アレク、帰路に着く
今はロードランナー便の車中。ヴォルクスへ戻る途中である。
王都ブランと商業都市ヴォルクスの距離は、通常なら馬車で十日程となる。しかし、ロードランナー便なら、三日で到着出来てしまうのだ。
当然、費用は高額だが、全て領主持ちとなっている。ボク達は何も気にせず、のんびりと車中で揺られているだけで良い。
……まあ、その代わりといっては何だが、車内はポルクとアンリエッタが同席している。この辺りについては、今更どうこう言うつもりも無いんだけどね。
「それで、機嫌は直ったんでしょうか……?」
向かいに座るポルクが、恐る恐るボクへと尋ねる。
……いや、正確に言うなら、ボクの膝に座るアンナに対してだ。
「ふん……」
アンナはポルクの言葉を無視する。そして、ボクの胸に顔を埋める。
そんなアンナの様子に、ポルクは困った表情を、アンリエッタは楽しそうな笑みを浮かべていた。
「う~ん……。これは、嫌われてしまいましたかね……?」
「まあ、ヴォルクスに到着する頃には、機嫌も治ると思いますよ?」
ボクは苦笑を浮かべ、ポルクを慰める。彼は溜息を吐いて、背もたれに身を預けた。
そして、ボクはアンナの頭を撫でる。彼女はくすぐったそうに身じろぎする。
「それにしても、後の事を任せて良かったんですかね?」
「ハミルトンおじ様の件ですか?」
ボクの質問に、アンリエッタが首を傾げる。ボクはそれに頷いて見せた。
「ハミルトン侯爵なら問題ありませんよ。父様の友人だけあって、とても能力の高い人です。王族や貴族の方々を、上手く誘導してくれるはずです」
「それに、アレクの言葉も効いてますからね。あの状況でしたら、おじ様が居なくても、流れは変わらないと思いますわ」
ポルクとアンリエッタの二人は、ザナック侯爵を本当に信頼しているみたいだ。彼が失敗する事なんて、微塵も考えていないとわかる。
その態度に、ボクは安堵を感じる。丸投げした事は申し訳ないけど……。
しかし、上手くやって貰えると、この国は一つに纏まる事が出来るのだ。是非とも、頑張って貰いたい所である。
「逆に、邪竜の怨念は大丈夫なのですか? 封印が破られたりしないのでしょうか?」
「そちらは問題ありませんよ。火竜の加護を得た一族が、結界の守護を行っています。それに、何かあれば情報が伝わる様に、ザナック侯爵が手配済みです」
イベント地である『竜の渓谷』は、ペンドラゴン王国と飛竜王国の境にある。そして、ペンドラゴン側の領地は、ザナック侯爵が収めるノーウェイ領なのだ。
既に守護の一族へ使者を出しており、共同で警戒する体制が構築され始めている。余程のイレギュラーが無い限り、慌てる必要は無いだろう。
「では、予定通りに、我々は討伐の準備を進めれば良いのですわね?」
「ええ、準備には半年ほどの猶予があるでしょう。ゆっくりと、力を蓄えて行けば問題ありませんよ」
王都の派閥が纏まるのに、一月やそこいらでは無理だろう。かといって、悠長に時間を掛ければクーデターが起きかねない。半年位が無難なラインだと読んでいる。
そして、その半年後に『邪竜の怨霊』を討伐する。相手は不死属性のアンデッドなので、悪魔公と同じ聖属性が有利となる。装備も大半が流用可能なはずだ。
――と、そこでボクのマントが引っ張られる。
何事かと視線を落とすと、アンナがボクを見つめていた。
「今度は、私達も一緒に戦うから……」
「……ああ、そうだね。皆の力があれば、悪魔公より楽に倒せるだろうね」
ボクの返事に、アンナはニコリと微笑む。そして、再びボクの胸に顔を埋めてしまう。
その様子を見ていたポルクとアンリエッタは、穏やかな笑みをアンナに向けていた。
第十章は以上で終了となります。
次回は一話だけ、閑話を挟みます!




