルさんに忠告を……」


 師の許可を得て、ミーアが私に視線を向ける。そこには同情的な視線が感じられた。


 彼女は悲しそうに微笑むと、私に対してこう忠告して来た。


「人の尺度で神を計るべきではありません。神々は我々人類を愛しています。成長する事を望んでいるのです。その手段が人類にとって、残酷に感じる物だとしてもです」


「そう、か……。そういう、ことなのか……」


 私はこれまで感じた、違和感の正体を理解した。私達人間の視点と、神々の視点はまったく異なるのだ。


 だからこそ、師は穏やかで慈愛に満ちた存在。それにも関わらず、人を残酷に殺す事が信じられなかった。


 けれど、それは悪意でも憎しみでも無い。我が師なりの愛なのだ。人類と言う我が子へ振るう、教育の為の鞭なのである。


 痛みで子どもが泣こうとも、それは確かに愛故の行為。母親である我が師から見れば、教育の一環でしかないのだ。


『やはり貴方は賢い子ですね。貴方を選んで正解でした』


「感謝致します。最後に真意に触れられ嬉しく思います」


 恐らくは私の人生はここで終わる。師が私に全てを教える理由など無いのだ。


 けれど、それを敢えて行って下さった。それはやはり、我が師なりの慈悲なのだろう。


 私は全てを理解し心が満たされる。そして、最後にミーアへと声を掛けた。


「君はこの先も、アレクの助けになるつもりかな?」


「はい、ガウルさん。私はその為にここに居ます!」


 アレクの幼馴染の少女が、ここに居る意味なら理解出来る。彼の助けになりたいと、死に際にそう願ったのだろう。


 そして、その声が師に届いた。それを成す為の力を、師により授かったのだろう。


「ならば、私からの餞別だ。これを持って行って欲しい」


 私は指から指輪を外す。それは膨大なアイテムが納められた、アイテムボックスである。


 私が集めた伝説級の装備にアイテム。それらが詰まった指輪を、私はミーアへ手渡した。


「ありがとう御座います。これでアレク君を助けてみせます」


 ミーアは私へと深々とお辞儀する。妹弟子である彼女から、深い感謝の気持ちが伝わって来た。


「後の事は頼む。それではさらばだ」


 私はミーアへと別れの言葉を告げる。その声と共に、我が師は私にこう告げた。


『おかえりなさい、ガウル。さあ、我が胸の中で安らかに眠りなさい』


 私は最後に師より抱擁される。私はその安らぎに包まれながら、その人生の幕を下ろしたのだった。

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