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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十一章 レクイエム編

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アレク、最終講義を受ける

 今日は月に一度のガウル訪問日。何だかんだで、この活動も一年近く続いているな……。


 まあ、ボクにとっても、悪い事ばかりではない。ガウルから、様々な知識を得る事が出来ている。その知識は、ゲームと現実の差をかなり縮めてくれたと思う。


 そして、ボク達はテーブル越しに向かい合い、いつも通りに会話を行っていた。


『カーズ帝国とペンドラゴン王国……。人の世は、そんな事になっているのか……』


「ええ、何とか戦争は回避したい所なんですけどね」


 ちなみに、今日は珍しい事に、ボクから説明を行っている。ボクが訪問するとすぐに、人間社会の世情を知りたいと言って来たのだ。


 実際に説明してわかったけど、ガウルはここ数十年の出来事を殆ど知らなかった。どれだけ引き籠って、研究してたんだって話だよね……。


「それにしても、急にどうしたんですか? 人の世に興味を持つ何て……」


『ん……? ああ、これから旅に出ようと思ってな。念の為の下調べという奴だ』


 は……? 旅に出る……? ガウルが……?


 ……いやいやいや! それはちょっと、洒落になって無いよね!?


 ガウルの種族は『ロード・オブ・デス』。アンデットの最上位種族である。悪魔公ダークレムとかの、伝説クラスと同列となる存在なのだ。


 そんな存在が放浪とか、どんな悪夢だって話だよ……。森を歩いていたら、野生の魔王に遭遇したって位、理不尽な状況になるんですけど……。


 ボクが茫然としていると、ガウルは楽しそうに肩を揺らす。


『くっくっく……。何も人の世に、混乱を齎そうという訳では無い。旅の間は、こうやって人に化けるつもりだ』


 そして、ガウルは右手の人差し指を撫でる。そこには緑の魔石付き指輪が嵌められ、彼が撫でる事で僅かな輝きを放つ。


 すると、ガウルの体が人の姿に変わる。漆黒の骨で構成された、アンデッドの姿では無くなった。


「幻影の指輪というマジック・アイテムだ。伝説級のアイテムである為、人の持つ能力では、真の姿を見破る事は不可能だろう」


「へえ……。そんなアイテムが……」


 確かに、伝説級の効果なら、解呪ディスペル等も通用しない。気配等も誤魔化すだろうから、上級職の探知スキルすら、誤魔化せる可能性が高い。


 ……とはいえ、ガウルの姿は六十歳程の老人だった。肩まで掛かる長い白髪と、鋭い眼光が特徴的と言える。


 しかし、強そうには見えない。着ているローブが高価そうな為、一人で歩けば夜盗か何かに狙われそうだな……。


「くっくっく……。アレクの考えなら予想が付く。一応、護衛役の使い魔も用意しておいた」


「使い魔……?」


 ガウルは器用に指を鳴らす。すると、空間に裂け目が生じ、そこから一人の男が姿を現した。


 彼は二メートル近い巨体に、褐色の肌を持つ男性だった。年齢は二十程に見える。そして、全身を漆黒のフルプレート・アーマーで包み、背中に巨大な剣を背負っていた。


 ……パッと見た感じは、凄腕の騎士っぽい感じにも思える。


 彼はボクを目にすると、一瞬だけその動きを止める。しかし、すぐにガウルへ跪いて見せた。


「お呼びでしょうか、ご主人様」


「うむ、これから旅に出る為、私の供をして貰うつもりだ」


「はっ、承知致しました」


 その戦士は立ち上がると、そのままガウルの背後へと回る。そして、背中に手を回し、護衛らしく直立不動の姿勢を取る。


 うん、正面から見ると、凄い圧力を感じる。こんな護衛が控えていれば、普通は手を出そうと思わないだろう。


「えっと……。彼は使い魔なんですか……?」


「うむ、悪魔の魂を核とし、ホムンクルスの体を与えてみた。魔力供給に魔石の投与が必要だが、激しく運動しなければ、それ程の量は必要としない造りとなっている」


 オリジナルで、人造人間を作ったって事だよね? また、無茶苦茶な事をやってるな……。


 まあ、ガウルの言う事なので、一々ツッコムだけ無駄か……。


「それで、どうして急に旅に……?」


「ああ、最近わかった事なのだが……。我々の知る創世神話は、どうも間違っているらしいのだ」


 創世神話……? 何の事だろうか……?


 思い当たる知識が無く、ボクは首を傾げる。すると、ガウルの講義が開始された。


「神話については神学者の分野だからな……。そして、その知識の殆どが、聖教会の聖書に由来している……」


「ああ、例の聖書ですか……」


 ボクの呟きに、ガウルは小さく頷く。彼はテーブルに片肘を付き、拳の上に顎を乗せる。


「ざっくりと言えば、光と生命の神スルランが生まれ、彼が五つの力を創造した。それが、火、水、土、風、空間を司る竜である。彼等の存在によって世界が誕生する。そして、スルラン神があらゆる神々と、生命を生み出したという内容だ」


「それが、正しく無いという事ですか?」


 ボクの問いに、ガウルは再び頷く。そして、椅子から立ち上がり、ゆっくりと部屋を歩き出した。


「別の記録によれば、世界にはまず、光と闇が生まれた。それが、スルラン神とスレイン神である。その二柱の神は夫婦神である」


「え……? スルラン神とスレイン神は、夫婦神なんですか……?」


 ガウルは何も反応しない。ただ、思い出しながら、続きの話しを口にする。


「何もない虚無に、母なるスレイン神が空間を作り、大地と海を創造した。そこに、父なるスルラン神が火と風を起こし、時を作り出した。こうして、生命が活動可能な世界が誕生した……」


 まずは、スレイン神が受け皿を用意した? そして、スルラン神が運動エネルギーを作った?


 ――いや、それだけじゃない……。


 スルラン神は時を作り出したと言っている。聖書と異なり、世界を構成するパーツが、一つ多い事になるが……。


「スルラン神は、世界に生命を生み出した。こうして、世界には人類が誕生する。更にスレイン神は、世界に死を生み出した。こうして人々は安らぎを得た……」


「安らぎ……?」


 死を肯定的に説明しているな……。前世でも、この世界でも、余り馴染まない考え方だ……。


「朝が来て生命は活動し、夜が来て生命は眠る。生と死は、これと同義である。世界はかくして回り、螺旋の如く成長し続ける。これこそが、この世界のあるべき姿である……」


「世界のあるべき姿……」


 その考え方は、これまでに聞いた事の無い内容だった。そして、ゲーム設定等にも存在しなかったはずだ。


 ならば、その創世神話は、誰が齎した物なのだろう? そして、本当に正しい物なのだろうか?


 ボクが疑問に思っていると、ガウルはニヤリと笑って見せた。


「この知識は、スレイン神の眷属が持つ知識だ。そして、興味深いのは、スルラン神を否定していない……。スルラン神とスレイン神は、同等の存在と考えているという事だ」


「えっと……。それって、どういう事ですか……?」


 ガウルが言った、興味深い部分がピンと来ない……。


 スルラン神側が、スレイン神を同等と見ている。だけど、逆はそうでは無いという事だろうか?


 ボクの質問に、ガウルが息を吐く。そして、やれやれと首を振る。


「スレイン神側の主張は、実に信憑性のある内容と思わないかね? だが、実際に世に溢れる常識では、その様な創世神話は記録にも残っていない……。それは、何を意味すると思う?」


 ガウルはボクへと視線を向ける。そして、ボクの回答をじっと待つ。


 どうやら、また回答を試されるみたいだ……。


「えっと……。誰かが、都合の悪い事実を、隠蔽している……?」


「そう……! その通りだ……!!」


 どうやら、ガウルの満足する答えだったらしい。ボクはホッと胸を撫で下ろす。


 しかし、そんなボクを他所に、ガウルは解説を再開する。


「誰が、何故、隠蔽した? そもそも、スレイン神の主張も、本当に正しい物なのか? 検証すべき項目は実に多い……。ならば、関連する遺跡を調査し、真実を探求すべきでは無いかね?」


「その為に、遺跡巡りの旅に出ると……?」


 ボクの問いに、ガウルは大きく頷く。そして、実に楽しそうに語る。


「私の持つ書物は、その全てが疑わしくなった……。ならば書を捨て、世に出るべきだろう? この様に心躍る旅は、生前ですら味わった記憶が無いな……」


「確かにそれは、未知を求める冒険と言えますね」


 ……ガウルの気持ちが、少しだけわかる気がする。


 新しく実装した新マップ。そこに挑む時、新たな発見を期待し、とてもワクワクした。生前のゲームの話ではあるが、その気持ちは非常に近いはずである。


 それに、今のガウルは、生活の為に冒険する訳では無い。知的好奇心という、自己満足の為に旅立つのだ。それはある意味、他の誰よりもプレイヤーに近い存在なのかもしれない……。


「ふふっ……。また、どこかで会う事もあるだろう。その時は、私の知り得た知識を、再び披露しようではないか」


「ええ、その時が来るのを、楽しみに待っています」


 ボクがそう答えると、ガウルがこちらへ歩み寄る。何事かと見ていると、彼は右手を差し出して来た。


 ――なので、ボクはその手を握る。


「ガウルに神の加護が有ります様に……」


「はははっ。死から逃れた私では、それは難しいだろうがね」


 意外な事に、彼の手は暖かかった。指輪の効果で、触感までもが誤魔化されるらしい。


 ……或いはその手、その顔は、ガウルの生前の物かもしれない。


 そんな他愛無い事を考えながら、ボク達は別れの挨拶を済ませるのだった。

第十一章は以上で終了となります。

次回は一話だけ、閑話を挟みます!

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