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アサシン クロニクル  作者: キツネ
前水の陣
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最後の夜、最後の戦い

五十三話


夜のイスカ。その中央に、この町の地主であるリビア=カーナディアの城がある。戦前は、貿易も栄えていたイスカの町。その中心に位置するこの城は、貿易の一切を取り締まる場所でもあったため、古い建造物にも関わらずその大きさはかなりの物だ。しかし、どこにも城の警備は見当たらない。城の従者か殺害されたことも考えると、気味が悪いほど不自然だ。

「見張りが居ない。どういうことだ?」

充分に警戒しながら、城の敷地歩くのはウィルだ。黒いコートに黒いアタッシュケース。夜の闇に紛れるならもってこいの服装だ。

「中にいるのかもしれない。注意して」

ウィルの後を歩くのはシズネだ。黒いコートに大きな白いマフラーは、一見目立つため隠密行動には向かないように思えるが、常に物陰に隠れるようにして移動しているので、特に支障はないようだ。

城の三階を見上げると、とある一室に灯りがついている。

「よし、リビアは入浴中だ。予定通り十分後に作戦開始だな」

「うん、じゃあ気をつけて」

「シズネもな」

ウィルはシズネと別れると、城へと潜入し浴室を目指す。


五分後、ウィルは三階の浴室に到着した。城に入ってからも、ここに来るまで誰も居なかった。

(やはりおかしい。だが、俺達には後がない。罠だったとしてもやり遂げる以外に道はない)

浴室へと感覚を研ぎ澄ますと、確かにウィザード特有の押し潰すような魔力が感じられる。ウィルはアタッシュケースからリークを取り出し、万全の状態で作戦の開始を待つ。

(そういえば、今日は一段と調子がいいな)

正確には、イスカに来てからウィルの魔力感知は、ずっと上り調子だった。ダイヤの仕掛けを見破れたのも、その事が大きな要因だ。今日に至っては、リビアの魔力から彼女がどの位置いるのかも、手に取るように分かるほどだった。

十分経った次の瞬間、外からも分かるほどの電撃が浴室に流された。まばゆいフラッシュが治まるのを待たず、ウィルは浴室へと突撃する。完璧なタイミング、完璧な突撃、後はリークを振るうだけですぐにでも止めをさせるはずだった。

「こんばんわ。待ってたわ、ウィル」

「!!」

声を聞いたウィルは、反射的にリークを前方に投げ後ろへと跳ぶ。直後、ウィルのすぐ前を、投げたリークごと大量の水が床に叩きつけられた。音をたてて床が崩れ、反動で舞い上がった水飛沫で一気に視界が悪くなる

「くっ、この」

辛うじて人影を捉えたウィルは、コートから取り出したビンを頭上へと投げつける。ビンは高圧の水で砕かれたたが、なかの液体はリビアへと降り注ぐ。

術式付加・火スペルプラス・フレイム!」

コートから炎を纏わせたリークを投げる。リークが液体に触れた瞬間、リビアを囲むように燃え上がった。しかし、リビアに動揺は見られない。

水魚の加護(セイレーン)

すぐさま水の盾がリビア包み込み、迫る炎を全て防きった。

「こんな小細工で、私が殺せるとでも?」

盾を展開したまま、リビアは背後に水の槍を形成し、ウィルに狙いを定める。

回避のため、ウィルは横へと跳ぶ。だがそれは、水の槍を避けるためではなかった。窓の外に、高く跳躍したシズネの姿を捉えたからだった。

電の砲(エレクトガン)

窓を突き破り、リビアの背後から電撃が放たれた。電撃はリビアを飲み込み、さっきまでウィルがいた場所すら消し飛ばした。

「やったか?」

ウィルはリビアの方を見る。水蒸気が晴れていき、リビアの姿がはっきり見え始めていた。リビアは白いドレスに青い腕輪をしている。ドレスは動きやすいように、足の方に切れ込みがある。青い腕輪の方は、おそらくリビアのアイテムだろう。そして電撃の直撃にも関わらず、当然のように無傷だった。



五十四話


「さすがね。初見ならやられていたわ」

ウィルはすぐさま浴室を飛び出し、廊下の死角へと身を隠す。

「わからないな。水の盾でどうやって電撃を防いだ?」

ウィルはリビアに聞こえるように話し、シズネが合流するまでの時間を稼ぐ。

雷の魔術は水の魔術と相性がいい。場合によっては完全に無効化する事もある。ウィルは当初、水の盾ではシズネの電撃は防げないと考えていた。しかし、リビアに電撃によるダメージは見当たらない。

「確かに、通常の水魚の加護(セイレーン)は電撃に対して脆い。でも、対処法がない訳でもない。知ってる? 純水は水を通さないの。事前にわかっていれば、なんとでもなる。そんなことより、作戦がばれてたことには以外と驚かないのね」

「薄々勘づいてはいたからな。それよりリビア、ずいぶんと余裕そうだが、もう勝ったつもりか?」

ウィルはコートからリー取りだし、両手に持つ。階段がある方向を見ると、廊下の曲がり角からシズネが顔を覗かせている。

(この短時間で。さすがだな)

「事前に準備出来たのはお前だけじゃない。こちらはまだ、次の手がある!」

ウィルは魔力で身体能力を限界まで高めると、リビアに向かって走り出した。

「近接なら勝機があるとでも? 無駄よ。あなたでは、ここまでたどり着くことすらできない」

周囲に展開された水の槍が、ウィルを向かい打つように放たれる。ウィルはぎりぎりで避けて行くが、無数に繰り出される槍はとても避けきれる物ではない。しかし、ウィルが止まることはなかった。

「頼むぞ、シズネ」

水の槍がウィルの頭を貫く瞬間、後方から放たれた電撃が槍を打ち落とした。その隙にウィルは一気に接近する。

「なっ!?」

驚きながらも、リビアは続けて槍を放つ。しかし、そのどれもウィルには命中しない。

(思った通りだ!)

ウィルは教会と駐屯所でリビアの魔術を見てきた。そのどれも確かに強力な魔術だったが、単調な攻撃にも思えた。

(やはりリビアは戦闘経験が浅い。特に水の槍は、数こそ多いが狙いは甘い。これなら読みきれる)

ウィルは前もって、シズネにリビアの癖を教えていた。

対象の逃げ場を絞るような攻撃傾向。

からめ手は少なく、正面からの物が殆ど。

回避することは少なく、盾による防御が主体。

質ではなく、数で圧倒する戦闘スタイル。

そして、完全にコントロールして放っている槍は、多くて五本だけだということ。

(適当にばらまいている槍は、予測して避けられる。シズネにはそれ以外の槍、つまりコントロールされた槍を撃ち落としてもらえばいい)

ウィルの期待通り、シズネは確実に槍を撃ち落としていき、ウィルはついに三歩まで詰めよっていた。

「っ、は!!」

ウィルは片方のリークを、盾の囮にするために前方へ投げる。上手く誘導した水の盾を跳んで躱し、そのまま体重を乗せてリビアの喉元へとリークを降り下ろした。

「…嘘だろ」

ウィルは愕然とした。振り下ろしたリークはリビアの右手によって、摘まむように止められていたのだ。

「こういうの、白刃取りって言うのよ」

「がっ!」

わき腹に強い衝撃が走った。血の味が口の中に広がり、意識が遠退く。次に背中に痛みを感じ、ウィルは自分が壁まで吹き飛ばされたことに気づいた。なんと意識を繋ぎながら視線をあげると、リビアが悠然と立っている。

「いったでしょ、無駄だって」

リビアは水の槍を展開しながら話す。

「魔術士は正確には魔術的能力保持兵士のこと。名前だけは立派だけど、魔術師(ウィザード)に成れず兵士に回されただけの出来損ない。その中でもウィル、あなたは底辺の存在よ。そもそも相手にすらならないわ」

ウィルは体の状態を確認する。身体強力のお陰で背骨は無事だが、肋骨は何本か折れているようだ。

「ウィル!!」

シズネが立て続けに電撃を撃ち込む。電撃は全て水の盾に防がれているが、その衝撃はすさまじい。

「へぇ。あのちっさい彼女、思ったよりやるね」

「っ、術式付加・爆(スペルプラス・ボム)!」

リビアの注意がシズネに向いた瞬間、足下にリークを投げ爆発させる。舞い上がった粉塵に紛れ、体の痛みを無視してウィルはシズネの方へと走る。

「逃がさない!」

水の槍がウィルの背後に迫るが、それも全てシズネの電撃が撃ち落とす。

「ウィル、大丈夫?」

珍しく表情を変えたシズネが駆け寄ってくる。

「肋骨をやったが、動くのには問題ない。今は取り敢えず身を隠そう」

シズネの肩を借りながら廊下を走る。リビアが追ってくる気配はない。

「まさか只の身体強力で防がれるとはな。力の差は覚悟していたが、正直予想以上だ」

「ウィザードの身体強力は、魔術士のそれとは全く別物。仕方ない」

階段を下り一階を目指す。その途中で、ウィルは窓の外に奇妙な景色をみた。

「…月が、歪んでる?」

月だけではない。星も歪んで見える。まるで水の中から見上げているかのようだ。

「この魔力…、まさか!」

ウィルがその正体に気づいた時だった。


大海の空(オーシャンスカイ)


轟音を立てて、大量の水が城を押し潰した。

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