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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
番外編15 魔術の父

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最後の弟子

 私は二人の子供を育てた。一人は領主の息子のであるワトソン。もう一人はその従弟であるゲイル。


 ワトソンは秀才と呼ぶべき存在だった。論理だった考えが得意で、努力を怠らない子であった。


 ゲイルは天才と呼ぶべき存在だった。物事の本質を瞬時に見抜き、直感で全て解決してしまう。


 互いに補い合える存在だった。だからこそ、二人の仲は良好であり、我が元で兄弟同然に育った。


 そんな彼等との共同生活も、彼等の成人と共に終わりを迎える。彼ら自身が私の元を離れる事を選んだのだ。


「ガウル先生はこれから、自分の為に生きて下さい」


「俺達は俺達で、何とか上手くやって行きますんで」


 二人は深い感謝と共に、私に別れの言葉を述べた。そして、出来る限りの餞別と共に、私は彼等を見送った。


 幸いな事に、私の弟子は真っ直ぐに育った。私が教えた魔術を、人々の為に使ってくれるだろう。


 一抹の寂しさと共に、私は一人旅を始める事になる。そして、私は遺跡を回ってこの世界を知った。


「どういう事だ……。何故、我が師が悪神として扱われている……?」


 カーズ共和国以外では、我が師は悪しき存在として扱われていた。世の大半が『光と生命を司る』スルラン神を崇めていたのが原因だろう。


 『光と生命』の神が正義。『闇と死』の神が悪。この構図が世界の共通認識だった。私はその事実に激しく心を揺さぶられた。


 我が師が悪のはずが無い。そう思うと同時に、我が師は『闇と死』を司る。それは、悪魔や死霊を司るという事実に思い至る。


「悪とは何だ……? 正義とは何なのだ……?」


 恐らくそれは人間の尺度、人間の視点による定義だろう。だとすると、我が師はどういう存在なのだろうか?


 我が師は死者へと安らぎを与える存在。それは善悪で断ずる事なのか? いや、我が師が居なければ、この世はどうなる?


 私は初めてこの世界を疑問に思った。この世界は我々の考えとは、違う仕組みで動いているのでは無いかと思えて来たのだ。


 そして、旅の目的はこの時より真実の探求へと変わる。この世界の真実を知る事が、私の生きる意味へと変わった。



 ――そして、私はこの時から狂い始めたのだ……。



 私は祖国を救うという大義を失った。それにより、真実の探求以外への興味を失ったのだ。


 我が師を崇める者達でも無い。私が救う義理など無い。そう考え、多くの人々を見捨てて来た。


 世界の真実に迫るには、余りに時間が足り無かった。私は師より預かりし杖を用い、自らを死霊へと転ずる邪法まで編み出した。


 やがて私は、かつての同胞が作った『死を祀りし地下神殿』。その廃墟に引き籠り、一人で実験を繰り返す日々が続く。


 自ら世界を回る必要など無い。召喚した使い魔に行かせれば良い。彼等の目へ接続し、地底の底から世界を覗き続けた。


 そして、とうとう私は見つけ出したのだ。各国の王が隠し持つ『トゥルー・バイブル』という書物を……。


「やはり、魔術やスキルは神々の加護では無い……。それとは別に動くシステムなのか……」


 各ジョブに就く者は、それに対応する神を崇める。それによって、神から加護を得ている。それが世界の常識である。


 しかし、私も薄々は気付いていた。神を崇めていなくても、ジョブに就き、スキルや魔術を修得できる。その常識が誤りであると。


 何せ、私が崇めるのは師のみ。しかし、スルラン神が司る神聖魔法を私は使える。そこに矛盾があるとは理解していた。


 そして、最終的な決定打は最後の弟子の存在である。私の元に訪れた、元弟子であるゲイルの育てた子。



 ――アレクは無神論者であった。



 どの神も崇めず、神の加護なんて無いと考えている。それは異世界から転生して来た、過去の価値観があっての考えだろう。


 だが、そんな彼が魔術やスキルを使いこなしていた。それは魔術やスキルが、神の加護では無い証明に他ならなかった。


 私は彼の視点に大いに興味を持った。異なる視点を持つ彼なら、世界の真実に何かしら気付くのではないかと。



 ――だが、そんな考えは初めの頃だけだった。



 彼と接する時間が増えるにつれて、私はアレクという存在が何なのかに気付き始めたからだ。


 そもそもの切っ掛けは、彼が死霊術師ネクロマンサーへ転職した直後。彼は幼馴染の魂が見えると言い出したのだ。


 最上位の死霊となった私でも、魂の視認なんて出来ない。それが出来るのは、我が師かそれに属する神々だけである。


 更には、アレクが死霊術師ネクロマンサーのレベルを上げる毎に、彼が師に似た気配を漂わせ始めたからだ。


 それは間違い無く『死を司る』力。死者にだけ感じる事が出来る、特別で穏やかな気配である。


 死者であるならば、誰もが彼に頭を垂れたくなる。彼に従いたいと思わせる、王の資質でもあった。



 ――けれど、と私は考える……。



 アレクは恐らく師の眷属。余りにも未熟で、誰かが育てる必要があると感じていた。


 そして、私はこの巡り合わせが師の采配だと気付く。かつての務めを放棄した私に、師はこの子を育てろと命じているのだ。



 ――私はまだ、見捨てられていなかった……。



 私の心が歓喜で満たされた。死から逃れる為に、私はアンデッドへと転じた。最早、今の私は師に合わせる顔が無いと思っていた。


 けれど、師にとっては未だに私は弟子なのだ。不詳の弟子であれども、決して見捨てずに、見守ってくれていたのだ。



 ――ならば、私の成すべき事は一つ……。



 私はこれまで知り得た真実を、全てアレクに叩き込んだ。世の常識に捕らわれず、正しき選択を取れる様にと知識を与えた。


 それは実に心が満たされる時間であった。かつて育てた我が子に弟子達。彼等と過ごす日々を思い出させてくれた。


 アレクとの出会いが、私に初心を思い出させてくれた。私が初めに願った想い。



 ――誰かに何かを残したい……。



 無意味に死にたくない。生きた証を残したい。そう願って、幼い私は一度目の人生を終えた。


 そして、その願いを聞き届け、我が師は第二の人生を与えてくれた。この力を授けて下さったのだ。


 初心を思い出した私は、アレクと日々を過ごす中で、自分の考えが変わって行くのを感じていた。



 ――思い残す事は無い。今ならばもう……。



 私の生きた証は十分に残せた。神の子であるアレクに、自分の人生の全てを託せたのだ。


 これ以上の生に、どんな意味があるのだろうか? これ以上はもう、ただの惰性ではないか?


 そう思うと同時に、私は自身の身を思い出す。最上位の死霊である私は、既に死ぬ事が出来ない。私を滅ぼせる存在すら存在しない。


 もしそれが可能なのだとしたら、それは我が師かその眷属となる。可能であるならば、最後は我が師の胸へと帰りたい……。


 だが、そんな願いが叶うとは思えない。私は一抹の寂しさと共に、アレクに対して最後の講義を終えるのだった。

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