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アサシン クロニクル  作者: キツネ
火に飛び入る砂漠の虫
36/46

燃える集落

五話


◆キーア暦144 4月17日◆

「さ、寒い。凍え死ぬ」

シズネはウィルの後ろを、ぶるぶる震えながら歩いていた。

砂漠の夜は、昼では考えられないほど寒くなる。マフラーがあることを、これほどありがたく感じたことは無いかもしれない。

ウィルはというと、いつものことだが、こんな状況でも平然としている。まるで、自分のほうが後輩みたいだ。

あと一時間ほどで目的の集落。集落につけば、いつ戦闘になってもおかしくない。その前に、シズネはウィルに聞いておかなければならない事があった。

「ウィル、聞き忘れてたけど、あの魔術を無効化する技はなんなの?」

そう、リビア戦でのあの技である。ウィザードの魔術を無効化するなんて、今まで聞いたことすらなかった。上手く使えば、これからのウィザード戦でもかなり有効なはずだ。

「無効化? ああ、術式破壊スペルブレイクのことか。何てことはない。あれは呪術解除の応用だよ」

「呪術解除…」

シズネも呪術解除については知っていた。主に呪いや拘束等の魔術を解除する物だ。魔術の基盤である術式そのものを破壊することで、魔術の発動を阻害し無効化する。

しかしこれは、魔術の注意深い観察と繊細な干渉を経てやっと成功する。分類的にも回復魔術に属する。シズネの知る限り、とても戦闘に使えるものではなかった。

「もちろん、ただの呪術解除じゃあない。魔力探知で大まかな術式を知覚し、そのなかでもっとも脆い部分、綻びを破損させる。こうすることで、あとは魔術が勝手に暴発して無効になるって訳だ」

なるほど理屈は通っているが、口で言っているほど簡単なことではない。術式の綻びを一瞬で見つけるなど普通はできないし、ましてや戦闘中にそれを行い破損させるなど、ウィザードにも不可能だ。

並外れた魔力探知と観察眼を持っているウィルだからこそ、成せる技なのだろう。

(問題は…)

「それはウィルが思い付いた技なの?」

しかし、シズネには引っ掛かることがあった。それは、どうやって修得したかということだ。

「いや、学生時代にとある教官に教わったんが、それがどうかしたか?」

「…何でもない」

もちろん、何でもない訳ではなかった。

本人は気づいていないようだが、ウィルの技術はいわゆる神業の域の物だ。とても学生時代に習って修得できる物ではない。しかし実際、ウィルはたったの数年で修得している。これは明らかに異常だった。

(やっぱりウィルは普通じゃない。それに、教官の方も怪しい)

確かめる必要がある。シズネがそう決心した時だった。

ズン…

「!」

「っ、何だ!!」

前方が突如光り、低い轟音が駆け抜けた。遅れて爆風吹き付ける。

(爆発!?)

シズネは懐から望遠鏡を取り出すと、光りの方向を覗く。

「うそ…」

そこには信じられない光景があった。

「集落が、燃えてる…」



六話


◆キーア暦144 4月16日◆


ウィル達を見送ったマックスは一人シダに残り、先遣隊の情報をあらっていた。

「隊員五十二人に加え、シークレットの諜報員が五人。九人がA級以上の魔術士、内一人はウィザードと比べて遜色ないときたか。まさしく少数精鋭。だからこそ分からない」

(何があった?)

これだけの部隊が、簡単に全滅するとは思えない。例えウィザードに遭遇したとしても、半数は帰還できるはずだ。それが未だに一人も帰ってこない。

「どっかでサボってたりして…。なーんてな! こんな砂漠のど真ん中で何を」

「っ、報告します!」

「!」

突然、ドアを開けてボロボロの男が駆け込んできた。よく見ると、シークレットの諜報員の一人だ。

「敵本陣の情報収集中、本陣にて『影鬼』と遭遇! 目標のウィザード、グラン=バッカーニの死亡を確認しました!」

「なっ!!」

「先遣隊は即座に撤退しましたが、大多数が犠牲に。生き残った数名の内、軽傷の者はシダまで撤退しましたが、重傷の者は途中の集落に逃げた込んだ模様です。恐らく『影鬼』はそちらに」

目標のウィザードの死亡については詳しく聞きたかったが、今はそれよりも重要なことがあった。

(本陣とシダの間にある集落は一つ。そこにはウィル達が…)

マックスはすぐさま砂漠用のコートを羽織り、準備を整える。

「町に避難勧告をだせ! 警備兵には敵襲に備えるように伝えろ!」

「! まさか部長!」

「仕方ないだろ。僕がいかなきゃ、誰があの二人を連れ戻すのさ!」

吐き捨てるように言い、マックスは夜の町に飛び出す。

日付の変わる、数分前のことだった。



◆キーア暦144 4月17日◆


「…行ってみよう」

「なっ、ふざけるな!!」

ウィルはシズネに食いかかる。

「あそこに行くなんて馬鹿げてる! 今すぐ引き返すべきだ!」

ウィルは集落を指差して言う。

望遠鏡など使わずとも、ここから炎の明かりが見える。集落は今もめらめらと燃え続けていた。

「行ったところで何が」

「冷静になってウィル!」

珍しく大声を出したシズネに、ウィルは思わず声を詰まらす。

「本陣との間にある集落はあれ一つ。でも、このままじゃ集落は無くなる。そうなれば計画は破綻。本陣に潜り込む術も無くなる」

「確かに、そうだが…」

シズネの言っていることは正しい。

集落の焼失は一般人に紛れる機会を失うことに直結する。そうなれば、潜入からの暗殺という作戦は使えず任務失敗。正確にいえば、より危険な作戦を実行する他無くなるのだ。もちろん、それは成功率の極めて低い物になるだろう。

生き残ることを考えれば、危険を冒してでも集合に行くべきだ。

(わかってる。ここで引くのは悪手、手詰まりになるだけ。それでも…)

生き残るためにも進まなければならないのに、何故かあの集落へは、絶対に行きたくなかった。

(嫌な予感がする。ウィザードの魔力を何百倍も濃くしたような)

「くそっ!」

この状況と自分に向けて吐き捨てる。納得はしてないが、決心はついた。

「わかった行こう。ただし、あくまで避難民に紛れるのが目的だ。不用意な戦闘は避ける。いいな」

「うん、わかった」

「目の前で人が死ぬとしても、だぞ」

「…わかってる」

ウィルは念を押して話す。

きっと、あの集落は悲惨な事になっている。人助ができる程悠長ではない。むしろ生き残ることさえも危うい。

確証はないが、そうおもうのだった。
















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