考察
九話
ウィルとシズネは、手元の火の明かりを頼りに、地下道を歩いていた。
地下道は思っていたよりも広く、それほど廃れてもいないことから、日常的に利用していた物なのだろうと、ウィルは推察していた。事実、この地下道は猛暑への対策であり、この集落でもつい先日まで住民に利用されていた物だ。
「…まただぞシズネ」
「…まただねウィル」
明かりで前を照らしてうんざりする。もう何度目かわからない別れ道だ。
地下道は恐ろしいほどいりくんでいて、まるで蟻の巣のようだ。今までかなりの時間をかけて進んできたが、いまだに出口の気配はない。
「次はどっちに行く? 右か、左か」
「右」
迷わないように、シズネは選んだ道をメモしてから道を進む。
道を明かりで照らすが何も見えない。やはり道のりは長そうだ。
「…ここから出たとして、その後はどうする?」
「…」
歩きながらウィル達は考える。
そう、本来の目的は敵ウィザードの暗殺なのだ。しかし、今の状況は計画からかなり離れている。どうにかして、事態の立て直しが必要だった。
「まずは、この集落のことから整理しよ」
「と言うと、影鬼か」
「うん。ここはランドール帝国からかなり離れてる。影鬼がいるのは不自然」
影鬼については未だに不明な点が多い。しかし、帝国の領土でなければ活動できないのは確実とされていた。これは今までの経験と、帝国内からのリーク情報を照らし合わせた結果で、事実ウィル達も学校でわっているほど、確かな物とされている。
しかし、現実として影鬼はこの地での活動ができている。
「仮に領土外の活動が可能なら、もっと大きな戦いに出してくるはずだ。こんな辺境の地に出してくる意味もわからないな」
キーアと連合国からすれば、国境を決める大事な場所だが、帝国にとってはさほど重要でもない。砂漠ということもあり、土地的価値も低いだろう。
「となると…偽物か?」
「それはない」
シズネが即答する。声には確信に近い物が感じられた。
「あれは本物だった。間違いない」
「以前にも見たことがあるのか?」
「…」
珍しくシズネが黙りこむ。
(よほど聞かれたくないのか?)
「悪い。踏み言ったことを聞いた」
「?」
「どうした?」
「…ううん。そんなことで謝ると思わなかったから」
「そんなことって…」
言いかけてウィルは考える。
(待て。俺は何で謝ったんだ?)
さっきの問いかけは、シズネの発言に確信を持つために必要な事だ。言って当然で、ウィルに落ち度は無いはずだ。
「…フフ」
見ると、シズネが笑いをこらえている。
「…なんだよ」
「なんでもない」
「ないわけないだろ!」
逃げるシズネを、ウィルは半場やけになって追いかけた。
十話
「はぁ、つっかれたー」
赤髪の少女は上り始めた太陽を背に背伸びをする。目の前には、この集落の人々があつまっていた。皆、状況が飲み込めておらず、右往左往している。
「戦闘より、正直こっちをまとめる方がしんどいわね。少しは自分達で考えて行動してほしいわ」
愚痴をこぼしながら、朝食のパンをかじる。味はお世辞にも旨いとは言えない。
「はぁ、せめてチーズトーストにすれば…。って、言ってても仕方ないか」
少女は残りのパンを一気に食べると立ち上がり、集落の人々に向き直った。
「全員聞きなさい! 先程偵察の者が村を回って見たけど、影鬼の姿はなかったわ! 日中の活動が出来ないのは確かなようよ!」
人々から歓喜の声が上がる。
「しかし、状況は昨日と変わってはいない! 今夜も上手く凌げるとは限らない! そこで私たちは、この集落を放棄し連合国の町、シダに逃げることにする!」
今度は人々から困惑の声が上がる。
当然のことだ。それはつまり、少女らがこの集落の人々を見捨てると言っているのも、同然のことだからだ。
「そこで、あなた達にも選択指を提示する! 一つはこの村に残り、影鬼が去るのを待つ! 二つはキーアの国境まで自力で逃げる! 最後は私達と共にシダの町に来る! もちろんその場合は、亡命ということになるけどね」
人々はやはり混乱しているようだった。
一つ目の提案はあって無い様なものだ。例え凌げても、もうこの集落は機能しないからだ。
二つ目もやはり不可能。ここからキーアまではかなりの道のりだし、第一防衛ラインは影鬼によってめちゃくちゃになっている。とても難民を受け入れられる状況ではない。
「共に来るものは直ちに荷物を整えなさい! 今から二時間後にはここを発つ! 以上!」
言い終わると、少女は小屋へと入っていく。そこは、連合国の偵察部隊が集まっている場所だった。
「さすがです、候補生殿」
偵察隊の一人が近づいてくる。
「まさか集落の者の事まで考えているとは。大半の者は大人しく付いて来るでしょう」
「そんなんじゃ無いわよ」
少女は地図を見ながらぶっきらぼうに答えた。
「こちらの情報がキーアに漏れて欲しくないだけ。万が一にもキーアにたどり着かれたら、折角の情報をばらすことになる。それは私の進級に関わるから。わかったら早く下がりなさい」
隊員はあっけにとられたようだ。そのまま何も言わずに奥の方へ戻っていく。
(シダまで約半日。予定通りなら日没までに充分間に合う。ただ気がかりなのは…)
少女はその後も地図を睨み続けていた。
(おっかねぇ~!)
少女に声をかけた隊員は、部屋の端に座り朝食をたべていた。
(あれの下はきついだろな~。まったく、我らが隊長とは大違いだ)
「おいお前!」
「っ、はい!」
食べかけたパンをつまらせながら返事をする。
「集落の人数を調べておけ。今すぐにだ!」
「はい、わかりました!」
残りの朝食を諦め、外に出ていく。
(はぁ、何で僕がこんなことを)
何を隠そうこのしたっぱ隊員こそが、自称情報の神、マックスだった。




