再会
二十三話
キーアの軍隊長、カルマ=ニーアは優れた軍人だ。個人の戦力は大したことはないが、その戦術で数々の戦場で勝利を奪ってきた。いわゆる頭脳派だ。影鬼による混乱に惑わされず、すぐさま次の一手を打てたのも彼の指揮あってこそだろう。
そして、それだけの頭脳を持っているからこそ、思い知ることがある。世界には、どれだけ策を巡らそうとも、一太刀、一振りで覆す化物がいるということだ。
「この度は我が陣営へのご助力。まことにありがとうございます!」
カルマの敬礼の先には、騎士の兜に東洋の鎧という、ちぐはぐな格好の者がいた。サムライである。
「ヨイ。ソレヨリモ、現状ハドウナッテイル?」
「はっ。士気は上々。すでに突撃の準備も完了しております。あとは影鬼の出現を待つだけです」
カルマは頭を下げたまま話す。
サムライの兜を僅かに見るが、顔が完全に隠れており、表情が全く読み取れない。
(…化物め)
カルマはウィザードなどの超常の力を持つものに、良い印象を持っていなかった。戦術に長けるが故に、彼らの危険性を身に染みて理解していたのだ。
「ウム。迅速ナ対応、見事デアル。我ハ一旦本国ニ戻ラネバナラヌガ、突然ノ時マデハ此処ニ居ルトシヨウ。宜シク頼ム」
(ちっ、早く帰れば良いものを)
「いえ、滅相もございません」
心の中で毒づきはするが、サムライに異は唱えない。
(せいぜい兵士達の士気上げに使わせてもらおう。サムライが加勢に来たと伝えれば、意気込みも違ってくる)
「それはそうと、あの捕虜はどうなさいますか? 」
カルマはサムライが連れてきた捕虜のことを話題に出す。
「ドウスル、トハ?」
「恐らく、あれは連合国のウィザードです。排除できる時に排除しておくべきかと」
「殺スト?」
「はい」
無抵抗の捕虜の殺害は、禁止とされている。しかし、これを守っている国はほぼいない。敵の捕虜を養えるほど、余裕のある国がないのだ。大方が、捕虜として送還する前に、不慮の事故として処理している。
「…ナラヌ。本国ヘ送レ」
「なっ、しかし!」
「我ハ義ノ無イ戦イハシナイ。其レガ軍人トシテ正シイ行動デアッタトシテモ、此処ニ我ガイル限リ、其レハ間違イデアル。理解シタカ、賢明ナダケノタダ人ヨ。サモナクバコノ刃、ソナタニ向クダロウ」
サムライの手が刀に触れる。それだけでカルマは、自分に迫る明確な死を感じた。
「! し、失礼しました! すぐに、本国へ送還いまします!」
カルマは口早に言うと、逃げるように部屋を出た。
そしてその恐怖は自身の恥にかわり、その恥もすぐに怒りへとかわった。
「くそ、くそ、くそ! 何が義だ! 貴様のような化物に、人の義がわかるものか!!」
カルマは口から怒りを溢しながら、牢屋へと向かう。
「何故あのような化物に従わなければならない! 指揮官は私なんだぞ! 私が正いに決まってる!!…殺してやる。あの捕虜を! 」
そこには、いつものカルマの姿はどこにもなかった。
二十四話
マックスは、今度は集落の人々に紛れていた。
集落にキーアの軍が集まっていることを知り、咄嗟に身を隠したのだ。しかし候補生までは手が回らず、結果的に見捨てる形になってしまった。
(あの子には申し訳ないけど、この際仕方ない。ウィルとシズクを連れ戻す事だけに集中するか)
破壊のあとが残る集落を見て回る。
所々にキーアの兵隊が立っているが、数は少ない。おそらく、影鬼から相当の被害を被ったのだろう。
(この状況で敢えて攻勢にでたのか。向こうの指揮官もなかなかだな)
一通り見てまわったマックスだったが、少しも手がかりはない。それどころか、動きまわったせいで、兵士から怪しまれつつある。
(残すは地下だけだけど、これじゃあどうしようもないな。最悪、次は出陣のタイミングになるけど、どうするか)
マックスは地下への階段を見張る兵士を見る。
人数は二人。武装から接近戦は不向きに見える。
回りには他に人はいない。一瞬で無力化出来れば、騒ぎにならずにすむ。
(いちかばちか)
懐の斧に手を伸ばした時だった。
兵士の頭上に、青白い光が走った。
何故こんなことになったのだろう。
暗い檻の中で赤髪の少女は考える。
周りには、少女の魔力を抑える魔法陣が描かれている。普段なら簡単に破壊できる檻にも、今は手も足もでない。
「そういえば、あいつも言ってたっけ。お前は所詮、才能で出来た人間だって」
「まったく、その通りだ」
少女が声の方を見ると、指揮官を名乗っていた男がたっていた。
「一人で来るなんて、いい度胸じゃない。言っとくけど、一人や二人、道連れにするくらいは出来るわよ」
「ふん、言ってろ化物。貴様らでも、頭を吹き飛ばせば死ぬのだろう」
少女に小銃がむけられる。指揮官のカルマに脅しの気配はない。
(もしかしたらとも思ったけど、そう甘くもないか)
何故こんなことになったのだろう。
少女はもう一度考える。
常に最善を尽くしたはずだった。
目的を見違えず、妥協せず、信念を曲げず。だが、その結果は笑えるほど最悪なものだ。
努力に結果が付いてこない。どこにでもある話だ。努力をする者なになら、誰にでもおこりうるとわかっている。しかし、いざ自分にとなると、こう言わずにはいられない。
「…なんで、こんなことになるのかな」
努力した。妥協せず。信念をもって。ーたとえ、誰かさんが居なくなっても。
「死ね」
引き金に指ががかかる。少女に抵抗する気力は残っていなかった。
(あいつの墓参り、行っとくんだったな)
死を覚悟して目をつぶる。
しかし、いつまでたっても銃声は聞こえてこない。
かわりに聞こえてきたのは
「どうした?」
どこか懐かしい
「てっきり、爆破でもするものと思っていたが」
どこか腹立たしい
「まさか本当にピンチだったとはな」
そしてどこか愛おしい
「これは大きな貸しだぞ、エリエッタ。食堂の件はちゃらだな」
とうに死んだはずの悪友。ウィル=リーガスの声だった。




