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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十四章 ヴォルクス帰還編

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アレク、ヴォルクスに舞い戻る

 商業都市ヴォルクス。その中心地に、ヴォルクス城が聳え立つ。


 そして、そのヴォルクス城には、複数の施設が併設されている。


 その一つとして、城の裏手側には、兵士訓練用の広場も用意されていた。


 ――その広場に、一匹のワイバーンが舞い降りた。


 当然の如く、その背に乗るのはボクだ。ヴォルクスへの移動に、職権乱用させて貰った。


 そして、ボクはワイバーンの背から下り、騎手へと謝礼の言葉を送る。


「助かりました。これで、第一目標はクリアです」


「お役に立てたなら何よりです。ここで、健闘を祈っています」


 ワイバーンの上で、返事を返す騎手。敬礼の姿勢は取るが、その口元は笑っていた。


 金髪の髪に、青い瞳の青年。彼の名はスタンリー=ハワード。ルージュの兄である。


 事情を説明したら、作戦に全面協力してくれた人物である。


 ボクはヴォルクス城の正門へと視線を送る。次に向かうべきは、あちらの方角だ。


 しかし、ヴォルクス城の裏口より、複数の兵士がこちらに向かうのも見えた。


「ワイバーンだと……! これは一体……!?」


 事前の連絡無しに、城の敷地内にワイバーンが降り立った。兵士が出て来るのは当然だろう。


 とはいえ、今は彼等に構っている時では無い。優先事項は別にあるのだから。


「ア、アレク様……! それに、スタンリー兄様まで……!?」


「スタンリーさん、後はお願いしますね」


「お任せ下さい。私の方で話しを付けておきます」


 どうやら、兵士の一人はスタンリーの弟で、ルージュの兄に当たる人物の様だ。


 確かに、ルージュから聞いた記憶がある。兄が領主の私兵団で働いていると。


 ならば、スタンリーが上手くやってくれる事だろう。


 ボクは兵士の対処をスタンリーに任せ、正門に向かって歩き出す。


「ち、ちょっと……! アレク様、どちらへ……!?」


「ニコル、今から面白くなる所だぞ! 黙って見ているんだ!」


 その説明もどうかと思う。スタンリーもやはり、ヴォルクスの出身者と言う事か……。


 ボクは内心で溜息をつく。もはや今更なので、彼等を無視して正門へと向かう。


 そして、正門に辿り着くと、そこにはボクを待ち構える人物が立っていた。複数の護衛を従えて……。


「どうして、アレクさんがここに……!?」


 待ち構える人物はポルクだった。今は冒険者用では無い、領主としての服装を纏っている。


 対してボクは、久々に着る白のローブ姿。最近は貴族用の服装が多く、着る機会が無かった服装である。


「アンリエッタを迎えに来たんだ。悪いけど、城門を開けて貰えないかな?」


 今は朝早い時間という事もあり、城門は閉ざされていた。もう少し遅い時間なら、城門も開いていたんだけどね。


 そして、ポルクはボクの顔を見て、何かを察したらしい。彼は背後の護衛に指示を出した。


「アンリエッタ姉さんが戻るそうです。門を開く様に伝えて来て下さい」


「ハッ! 承知致しました!」


 護衛の一人が駆けて行く。程なくして、ヴォルクス城の城門が開かれた。


 ボクはゆっくりと前に出る。開かれた城門をくぐり抜けて行く。


 ここからは、ヴォルクスの街並みが良く見えた。周辺に広がる貴族街。その先に続く、市民街まで。


 ――そして、こちらに向かう一台の馬車も。


 ロードランナーに引かれた馬車。領主家の人間が乗るだけあり、当然の様に豪華な外装をしていた。


 その姿を眺め、ボクは静かに待つ。遠く離れたその姿が、ボクの元へと辿り着くまで。


 そして、ポルクも無言で待つ。ボクのやる事を、信じて見守り続けていた。


「――アンリエッタ!」


 ボクは声を張り上げる。馬車が貴族街に入り、声の届く距離に入った為だ。


 そして、その声により、ボクに気付く街の人達。何人かの人は、建物から顔を出していた。


「ボクが悪かった! ボクが間違っていた!」


 ボクの声は届いている。アンリエッタは必ず、この声を聞いているはずだ。


 そう信じて、ボクは声を張り上げ続ける。


「自分の心を、蔑ろにしていた! 何が大切なのか、見失っていたんだ!」


 そして、馬車がボクの元へと到着する。ボクの元で、ロードランナーは足を止めた。


 ボクは続けて、アンリエッタへと訴えかける。


「もう一度、やり直したい! 皆が笑顔になれる、そんな答えを見つけたいんだ!」


 ボクの声が届いたのだろう。馬車の扉がゆっくり開く。


 そして降り立つ一人の人物。その人物はアンリエッタ――ではなく、セスだった。


「アンリエッタ……?」


 馬車からアンリエッタが下りて来ない。その事に、ボクは無性に焦りを感じる。


 セスは何故か、困った表情でこちらを見るだけだった。


「ギリーが叱ってくれたんだ……。それで、気が付いたんだ。ボクは一人じゃダメなんだって! 一緒にいる人が必要なんだって!」


 ボクの言葉が、アンリエッタに届いていないのか……?


 だから、ボクに姿を見せてくれないのだろうか……?


 そう思うと、焼け付く様な痛みが胸に広がった……。


「ボクはこれまでも、何度も間違って来た! その度に、仲間達が叱ってくれた! ボクの間違いを正してくれたんだ!」


 人々から英雄と呼ばれても、所詮はボクも只の人だ。全ての答えを知っている訳じゃない。


 正しいと思って進んでも、間違う事はいくらでもある。一人で悩んでも、良い結果になるはずが無いのだ。


「だから……。だから、ボクの隣にいて欲しい! これから先も、ずっとボクの隣には、アンリエッタが居て欲しいんだ!」


 アンリエッタだって、完璧な人間では無い。間違う事も、空回りする事もあった。


 だけど、アンリエッタは誰かを見守る時。誰かのサポートをする時に、その本領を発揮した。


 その広い視野が、何度もボクを助けてくれた。ボクは彼女の事を信頼していた。


 それは、ギリーやアンナに匹敵する程であった。


「お願いだ……。もう一度、ボクにやり直す機会を与えてくれ……!」


 ボクは心から願う。アンリエッタの許しを。


 失いそうになり、初めて気が付いた。どれ程、ボクがアンリエッタを想っていたのか。


 ギリーの言葉が無ければ、この機会すら無かったかもしれない。


 そう考えると、今になって恐怖を感じる程であった……。


「アンリエッタ……?」


 見ると、セスが手を伸ばしていた。自らの主が乗る、馬車に向かって。


 そして、そっと手を取り、優しく手を引く。ボクの想い人は、ようやくその姿を見せてくれた。


「う……。ひっく……」


 泣いていた……。


 子供の様に、ボロボロと涙を流し……。顔を伏せ、肩を震わせ……。


 ただ、泣き続けていた……。


「お嬢様……?」


 セスが優しく語り掛ける。温かな眼差しで、アンリエッタを見つめながら。


 そして、そっとアンリエッタの背中を押す。彼女が一歩を踏み出せる様に。


「そうだった……」


 セスはずっと、アンリエッタを見守り続けて来た。彼女が生まれてからずっとだ。


 そして、今はユリウスさんが亡くなっている。アンリエッタにとって、セスは親にも等しい人物だろう。


 ボクはセスへと視線を向ける。その視線に気付き、セスはボクへと微笑み、頷いて見せた。


 そして、ボクはその思いを受け取る。セスはボクに、後の事を託してくれるらしい。


「アンリエッタ……。ボクには、君が必要なんだ」


「うん……」


 アンリエッタは小さく頷く。涙を流し、言葉にならず。


 そんなアンリエッタに、ボクは言葉を重ねる。


「また、ボクは間違えるかもしれない。その時は、君がボクを叱って欲しい」


「うん……。うん……!」


 何度も頷いて見せる。言葉にならなくても、その姿がボクへと伝えていた。


 アンリエッタは、ボクの事を怒ってすらいなかったのだと……。


「もう一度、やり直そう。二人なら、きっと上手くやれるはずだからさ?」


「アレ、ク……!」


 アンリエッタが走り出す。まともに前も見ずに……。


 そして、転びそうになる。ボクは慌てて、アンリエッタの事を抱きとめた。


「ちょっと……。危ないよ……?」


「だって……。だって……!」


 腕にしがみ付き、顔を上げるアンリエッタ。その顔は、涙と鼻水でグチャグチャだった。


 アンリエッタは、そのままボクを抱きしめる。ボクの胸に顔を埋め。


「おうふ……」


 まあ、良いんだけどね……。洗濯すれば良いだけだし……。


 胸に広がる冷たい感触。ボクは苦笑を浮かべ、アンリエッタを優しく抱き返した。


 ――と、そこでボクは、周囲の状況に気付く。


「「「うおぉぉぉ……! 流石、オレ達のアレク様だ……!!!」」」


「「「アンリエッタ様……! おめでとう御座います……!!!」」」


 周囲には、かなりの数のギャラリーが集まっていた。その全てが、ボク達に拍手を送っている。


 振り向くと、城の兵士達も拍手を送っていた。その数も、かなり膨れ上がっている。


「ま、まあ……。良いんだけど、ね……」


 ボクは苦笑を浮かべる。若干、顔が引きつるのを感じながら……。


 そして、ポルクとも視線が合う。彼も同じく苦笑を浮かべていた。


 ただ、その瞳は赤く、涙が溜まっていたが……。


「はあ……。これでこそ、ヴォルクスって感じだね……」


 こうしてまた、ボクは一つの伝説を残した。


 この先、ヴォルクスで長く語られる恋愛物語を……。

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― 新着の感想 ―
[一言] ストーリーが面白いから変な恋愛ストーリーは入れない方が良いと思う。。
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