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虚飾のアリス ‐不死の少年と白黒の吸血鬼‐  作者: 竜馬
第2章 王都トランセル
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第2章:13 『やらずに後悔より、やって後悔』

 ユピアの父である、現国王――いや、すでに『星喰い』にあってその消息は不明。そして、『星喰い』にあった者の姿を再び見た者はいないという事から、元国王と称した方がいいだろう。


 カワード・レッジ・ノウは、その元国王の姉の息子である。つまり、ユピアからしたら従兄に当たる存在だ。

 そんなカワード側から、女性であるユピアの王位継承に異議が申し立てられた。そして、異議を申し立てると同時に、自らが王位継承にふさわしいとして立候補してきたのだ。


 いくら王の姉の息子とはいえ、その申し立ては受理されないだろうと思われていた。しかし――。


「現にこうして、ユピア陣営とカワード陣営ってな具合に、王位を争う二人のどちらを支持するかって事で、この王都の上の連中が綺麗に分裂しちまっているのさ」


「……何やってんすか、ユピアさん! こんな所で呑気に駄弁ってる場合じゃないんじゃ!?」


 アネラスによる、現在王都の抱える問題を聞かされたシンゴは、その問題の中心にいる――いや、いるべき存在であるユピアがここにいる事に、立ち上がって驚きを顕にすると共に、シンゴにしては珍しく真っ当な意見を放った。

 しかし、それに対してユピアは、


「ユピアで構いませんよ。――それに、私はこれでいいのですよ……シンゴさん」


「――――え?」


 当然、シンゴなんかに指摘されるまでもなく、ユピアは自分がこの場にいるという事が、一体どういうことなのかは理解しているはずなのだ。なにせ、シンゴでも分かる事なのだから――。


 しかし、理解した上で、ユピアは落ち着き払った態度で微かに微笑まで浮かべ、シンゴの指摘に答えた。現状で何も問題はないと――。


「それって……どういう……?」


 一人だけ立ち上がっているのが少々恥ずかしくなってきて、シンゴは咳払いを挟んでから腰を元の位置に戻し、ユピアに言葉の真意を問いかける。

 そして、ユピアはシンゴの問いかけにニコリと、見るものが見れば速攻で落ちてしまいそうな程の眩しい笑顔を見せると、


「――――私、王の座になんて興味ありませんから――」


 とんでもないことをさらっと言い放った。

 一方、先ほどのユピアの笑顔に一瞬見とれていたシンゴ、カズ。そして、言葉の意味がすぐには理解できず、その裏の真意にまで思考を巡らせていたアリスが、そろってユピアの言葉の意味することに理解が及ぶと同時に――


「「「え〜〜〜〜ッッッ!!!???」」」


 と、三人共立ち上がり、叫んだのだった――。



――――――――――――――――――――



 シンゴはベッドに頭からダイブすると、仰向けになって天井を見上げた。天井は、木の年輪やらで複雑な模様を描き出し、ともすれば人の顔に見えなくもない。

 三人目まで人の顔が見えてきた所で、そろそろ怖くなってきたので横に寝返りを打つ。


 すると、目の前に現れたこれまた木製の壁に、シンゴは何の気なしに触れてみる。サラサラとした肌触りにが返ってくるなか、シンゴは先ほどの下の階での話し合いを思い返す。


 ユピアの驚愕の真意を聞かされたシンゴ達は、当然ながら何故と問いかけた。しかし、ユピアから返ってきたのは別に大層な理由ではなく……、


「だって、王様ってめんどくさそうだし……なっちゃったら、修道院に遊びに来れなくなってしまいますもん!」


「ますもん――って……」


 そんな具合に、割と――ではなく、全て私情という理由だった。なんとも能天気というか、自分勝手である。

 そんな事を思いながら、シンゴ達は今度は、半眼でアネラスに視線を向けてみるが、


「無理さね。そこの王女さんは頑固でね……言っても聞きゃしないのさ。そこにイレナの馬鹿が感染した結果がこれさね。……ホント、あたしゃ頭が痛いよ……」


 過去、既にこの事についての話し合いはされたのか、アネラスは思い出すのも嫌といった様子で、本当に頭痛でもしてきたのか額に手を当てていた。


 その後は、先日『星屑』が王都内で出没して一人の騎士に襲い掛かったという話や、それに対してのシンゴの「インプレグナブル・ラインって突破されたことないんじゃ?」という質問に、「それは戦時中の話だバカ――」とカズが嘲弄混じりで答え、軽くガンのくれ合いが発生したが、アネラスの鉄拳が炸裂するという一幕を挟みつつ、話し合いは終わった。


 ちなみに、さすがに長居するのは色々マズイという事で、ユピアは明日には城に帰される事となった。その際にユピアがやらかした、床で転がって駄々をこねるという一幕は、シンゴ達の中の王族のイメージを完全に失墜させるものだった。


「まあ、親しみやすくなったと思えば、俺からしたらプラス、かな。……カズは相変わらずな態度だったけど……」


 いわゆるギャップ萌えだろうか。この世界にその概念があるかは謎であるが、カズの態度から見るに、明確にされていないだけであって、あるにはあるらしいというのは窺えた。

 そのおかげ――と言う言い回しは変な気がするが、シンゴも彼女をさん付けするのはやめようと思った。というか、嫌である。


 余談ではあるが、アネラスに諭されるユピアが唇を可愛く尖らせながら発した、「一週間はバレないのに……」という言葉を偶然拾ってしまったシンゴは、一体どんな工作を!?と、変な方向にハイスペックな王女様に、一人戦慄した。


 とまあ、こんな具合に話し合いはお開きとなり、その後はイレナの進言もあって、シンゴ達は修道院に泊めてもらうことになった。

 しかし、その代わりと言ってはなんだが、明日の夜――昼間だと城に侵入しにくいらしい――に、ユピアを城まで送り届けて欲しいとの事だ。


 もちろん断る理由もないので、シンゴ達は了承した。まあ、カズが速攻で請け負ってしまったというのもあるが、先述のとおり断る理由はなかった。

 そうなると、明日は夜までは暇ができるわけだ。その間は情報収集に、宿の手配――


「そういや、宿に関しちゃ任せな――ってアネラスさん言ってけど、どういう意味なんだ……?」


 割り当てられた部屋へと向かおうとするシンゴを呼び止めたアネラスが、そんな事を言っていたのだが、詳細はまた後日との事。まあ、一から探す手間が省けるのは大変ありがたい事ではある。あるのだが……、


「何か、絶対に裏がありそうなんだよなー、あのババア……」


 まあ、本当に親切心で言ってくれているのかもしれないので、シンゴはこの辺で無粋な考えを巡らすのはやめておくことにする。

 と、なると……。


「情報収集に関しては、まだ行ってない所をイレナに順に案内させて集めるとして、宿を探すはずだった分の時間で“アレ”を試してみるか……!」


 シンゴは自然と上がる口角を必死に抑えながら、明日も早いとさっさと眠ることにした。

 布団を体にかけようとして、シンゴはその動作を途中で止めると、備え付けられた窓から見える夜空に視線を移した。そして、


「おやすみな――イチゴ」


 そう言って布団を頭までかぶると、シンゴの意識はものの数十秒で温かい闇の中へと沈んでいった――。



――――――――――――――――――――



「寒ッ!?」


 シンゴの目覚めの第一声は、歯をガチガチさせながらのそんな一言だった。

 この世界に四季があるかどうかは、普通に過ごしやすい気候だったため聞くのを忘れていたという事もあり、シンゴは未だに知らない。しかし、ある程度の気温の変化――上下はあるという事を、ここに来るまでの旅の中で学んでいる。そして、その変化が如実に感じられるのが朝と夜である。


 シンゴの顔を明るく照らす太陽の光から、今は明け方だと判断する。

 そんな事を考える傍ら、肌を刺す寒さがシンゴの脳の覚醒を促してくる。すると、シンゴは自分が掛布団を着ていない事に気付いた。というより――


「何で床で寝てんの、俺!?」


 そう言ってガバっと体を起こすシンゴは、何故か今まで床で寝ていた様子。

 シンゴは二の腕をさすりながら、


「俺って、そこまで寝相は悪くねえはずなんだけどなー……」


 元いた世界では、シンゴはベッドで眠っていた。朝起きてこないシンゴを起こすために、イチゴが無理やり床に叩き落とす場合を除けば、シンゴはベッドから落下した事は一度もない。


 シンゴは首を傾げながら、二度寝でもしようかと思いながら立ち上がり、ぬくもりを求めてベッドに歩み寄ると――


「――――何、だと……?」


 ベッドの上には、桃色の楽園が広がっていた。

 具体的には、ユピアがその豊満な胸の果実を押し付けるようにして、真ん中のアリスの頭を抱きかかえ、何やらうなされている様子のアリスのその細い腰に、後ろから手を回してイレナが抱き着いている。


 シンゴは、しばしその光景を唖然として眺めていたが、はたと気付いた。そう、つまりこれは、朝起きたら布団に美少女が!という、男子小中学生――いや、全国の男の夢であるシチュエーションである。――本来おいしい目に合うはずである、シンゴが弾き出されている事を除けばではあるが……。


「――お、俺の不幸は、こんなところでも邪魔をしてくるのかよ……」


 シンゴはそう言って、楽園を目の前に膝からその場に崩れ落ちた。

 ――考えても見て欲しい。こんな理不尽、あり得るだろうか?ここにいるのがシンゴでなければ、その者は今頃ベッドを鼻血で濡らして、笑顔で果てていたに違いない。しかし、ここにいるのは運の神に見放されたシンゴである。


 少年は、すぐ目の前にあるエデンを指を咥えて見ている事しかできない。それはまるで、拷問に等しい苦しみを、思春期真っ只中の少年に――


「――いや……待てよ?」


 先ほどまでこの世の理不尽に打ちのめされ、その表情を絶望に染めていた少年の心に、一筋の光が――まだ見ぬ可能性が去来した。

 少年はその可能性を決して逃がさぬよう必死に捕まえ、その曖昧な輪郭を煩悩と言う名の湧き上がる無限の力でもって、明確なものにしていく。


 折れていた少年の膝が上がり、ついには立ち上がる。そして、希望を胸に立ち上がった少年の顔には、もうすでに絶望の影は無かった。あるのは、ただひたすら煩悩に支配された下卑た笑みのみである。


 やがて少年の中で、希望が一つの像を結ぶ。そう、実に簡単な事だったのである。答えはすぐ目の前に用意されていたのだ。ヒントは常に身近なところに――そう誰かが言った。誰だっけ?まあいいや――と逸れた思考を、今度はシミュレーションへの演算へと回す――問題ない。


 少年の気付いたヒント――事実、それは、眼前の少女達が“眠っている”という事だ。それが何を意味するのかと言うと、つまり――


「黙ってもう一回布団に入ったらいいんじゃね?」


 である。要は、バレる前に布団に潜り込みさえすれば、彼女達が目覚めるまでは夢のひと時である。つまり、夢の見直し――“二度寝作戦”である。


 そうと決まれば、即刻行動に移る。彼女達の内の一人でも目覚めてしまえば、ここで夢の世界は終わりです――だ。だから、ここはスピードが命である。


 借り物だろうか、少女達の純白の寝巻姿に早る鼓動を抑えつつ、少年はベッドにゆっくりと膝を乗せる。

 四人分の重さにベッドがぎしっと鳴り、一番手前のイレナが「ん〜」と言いながら、アリスの腰に回していた手を上にずらし、なんとそのまま胸部に持っていき――わし掴みにした。


 ビクっとアリスの体が反応して、少年もビクっとする。

 しかし、それ以上の動きは見られない。第一関門突破である。

 少年はゆっくりと安堵の息を吐くと、ここで重大な事実に気付いてしまった。それは――、


「俺、どこに寝ればいいんだ……?」


 そう、少年が小さく呟いた通り、三人の少女達ですでにベッドは満員。少年の入る隙間など全く見当たらない。

 どうやら煩悩に目がくらみ、ただでさえ低い知能レベルがさらに低下していたようだ。


 しかし、既に賽は投げられた。ここから戻ろうにも、再び膝に体重が乗り、今度こそベッドの軋む音に誰かは必ず目を覚ますだろう。

 ここにきて、煩悩と言う名の希望に目を輝かせていた夢見る少年は、いち馬鹿であるキサラギシンゴに戻った。


 改めて状況を確認するが、どう見ても完全な“詰み”である。

 そしてこのまま何もしなくても、いずれ少女達は目を覚まし、理不尽な暴力がシンゴを襲――


 ――――それでいいのかい? もう一人の俺


「だ、誰……?」


 シンゴの頭の中に囁きかけてくる、何者かの声。いや、シンゴにはどこかで聞いた事のある声だった。そう、この声は――


 ――――そう、俺はキサラギシンゴの中の煩悩を司る、いわば“純粋な少年”の部分だ


 シンゴの頭に――いや、煩悩に囁きかけてくるもう一人の自分に、シンゴはとうとう追い詰められすぎて幻聴が――と、全体重を支える片足をプルプルさせながら、静かに涙を流す。


 そうこうしている間にも、“純粋な少年”の部分は話しかけてくる。


 ――――このまま行けば、待っているのは確定した破滅だ。ならどうするか……どうせ破滅するなら、やることやってからだろ?


「……………………」


 もう幻聴は聞こえない。なにせ、“純粋な少年”の言った事は、この極限状態のなか、シンゴの頭の中にうっすら浮かんでいた案でもあったからだ。つまり、先の声は幻聴ではなく、あと一歩を後押しするための言い訳。自分への言い訳なのである。


 何かしゃべり方がキモかったのは……まあ、気にしないでおく事にする。

 さて、そろそろ体重を支える足も限界である。決めなくてはならない。まだ手を出していないのに理不尽なビンタをされるか。それとも、エデンに飛び込んで、満足してからビンタを浴びるか。


「ふっ――」


 苦笑が漏れる。男なら――いや、少年なら選ぶまでもないことである。

 シンゴは覚悟を決めると呟く。


「俺は少年になる――!」


 いざ内なる煩悩を解き放ち、エデンへダイブをかまそうとした時だった――


「――シンゴ、お前まだ寝てんの――」


「あ」


「あ?」


 開かれたドアから現れたカズの視線の先では、今にも女性陣に襲い掛からんとしているように見える、シンゴの姿が。

 二人はしばし硬直すると、先に硬直から解けたカズが、


「さすがにそれは犯罪じゃねぇか?」


「お前に言われたくね――!」


 大声を上げかけ、咄嗟に口を塞ぐシンゴ。ゆっくりと、後ろの様子を確認するために振り向く。振り向いた先で、キョトンとした表情のアリスと視線がぶつかった――と同時に、危険を察知したカズがドアを閉める音が後方から響いた。それも、結構な大きさで。

 とりあえずシンゴは片手を挙げ、


「やあ、おはようアリス。いい天気だね――?」


 心臓バクバクの冷や汗ダラダラで、さわやかに挨拶を送る。

 一方のアリスは、寝ぼけた顔で目をこすりながら、


「うん、おはよー」


 と、普通に挨拶を返してきた。

 シンゴは心の中で、今まで散々馬鹿にしてきた神に涙ながら感謝した。

 その瞬間――


 ガバリ――と、前触れなくユピアが起き上がり、そのままシンゴと目が合うと――、


「やあ、ユピアもおは――」

「キャーーーーーーーー!!!!」


「おべッ――」


 ほぼノータイムで、ビンタではなくグーがシンゴの顔面にめり込んだ。

 シンゴはそのまま宙を舞い、仰向けに床に倒れた。そして、念願の二度寝へと、その意識を飛び立たせたのであった――。



――――――――――――――――――――



「ご、ごめんなさい!」


 そう言ってシンゴに頭を下げるユピア。まるで昨日の焼き直しである。


「いや、もういいから。これ以上、俺の若気の至りを掘り返さないで……」


「は、はあ……」


 シンゴの言葉に、頭を上げたユピアが疑問符を浮かべる。

 あの朝の一幕は、勘違いしてシンゴの部屋に入ってしまったという事で、女性陣が謝る形で幕を引いた。


 ベッドの上に乗っていたシンゴの言い訳は、ベッドの上に置いてあった――ありもしない――服を取りたかったのだが、寝ている女性陣を起こすのが忍びなかったから――で、何故か信じてもらえた。

 ちなみにイレナは、あの騒動の中でも起きる事はなく、いつもの決まった時間に起床した。


 三人の女性が、ピンポイントでシンゴの部屋に間違えて入って来てしまった事になるが、結果はシンゴからしたら悲惨の一言である。

 気絶する前にした神への感謝は既に取り下げている。


 とりあえず、今日も朝ごはんを相伴にあずかり、後片付けの手伝いまでを終わらせる。

 遊んで欲しいとねだってくる子供達に「悪いな、やることあんだ――」と言って断ると、ぐーっと背伸びをして、シンゴは「さて!」と腰に手を当てると、


「カズ! 俺に魔法を教えてくれ!!」


 念願の魔法の習得へと動き出したのだった――。


ほとんどがベッド周辺1メートル内の出来事で、すいません!

何か、書いてる内に二重の意味で調子に乗っちゃって……。

若気の至りという事で、どうかお許しを……!

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