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アサシン クロニクル  作者: キツネ
前水の陣
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作戦会議

二十九話


「昨日の報告をする」

顔をぼこぼこに殴られたウィルは話が切り出す。

シズネはベットの上で、ウィルの作ったホットミルクをのみながら聞いている。

「まず、オレがリビアに雇われることになった経緯から話そう。城の調査ついでに教会も見に行ったんだが、そこで変な連中に囲まれて、助けてくれたのがリビアだ。だが顔を見られてしまったし、いっそのこと、雇われて城の内部まで潜入したほうが良いと考えた」

「わたしに相談は?」

「悪かったよ、今後気を付ける。請け負った仕事は、レッドアイ中毒者とその売人の排除だ。午後からも手掛かりを探して教会に向かったんだが、結局何もなかった」

「ウィルが城を出てからは、わたしもつけてた」

「なら、そのあとはわかるな。帰り道にピエロと遭遇し、そのまま戦闘になった」

「あのピエロ、薬の支店長とか言ってたよね」

「それに、オレの名前も知ってた。あいつがキーア国側の人間なら、今頃オレ達は捕まってるはずだ。だが、実際は捜索が行われてる様子さえない。正体がさっぱりわからん」

「ピエロの死体はなかったの?」

「今日見に行ったが、それらしき物は何もなかった。かわりに、見回りが二人行方不明になってる。死んでないと考えた方がいいだろう。最後にリビア側についての情報だが、リビアの他に二人、メイドと執事の魔術士がいる。ランクはDからCくらいだ。城の地下には牢獄もある。構造的に、下への広がりが大きいのかもしれない」

「浴室は?」

「まだ見つけてない。報告は以上だ」

しばらくの沈黙の中で、ウィル達は状況を整理する。昨日は、色々と予想外の事件が多すぎた。明日からは、慎重に事を進めなければならない。

「…まずはピエロを排除しようと思う」

先に話したのはウィルだった。

「暗殺に横槍を入れられたくない。なにより、オレ達の素性を知っている」

「それには賛成だけど、方法は? あのピエロの再生能力は異常だし、どこにいるのかもわからない」

シズネが全快なら、倒すことも出来るだろうが、わざわざ殺されに出てくるほど、ピエロも馬鹿ではないだろう。

「そこはリビアに協力してもらう。彼女の目的と一致するからな」

「でも、わたし達の素性がばれるかもしれない」

確かにリビアに正体がばれるのは絶対に避けなければならないことだ。ピエロの排除にリビアの協力を仰ぐのは、リスクが高すぎる。しかし、ウィルにはピエロが情報をばらさないという確信があった。

「あのピエロは、やろうと思えばいつでもオレ達の素性をばらせる。だが、実際はそうしていない。おそらく何か、言えない事情があるんだろう」

「…でも自分が本当に死にそうになったら、情報と引き換えに命乞いするかもしれない」

「だから、最後の止めはオレがさす。リビアのいない場所でだ」

ウィルは確かな自信があった。一度見ただけだが、なぜかピエロの取りそうな行動は、手に取るようにわかっていた。

シズネは納得がいかないようだったが、それ以外に最善策がないことを確認すると、首を縦にふった。

「…わかった。具体的にはどうするの?」

「そのことだが…」

ウィル達は一時間ほど話し合ったあと、それぞれ明日に備えて休むことにした。



三十話


◆キーア暦144 2月7日◆


「レッドアイの売人を見つけた」

場所はリビアの自室である。ずっと情報の整理をしていたのか、報告書があちこちに散らばっていた。

「…どういうこと、かしら?」

でかい椅子に座っていたリビアはポカンとしている。

「売人の頭はピエロの姿をした男だ。尋常じゃない再生魔術を使う。仕留めるには…」

「ちょっと待ってジャック!、昨日は急用で休んでだんじゃないの?」

ウィルはシズネのことで、昨日の仕事を休んでいた。そのため、リビアは一人で調査したのだが、これといった成果はなかった。自分が血眼になって探しても尻尾さえつかめない相手を、こうも簡単に見つけるとは信じられなかった。

「用事はあったさ。帰り道、偶然取引現場を目撃したんだ」

ウィルはシズネのことはリビアには秘密にしている。さすがに、二人とも顔がばれるのは避けたかったからだ。

「…釈然としないわね。まあいいわ、それでそのピエロはどこにいるの?」

「わからない。だが、当てはある」

ウィルは一枚の書類を手渡す。

「レッドアイの効力だ。基本的にはドーピングだが、筋力だけでなく、聴力、視力、敏捷性まで、身体能力を軒並みあげる優れものだ。副作用として痛覚や言語力が落ち、体に過度の負担がかかるため寿命を縮めることになるが、それに見合う効果がみこめる」

「これがどうしたっていうの?」

リビアもレッドアイについては最初に調べていた。しかし、このことが売人に繋がるとは思えなかった。

「確認するが、君はレッドアイの中毒者を見たことがあるか?」

「…何をいってるの?」

リビアはウィルが何を言いたいのかわからなかった。

「言い直そう。この町以外で、レッドアイの中毒者と呼ばれる人間をみたことがあるか?」

「いいえ。でも、この間だって教会にいたじゃない。ジャックも…」

「あの男達は中毒者じゃない」

「!」

リビアは驚きを隠せなかった。

「オレは以前、レッドアイ中毒者に会ったことがある。そいつは誰が見てもわかるくらいイカれていた。教会にいた男達とは比べられないほどにだ」

「で、でも、効力は薬の使用回数で変わるんじゃ」

「その紙に書いてある症状が、少しでも男達にあったか?」

リビアははっとして文字に目を走らせる。

筋力の増加、痛覚の麻痺、言語力の低下、どれもはっきりと症状に表れていた者はいない。

「薬を持っていることこそが、確実な証拠と思い込んでいた。無意識のうちに、薬の効力を低く見積もっていたんだ」

「ならあの男達は」

「ああ、中毒者ではなく売人だ」

中毒者と思っていた人間が、実は売人だったのだ。いくら探しても売人がみつからないわけだ。

「でも、肝心の使用者は? 彼らは誰に売っていたの?」

「よく考えろ。この町で、その薬の効果を一番欲しがっているのは誰だ?」

リビアは考える。レッドアイは優れたドーピング剤。その効果を一番発揮できるのは。

「…まさか軍?」

少し考えればわかることだった。国境近くに駐屯してる軍隊が、手軽な戦力アップを求めるのは自然な流れだ。

「おそらく、ピエロを筆頭とした売人達が、少しずつ軍に薬を流してたんだろう」

リビアはため息をつく。これが真実なら、薬の排除のために、軍を敵に回すことになってしまう。もうすぐこの町を出て行くリビアにとって、町の戦力の低下は、できるだけ避けたいことだった。

「ピエロもおそらく軍にいる。決着をつけるなら今しかない。どうする?」

リビアはしばらく考えていたが、決心したように立ち上がった。

「わかったわ。軍に乗り込んで薬を処分し、売人のピエロは捕まえて本国に連行する。決行は明日。ジャックも用意しておいて」

リビアは言い終わると部屋を出ていく。

(何とか上手くいったか)

ウィルは作戦通りの展開に胸を撫で下ろしていた。

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