表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アサシン クロニクル  作者: キツネ
前水の陣
23/46

影は四つ、町を踊る

四十三話


◆キーア暦 2月10日◆


時刻は午後九時。この時間帯にリビアは入浴する。外から明かりが見えた時点で、ウィルは城内に忍び込み、シズネは外の銅線の所で待機する。灯りが見えてから十分後に、タイミングをみて電流をながし、動きを封じたところでウィルが止めをさす。作戦後は即時撤退し、町を離れて身を隠す。最後に、11日の夜に通る過ぎるリーファの船に乗り込み、トリスタに帰還、任務完了だ。

「…よし、人が少ない」

ウィルはあらかじめ細工しておいた窓から侵入する。いつもと違い、手にはリークのアタッシュケースを持っている。

もともと、大きさのわりに使用人が少ないため、気付かれずに浴室に行くのは簡単だった。

「まるで覗きみたいだな」

自分の行動にあきれながらも、三階への階段を上り、浴室へと向かう。ここまで順調だったウィルは、浴室の前で異変に気付いた。

「灯りが消えてる」

まだ、灯りが見えてから五分と経ってないはずだ。この間にすでに入浴をすませたとは考えにくい。

(まさか…)

「お話があります、ウィル様」

振り返ると、そこにはメイド姿のエルがいた。


シズネは城の裏から庭に侵入していた。

「確か井戸の近く」

目印の井戸をみつけポイントに到着するが、どこにも肝心の銅線がない。

「…」

シズネは不穏な気配を感じ、ヴァジュラを取り出す。周りに注意しながらもう一度探すが、やはり銅線はない。

「っ、誰?」

シズネは壁沿いにヴァジュラを向ける。

「いやはや、もう見つかるとは。さすがでございます」

喋りながら近寄ってきたのは、白髪のかみの老執事だった。

「お久しぶりでございます。覚えておられるでしょうか、わたくしウーラ=ウォンでございます。さっそくですが…」

執事はグローブを着けると、魔力を纏わせて構える。

「今一度、お相手いただきたい」



四十四話


コートからリークを取り出し、目の前にはエルに向ける。エルは相変わらずの、冷静な態度だ。

(こいつ、いつの間に。それに名前を)

ウィルは周囲に気を配っていたが、声をかけられるまで、まったく気付かなかった。

「浴室の細工はすでに回収しました。あなた方の作戦は失敗です」

「…で、捕まえようと。オレが大人しく捕まるとでも?」

リビアに見つかればそれまでだ。まずは、どうにかしてこの城から脱出しなければならない。

(強引だが、ボムで目眩ましをする。外にいるシズネにも、作戦の失敗は伝わるだろう)

ウィルはリークに魔力を通す。

「いいえ、そのつもりはありません。加えて言いますと、リビア様にもお伝えしていません。リビア様には、早めにお休みになっていただきました。」

「…どういうことだ?」

何故かエルに敵対の意思はないようだ。

「お話があります。場所を移させていただいても、よろしいでしょうか?」

ウィルはリークを構えたまま考える。

ウィルを捕まえるなら、今すぐにでもできたはずだ。場所を移すしてまで、罠にかける必要はない。ウィルにとってリビアの合流は、今最も避けなければならない事態だ。この城から離れてくれるのは、願ったり叶ったりだ。

(シズネのことが気がかりだが、ここは従うしかないか)

ウィルはリークをコートにしまうと、答えた。

「わかった。場所を変えてくれ」

「わかりました。では、ついてきて下さい」

エルは後ろを向いて歩いていく。ウィルも後に続いて歩いていった。


シズネは城を出て、町の中を走っていた。後ろからは老執事のウーラが追いかけてくる。

(速い!)

シズネは距離をとろうと、振り返りざまに電撃を打ち出す。しかし、ウーラは最低限の動きで回避し、逆に間合いを詰めてくる。

「ぬん!」

「っ!」

拳を繰り出すウーラに対し、あえて立ち止まり電撃を近距離で放つ。拳と電撃がぶつかり衝撃波が広がり、シズネの体は遠くに飛ばされる。だが、十分に有利な間合いをとることができた。

「銃は似合わないと思っておりましたが、なるほど確かに様になっている。並みの魔術士では相手になりませんな」

ウーラは立ち止まり喋る。衝撃を浴びたにも関わらず、ウーラにダメージらしきものはない。

「私を知ってるの?」

シズネはヴァジュラをウーラに構える。

「ええ。あなた様は覚えておられないでしょうが、以前、ガリアの丘で敵としてお会いしました」

「ガリアの丘…」

それはシズネにとって、忌むべき戦場の名前だった。

「しかし驚きました。あなたはあの場所で、戦死したと聞いておりましたので」

シズネはウーラの動きに警戒しながら、ウィルのことを考える。作戦が失敗したことは明らかだ。城内にいたウィルはすでに捕まっているかもしらない。

「ウィル様のことならご心配なさらず。今頃エルが相手をしているでしょう。それにこれは、わたくし達使用人の独断。リビア様はご存知ないことです」

「…意味がわからない。暗殺者の存在を、リビア=カーナディアに知らせない理由がない」

「リビア様はたいへんお優しい方です。死については、特に心をお痛めになられます。きっとウィル様が暗殺者と知っても、お許しになるでしょう。ですから、この件については内密に処理することにしたのです」

ウーラの言ったことは真実だろう。シズネはすぐに方針を決めた。

「それなら好都合。あなた達をここで殺せば、私達の正体を知る者はいなくなる」

ウーラとエルという使用人を殺し、作戦を仕切り直す。期限はまだ一日の猶予がある。対象に正体がばれなければ、作戦の続行は可能なはずだ。

「それはいい、こちらも存分に殺し合える。それに…この歳になって、積年の怨みををはらせるとは。長生きはするものですな」

ウーラは魔力と、凄まじい殺気を放ち構える。

シズネは電撃を放ち、ウーラは真っ向から拳を降り下ろした。


ウィルとエルは、少し広めの広場に来ていた。昼は人の多いここも、夜はひとけが全くない。

エルは広場の真ん中で立ち止まると、ウィルに向き直った。

「それでは、単刀直入に言います。母国を裏切り、リビア様に仕えて下さい」

「断る」

ウィルは即答する。

「何故ですか? 私の見た所、ウィル様は国への忠誠心で動く方ではないはずです。正体がばれ、作戦が失敗に終わった今、私の提案を断る理由はないでしょう」

確かに、エルの言うことは正しい。事実、裏切りも考えなかったと言えば嘘になる。しかし、ウィルに提案に乗る気はなかった。

「リビアに仕えた所で、先がしれてるからだ。断言してもいい。あいつは、戦場から帰って来れない」

「…どういうことでしょうか」

「あんたもわかってるんだろ。あいつに人は殺せない」

数日リビアと行動して、ウィルは気づいていた。リビアに人は殺せない。教会でも駐屯所でも、リビアは一度でも致命傷になる攻撃はしなかった。あのダイヤにさえも手加減をする始末だ。殺し合いの戦場で生きていけるとはおもえない。

「リビアが死ねば、使用人も行き場はなくなる。オレはこの国の人間ですらないんだ。野垂れ死ぬのは目にみえてる。だが、ここであんたを殺せば、作戦を仕切り直せる。先の知れた未来より、こっちのほうがオレはいい」

ウィルはリークを構え、戦闘体勢にはいる。相手は顔見知りのエルだが、迷いはなかった。

「…そうですか。おそらく、ウィル様の言っていることは正しいのでしょう。私達使用人は遠からず路頭に迷うことになる。それでも私は、最期までお嬢様の使用人であり続けるつもりです」

エルは背中に隠していたチャクラムを取り出した。

「残念ですが、ウィル様にはここで死んでいただきます。主を守るのが、使用人でいる私の役目ですから」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ