決着
五十七話
「すごい…」
ウィルの様子を、シズネは瓦礫の影から見ていた。次々に撃ち出される槍を、あるものは紙一重で躱し、あるものは跡形もなく打ち消す。それはもはや、ウィザード同士の戦いだった。しかし、それは決してウィルがリビアに追いついた訳ではない。
一瞬の隙をつき、ウィルがリークを水の盾に投げつける。盾は、その強度が嘘のように崩れ落ちた。かまわず撃ち出すリビアの槍に、ウィルは新しいリークを構える。だがその瞬間、魔術を発動させたのは、ウィルではなくシズネだった。
「術式付加・硬」
ウィルの持つリークが振るわれ、槍を霧散させる。
カラクリは単純。足を負傷し走れないシズネが魔術を担当し、ウィルが単独で対峙するというものだ。
魔術を発動しながら動き回るのは、意外と難しい。事実シズネの電撃も、狙い定めて撃つのと相手の攻撃に対応しながら撃つのでは、威力は倍ほど違ってくる。加えて、ウィルの魔術は基本中の基本で、魔術を習う者なら誰でも使える。適性Eランクのウィルより、Bランクのシズネの方が、高い性能で発動できるのは当然だった。
シズネが魔術だけに専念した場合、リビアの槍に匹敵する硬を保つ事が出来ると踏んだウィルは、中途半端な連携を捨て、単独での対決にうって出たのだ。
しかし、いくら強い武器を持とうと、使い手が弱いままでは意味がない。この作戦は、ウィルがリビアの猛攻を一人でさばききる事を前提としている。シズネはそこが一番心配だったのだが、それは杞憂ですみそうだった。
(何か勝機があると思ってたけど、ここまでとは。でも…)
槍をさばく度に、ウィルの動きはさらに良くなってきている。徐々に間合いを詰め、わずかに押しているかに見えるほどだ。ただ一つ、シズネには気掛かりな事があった。
(赤い、目?)
ウィルの瞳は、確かに赤く光っている。それは、レッドアイを彷彿とさせる物だった。
五十八話
リビアは無数に展開した槍を、ウィルに向かって撃ち込む。しかし、そのどれもウィルを捉えることは出来ないでいた。
(間合いを詰められれば、それだけこっちが不利になる。少しずつ後退するしかない。それよりあの赤い目。レッドアイと似てるけど違う。何かの魔術?)
後ろへ下がりながらリビアは考える。だが、すぐに思考を停止させた。
(そんなことどうでもいい。今すべきは…)
「水よ、わが矛と化せ」
「!」
リビアは自らの手に槍を作り出し、迫るウィルを迎え撃つ。ウィルはリークを振るうが、通常の槍と違い打ち消せない。
「驚くことではないでしょ。私がいつ、接近戦は出来ないと言ったかしら」
リビアは槍の間合いを使い、ウィルを牽制する。槍の投擲は無くなったが、槍術による攻撃がウィルに激しく襲いかかった。
「言ってろ。所詮付け焼き刃。すぐにボロがでる!」
一方のウィルもすぐさま対応する。振るわれる槍を全ていなし、リビアの隙を見つけては鋭い反撃を繰り出す。振るったリークは砕けたが、今度こそリビアの槍を打ち崩す。
「くっ。全く、どんなカラクリを使ってるのか!」
リビアは毒づきながらも、再び槍を作り出す。
その後もお互いの武器を壊し合う戦いが繰り広げられた。
二人の力量は拮抗しているかに思われた。しかし、それは長く続かなかった。
(残り二本!)
リークの残数が残り僅かとなっていたのだ。
小細工を使おうと、それで天才と凡人の差が埋まる訳ではない。水を素材に無限に槍を作り出し、圧倒的な力を振るうリビア。限られた武器をなんとか強化し、ひたすら弱点をつくウィル。地力の差が、ここに来て明暗をわけていた。
「そこ!」
リークの残数を気にし、一瞬動きが止まったのを見過ごさず、リビアが踏み込んで槍を突き出す。
「ぐ、あ!」
ウィルはなんとかリークを盾にするが、瓦礫にぶつかるまで大きくとばされた。
「勝負あったわね」
痛みに耐えながら見上げると、倒れるウィルにリビアが槍を向けている。
「あなたはよくやったわ。魔術士のくせに、ここまで食い下がるなんて」
ウィルは、手に持つリークが粉々に砕けていることに気付く。
「最後に一つ、聞きたいことがあるの」
「何だ、いまさら話すことがあるのか?」
「…私は仇のために、エルとウーラに酬いるためにあなたを殺す。ならあなたは、なんのために私を殺すの?」
リビアの問いに、ウィルは迷わず答える。
「自分のためにだ。…リビア、お前と同じ様にな」
「…どういう、ことかしら?」
リビアは唖然として聞き返す。
残るリークはあと一つ。絶望的な状況に、しかしウィルは思わず笑いがこぼれていた。
「吹き飛ばされたお陰で誘導できたか。運も実力の内とは、この事だな」
「どういう事かと聞いてー」
「なあリビア」
ウィルは向けられた槍を気にせず立ち上がると最後のリークを取り出した。
「電機分解って知ってるか?」
ウィルは最後の力を振り絞り、全力で後ろへ跳ぶ。逃がさず追撃しようとしたリビアは、思わぬ攻撃に阻まれた。
「電の柱」
いつ仕掛けたのか、シズネの魔術がリビアを囲むように、地面から撃ち出されていた。
「っ、こんなもの、すぐに」
「いや、これで終わりだ、リビア!」
ウィルは最後のリークを、リビアではなく井戸に向けて投げる。リークは井戸の蓋を貫いて、中へと落ちていく。それを見届けると、ウィルは魔術を発動させた。
「術式付加・火!!」
瞬間、イスカの町を凄まじい爆音と衝撃が襲い、夜空を明るく照した。




