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アサシン クロニクル  作者: キツネ
前水の陣
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イスカ

二十一話


◆キーア暦144 2月4日◆


時刻は午後十一時、キーア国 国境近くの町、イスカの空には大きな月が輝いていた。イスカは中央に教会と城らしき建造物がある、ごく平凡な小さな町だが、今は戦時と言うこともあり、駐屯所らしき建物がちらほら見える。南側付近は砂浜になっていて、町の端から端まで横たわっている。その砂浜に二つ、町の方に歩く影があった。

「くそ、まさか泳いで上陸するはめになるとは。誰かさんがボートを沈めてくれたおかげで、びしょ濡れだ」

毒づきながら歩くのはウィルだ。黒いコートを来て、片手にはアイテムのケースをもっている。

「誰かさんじゃない、シズネ」

「自分で言うな」

そのすぐ後ろを歩くのはシズネだ。こちらも、いつもの黒いコートに白いマフラーを着ている。

「夜のうちに隠れ家に行こう。見回りに気をつけろ」

ウィル達はイスカに潜入する。

イスカには既に、マックスが隠れ家を用意している。隠れ家は今回の拠点で、必要な道具や衣服もそこにある。

建物の影に隠れながら町を進む。

「思ったとおり、数が多いな」

見回りは二人一組で歩いていて、数も多い。

「ウィル、こっち」

シズネが地図を確認する。隠れ家は南の端にあり、ここからそう遠くなさそうだ。

「…行こう」

見回りがいないことを確認すると、素早く移動する。

「それにしても、本当に市民は一人もいないな」

夜と言うこともあるが、見回り以外の人は一人もいない。

「国境近くの町はどこもこんな感じ。夜は出歩かないように警告されてる」

シズネは移動しながら答える。

しばらく行くと、古い一件家に着いた。

「ここか?」

「うん」

シズネは中に入って行く。ウィルも外に誰もいないことを確認してから、中に入った。

「明かりはつけないで。あやしまれる」

中はよく見えないが、造りは二階建てで大きさは少し小さい。

「今日はもう休もう。行動は明日からだ」

「わかった」

手探りで階段を上る。二階には寝室と、もう一つ部屋がある。

「ベットは一つしかないのか」

「そうみたい」

寝室にはベットが一つしかない。贅沢が言えないのは百も承知だが、やはりウィルとしては二つ欲しいところだった。

「オレはもう一つの部屋で寝るから、シズネはベットで寝てくれ」

ウィルは寝室を出て、もう一つの部屋に入った。部屋にはクローゼットがおいてある。ここでの衣服はこの中に揃っているようだ。

「…思ったより冷静だな」

今日のことを振り返って見ると、自分でも驚く程落ち着いて行動できていた。むしろ、いつもより頭が冴えている気さえする。

ウィルは濡れた服を干すと、クローゼットから布団代わりの物を取り出して、そのまま眠った。

こうしてイスカでの一日目が終わったのだった。



二十二話


◆キーア暦144 2月5日◆


「シズネ、お前は馬鹿だ。確信した」

潜入から翌日、ウィルはなかなか起きてこないシズネを、起こしに向かったのだが、

「熱がある。完全に風邪だ」

そこまで高い熱ではないが、今日は休んだ方が良さそうだった。

「まったく、濡れたままの服で寝れば、体調を崩してもおかしくないだろ。少し考えればわかることだ」

ため息をつく。潜入中に風邪をひくなど、考えもしなかった。

「…着替えの服がなかったから」

シズネはいつものように言い返すが、やはりしんどそうだ。このまま調査をするのは難しいだろう。

「暗殺にはお前が必要不可欠なんだ。万全の態勢でなきゃこまる。今日はオレに任せて休んでおけ」

「大丈夫、動ける」

シズネはベットから起きようとする。ウィルはシズネをベットに押し戻して言った。

「お前に倒れられたら、こっちが困るんだ。頼むから今は回復に努めてくれ」

「…わかった」

シズネはかなり不満そうだったが、了承してくれたようだ。

「朝飯は後で作っておく。昼頃には一旦帰って来るから、大人しくしていろよ」

ウィルはそう言って部屋を出て行った。


町は思ったよりも人が多い。兵士も混じっているが、あやしまれずにすみそうだ。ウィルは茶色の服を着て市民に紛れている。目指すのは町の中心にある城だ。マックスの情報では、あの城は元々古い古城で、改築して使っているらしい。そしてその主がターゲットのウィザード、リビア=カーナディアだ。

「まずは周囲を調べるか」


ウィル達の暗殺計画はこうだ。

まず、建物の見取りを調べ、浴室の場所を見つける。建物の中は、マックスでも調べられなかった。

次に、銅線を浴室の湯船に繋げる。古城を改築して使っているため、浴室はかなり広いと考えられる。気付かれずに銅線を忍ばせるのは不可能ではないだろう。

最後に、対象が湯船に浸かったところで、シズネの電撃で感電させ、動きを封じたところで直接首を切り落とす。ウィザードは治癒能力が平均して高く、毒物などの効果がうすい。確実に殺害するには、物理的な方法が一番だ。

リミットは2月12日。対象はその日出発して、最前線であるカンミア砂漠に向かう。これを阻止するのが、今回の任務目的だ。

リーファの迎えは2月12日の朝だ。逃走時のことも考えると、時間ギリギリでの暗殺が好ましい。


ウィルが今から行うのは、見取りの調査だ。見取りと言っても最低限、浴室の場所がわかればいい。

「浴室なら壁沿いにあるはずなんだが」

城は思ったよりも小さいく、一周するのもわけなかった。しかし、よく考えてみると浴室の場所を調べる方法がない。

「夜まで待って、使われるのを見張ったほうがいいな。しかたない、日中は周辺を回ろう」

ウィルは城の周辺をもう一度調べたが、抜け穴らしき物はなかった。早々に城の調査を切り上げて町の様子を探ることにした。

町をよく見てみると、やはり戦争の影響だろうか、閉まっている店や空き家も少なくない。

「行くとしたら、やっぱり教会か」

教会はウィルのいる連合国には少ない。この町でウィルの目を引いたのは教会だった。


「荒れてるな」

教会の中は思ったよりも荒れていた。並べられた長椅子はほとんどが壊れていて、壁もひびが入っている。

「キーア国は宗教を重んじるって聞いてたんだが」

奥にいってみると、人を型どった大きな像がある。しかしこれも、右腕が途中で折れている。

「それに、治安も悪い」

ガンっ

ウィルは横に飛ぶ。壁には剣が刺さっていた。

「へぇ、避けるとはやるな」

入口の方から、何人かの男が入ってきていた。見回り兵には見えないが、皆それぞれ武器をもっている。

「なんだ? お祈りに来たようには見えないな」

ウィルは懐からリークを取り出してかまえる。

(全員を相手にするのは骨が折れるな。ここは逃げるか)

男達が向かってくる。ウィルはリークを投げて応戦した。

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