迷える人達
十九話
「迷った…」
シズネは地下道に戻っていた。と言うより、迷っていた。
「おかしい。方向はあってるのに。戻るにも道がわからない。…どうしよ」
ウィルと別れてから、すでにかなりの時間がたっている。それにつれて、シズネの焦りも大きくなっていた。
(なんで私はいつもこう…)
「ゴアア…」
「!」
前方からの唸り声に身を隠す。岩影から覗くと、影鬼がこちらに歩いてきていた。
(影鬼!? なんでここに!? まさかウィルは)
悪い考えが頭をよぎる。シズネはそれを必死に振り払いながら、影鬼の様子を見ていた。
(大丈夫。今は影鬼から逃げることを、最優先に考えないと)
幸い、後方の道は急激に狭くなっている。逃げればすぐに、影鬼は追ってこれなくなるだろう。
(ぎりぎりまで観察してから逃げれば問題ない)
シズネは岩影に隠れたまま、影鬼を観察することにした。
体は相変わらず黒い魔力に覆われている。見える限り傷もない。
(でも、前ほどの荒々しさはない。どちらかと言うと大人しいような。ーえ?)
影鬼は思いがけない行動をとりはじめた。道端の巨石を持ち上げたかと思うと、その下の穴に入って行ったのだ。
シズネは、影鬼の姿が見えなくなったのを確認してから、穴を覗きに行った。
「これは…、抜け道?」
穴の下には階段が下へと続いていた。地下道よりも人工的な作りで、以外と綺麗で広い。影鬼が通れるほどだ。
「こんなものがなんで…。ううん、今はウィルを探さないと」
穴には入らず、影鬼が来た方向に走る。影鬼が来たということは、その先にあの場所が続いているはずだ。
「っ、ウィル!」
シズネは焦りのままに走り出した。
二十話
人々が列を成して、砂漠を歩いている。その中にはサムライと、赤髪の少女、そしてマックスの姿があった。
「にしても、律儀だなー候補生殿は。わざわざ集落まで送る必要なんてないのに」
「仕方ないでしょ。一時とはいえ、率いてきた人々を放って帰れないわ。せめて、集落までは送り届ける」
「まあ、サムライがいるなら、僕達は必要ないと思うけど」
自国の英雄がいるおかげか、人々は以前より明るい。それもそのはず、キーアの人々にとってサムライとは、国の象徴にしてキーア教の従順な使徒なのだ。
少女はやはり機嫌が悪いようで、さっきから拗ねたような口調で話している。
「あたなこそ、どこの誰だかは知らないけど、他のみんなに紛れて帰ればよかったじゃない」
「僕は僕で目的があるんですよ」
(集落に戻って、ウィル達を探さないとな)
他の隊員はシダに戻っていた。ここにいる連合国の人間は少女とマックスの二人だけだ。数的有利はもうない。
「集落についたら早く帰ってくださいね」
「わかってるわよ」
突き放す口調の少女に溜め息をつきながら、マックスは砂漠を歩く。高く登った日はすでに傾きはじめていた。
ウィルが目を覚ますと、そこに影鬼の姿はなかった。
「いったい何が」
思いだそうとするが、シズネと別れてからの記憶がない。まるで、白いもやがかかっているみたいだ。
「お目覚めかしら」
声の方向を見ると、銀色の髪の少女が立っている。
「お前はどこかで…。そうだ、港で絡まれてた」
「あの時はどうも、ウィル=リーガス君」
(! 名前を)
ウィルは身構えるが、少女に敵対の様子はない。
「そう身構えなくても、とって食ったりしないわよ。まあ、この状況なら仕方ないか」
「お前、何者だ」
リークに手を掛けて、違和感に気づく。コートの裏のリークに何本か、ウィルの物ではないリークが混じっていたのだ
「そうね。改めて自己紹介からしましょうか。私はエマ。あなたをスカウトしに来ました」
エマはそう言って、ウィルに手を差し出した。




