表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚飾のアリス ‐不死の少年と白黒の吸血鬼‐  作者: 竜馬
第2章 王都トランセル
26/214

第2章:12 『王都の現状』

 たっぷりアネラスに折檻を喰らったイレナ。しかしその後は何事もなく、食事は平和に終わった。

 その後、子供達とアネラス。子供達を寝かし付ける役目のコネリア以外で、食器等の後片付けを行った。

 ――念のため、皿洗いに励むシンゴの服装は、裸エプロンではないという事を記しておく。


 後片付けを終えた一同は、それぞれお茶代わりの炭酸水をコップに注いでもらい――アネラスは普通にお茶――席に着いた。

 子供達のために食事を優先させたが、本来は先にしなければならなかった自己紹介等を含めた、話し合いするためである。


 示し合わせたわけではないが、まずは全員が飲み物に口を付けた。そして、コップの底がコン――と木製のテーブルを打つ、複数の音が響いた。しかし、誰も口を開くことはせず、場に静寂が落ちる。


 こういう時に先陣を切るのは、まあ、あの男である。

 シンゴは誰も何も言わないのなら――と手を挙げると、アリスとカズを見た。そして、


「何で二人とも、ここにいんの?」


「「今さら!?」」


 アリスとカズのツッコミが炸裂するなか、他の何人かは椅子から滑り落ちかけている。芸人判定では満点のリアクションである。

 一方そのシンゴはというと、「いや〜」と頭を掻きながら、


「最初アリスに会った時、ツッコミ入れてたら聞くタイミング逃しちゃってな。その後も王族とか、気持ち悪いカズとか、晩飯とかでズルズルと――ってな感じ」


「オイ待てシンゴ! 何かオレの悪口が混ざってなかったか!?」


「そういやユピアさん、マジに王族なんすか?」


「さらっと流すなよ!?」


 立ち上がり、大げさなジェスチャーでもって訴えるカズを無視し、シンゴは一番インパクトが強かった『王族』という肩書を掲げるユピアに話を振ってみる。

 しかし、シンゴの質問に応えたのは、質問を向けられたユピアではなく、アリスだった。


「ちょうどいいね。ボクとカズがどうしてこの場にいるのかは、ユピアが大きく関係しているんだ――というか、原因そのものなんだけどね」


「はい、お二方には大変お世話になりました。おかげで、無事に修道院に辿り着くことができました」


 そう言ってユピアは立ち上がると、カズとアリスに向かって頭を下げた。

 下げられた側のアリスは、「構わないよ」と言って気さくに応じるのだが……、


「そんな……当たり前の事でございます! ユピア様!! 我々はただ、市民として当然の義務を果たしたまででございます! ですから、そんな風に頭をお下げになるのはお止めください! 感激のあまり惚れ――じゃなくて、悶え死んでしまいます!!!」


「「うわ〜……」」


 カズの豹変――それも、気持ち悪い方向への豹変ぶりに、どうやらシンゴと同じ気持ちらしいイレナが、共にカズから距離を取るように身を引いた。

 しかし、アリス達がここにいる理由が、王族であるユピアと関係があるというのは一体どういうことなのだろうか。


 いや、そもそも、王族であるユピアがここにいる事自体も謎である。

 分からない事だらけで、シンゴが首を傾げながら、目線でアリスに問いかけた。

 しかし、アリスは首を横に振ると、


「ボク達もユピアがここを目指していた理由は、まだ知らないんだ。目的地に着いたら説明するって事だったけど――」


 そう言って、アリスはその視線をユピアに向ける。

 向けられたユピアは、「そうでした!」と言って手を合わせると、


「私は、昔からよくここ――バレンシール修道院に遊びに来ていたんです。最近は“あの事”もあって、なかなか時間が取れませんでしたが、ようやく暇ができたので、顔を出そうかなと思っていた際に――」


「ボク達と出会った――という事だね?」


 アリスの推測に、ユピアは「はい――」と首肯で返す。

 なるほど、アリス達がここにいる大まかな理由は分かった。しかし、今しがた語られたユピアの話の中に、シンゴはさらなる疑問を見つけた。それは、


「なあ、なんで王族のユピアさんが、こんな外れにある修道院に足繁あししげく通うようになったんだ?」


 そんなシンゴの質問に答えたのは、ユピア本人ではなく、今まで黙ったままだったアネラスだった。アネラスは「それはさね――」と肩をすくめると、


「そこの馬鹿娘が、城に忍び込んで勝手に連れてきちまったのさ――」


 そう言って深くため息を吐くと、イレナに流し目を送った。

 皆の視線が注がれると、イレナは「いや〜」と照れ臭そうに頭を掻いた。


「今でも鮮明に思い出せます。イレナが強引に手を引いて、まだ見ぬ外の世界に私を連れ出してくれた、あの時のことを――」


 目を閉じ、当時の事を思い出すように、その豊満な胸に手を添えるユピア。そんなユピアにアネラスは苦笑すると、


「まったく……突然王女を連れて来られた身にもなって欲しいもんさね……。しかし、まさか今度から一人で城を抜け出してここまで来るようになる、お転婆な王女だとは思わなかったけどね……」


「本日も抜かりありません!」


 そう言って胸を張るユピアに、アネラスは「まったく……」と、深いため息をつく。


「でも、今日、からまれてたよね?」


「あ……」


 アリスの指摘に、ユピアは思い出したかのように固まった。そんなユピアに、アネラスは頭痛でもしてきたのか、こめかみをグリグリしながら、


「本当にこっちの寿命を縮めてくれるね……アンタ達は」


 片目を開けてそんな事を言うアネラスの視線の先では、しゅんとするユピアの肩に、イレナが同情するように手を置いているが、アネラスに「アンタも入ってんだよ、イレナ!!」と怒鳴られ、ユピアと仲良く落ち込むという一幕が展開された。


「それに、なんで今ここに来たんだい。ユピア、お前さんは今、王位の座を争っている真っ最中だろ? こんな所で呑気に油売っててもいいのかい?」


「それは――」


 アネラスの言葉にユピアが言いよどみ、会話に僅かな間が生まれる。そこに割り込むように、


「なあ、王座を争ってるって、どういう事?」


「あ、ボクも気になるな」


「オレもだ」


 シンゴのそんな疑問の声に賛同するように、アリスとカズも声を上げる。

 アネラスはシンゴ達の方に視線を向けると、「そういや、アンタ達は外から来たんだったね――」と言うと、


「なに……つい、ひと月ほど前のことさね。ここ『トランセル』を治めていた王が、『星喰い』にあったのさ」


「「「『星喰い』――?」」」


 聞き慣れない単語の登場に、シンゴ達三人はオウム返ししながら、仲良く首を同じ方向に傾けた。

 そんな三人の反応に対してアネラスは、「そうさね――」と顎に手を添えると、ユピアに視線を向けた。


「この事に関しては、ユピアの方が詳しいさね。――話してやんな」


「――分かりました」


 ユピアは頷くと、その表情を真剣なものに変え、シンゴ達の方を見ると、


「『星喰い』とは、我々、レッジ・ノウの家系に稀に起こる、“消失現象”の事を言います」


「…………消失現象……?」


 そんなシンゴの呟きに、ユピアは「はい」と頷く。そして、


「“消失現象”とは、ある日忽然と姿を消し、そのまま二度とその姿を現さないという、レッジ・ノウの家系の者にのみ起きる、怪現象のことでございます――」


 ユピアの説明を聞き、カズが驚きを顕に口を開けて固まる。横では、シンゴが腕を組み、アリスに向かって「それって何か――」と言葉を紡ぐと、


「神隠し――みたいだね。ボク達の元いた世界で言うところの……」


「ああ……俺もそう思った」


 シンゴの言葉の先を引き継ぐ形で、アリスが『神隠し』という、シンゴが考えていた事と同じ見解を示した。

 そして、シンゴはユピアの方を向くと、


「つまり、この国の王様は、だいたい一か月前に行方不明になった――って事か?」


「はい、そうです」


 頷くユピア。

 そんなユピアの反応を見る傍ら、シンゴは、この世界のひと月というのは一体どれくらいなんだ?――と、一瞬だけ思考を巡らせるが、今は後回しにする。それよりも、その『星喰い』というのが、どういう意味で付けられた名称なのかが気になった。なにせ、『星屑』と同じニュアンスを感じるからだ。なので、


「なあ、何で『星喰い』って言うんだ?」


 分からない事は率直に聞く。そのスタンスで行くシンゴは、ここでもユピアにストレートに質問を投げかけた。

 ユピアは「そうですね――」と言葉を継ぐと、こんな事を問い返してきた。


「シンゴさん達は、『星の足跡』というのをご存じですか?」


 またもや聞いたことのない単語の登場に、シンゴはもちろん分からないので、一応の確認のつもりでアリスにも視線で問いかけてみるが、アリスも首をふりふりと横に振り、知らないという意を返してくる。なので、シンゴはユピアに向き直って「知らない――」と告げようとした時だった。


「それってアレだろ? 確か、バカでけぇ穴の……」


「はい、カズさんの言うとおりです」


 まさかのカズの口から回答が飛び出し、シンゴは軽く驚く。しかし、こことは違う世界の出身であるシンゴとアリスに比べれば、元々この世界の住人であるカズの方が、この世界の事情に詳しいのは当然であると考え直す。


 そしてユピアは、シンゴとアリスの方を向いて、『星の足跡』についての説明を始めた。


「ここから遠く離れた地に、恐ろしく大きく、底が見えないほど深い穴があります。その穴は、とても自然発生したとは思えないほど異質なものなのです。――そして、そこから数々の伝説が生まれました。その中でもっとも有力なのが、このピスト・リドルワーツより小さな星が落ちたのではないか?――という説です。そこから、星が踏みつけてできた跡――『星の足跡』となったのです」


 ユピアの説明を聞き終え、アリスは「へえ」と納得している様子だが、シンゴはそろそろ脳の処理できる範囲を超えてきており、眉を寄せて首を傾げる。

 とりあえずは、その遠い所にある大きな穴が、お星さまの足跡みたいだ――という比喩から、『星の足跡』という呼び名になったという事は、まあ、なんとか理解する事はできた。しかし――、


「その、ピストル・ワークってのは、何なんだ?」


 ユピアの説明の中で新しく出てきた単語に、シンゴは素直にギブアップ宣言をして、ユピアにその単語の意味を問いかけた。その瞬間――。

 シンゴのその質問を聞いたアリスを除いた面々が、驚いた表情でざわり――とした。それだけで、シンゴはなんとなく、「あ、この世界だと常識なやつか――」と理解した。


 そして、シンゴのその直感はどうやら正しかったらしく、最初に驚愕の衝撃から立ち直ったカズが、


「――ピスト・リドルワーツ、な」


 と、シンゴの間違いを指摘すると、懐疑的な目をシンゴに向け、


「シンゴ、お前……本当に知らないのか……?」


 そんな疑問を投げかけてきた。

 チラリと視線だけで辺りを確認してみると、周りの面々も、カズと同じような表情でシンゴを見ている。唯一、アリスだけは頭の上に疑問符を浮かべているが、今はシンゴに注目が集まっているために、気付かれてはいない様子。


「い、いやさ? 俺の生まれ故郷って、もうそれは田舎も田舎なもんでな? 世間で常識的な事でも、俺らんとこからしたら、結構知らないって事が多いんだよ……」


 シンゴはとりあえず、出身地がド田舎だから――という線で、誤魔化す事にした。

 幸いというべきか、シンゴのその辺の無知っぷりは、既にフレイズ一家の前で披露している。なのでカズは、


「オレんとこの村より田舎って、相当だぞ……」


 と言って、真っ先に納得を示した。それを受け、他の面々もどうにかそれで納得はしてくれた様子。

 シンゴは、カズの馬鹿っぷりというか、単純なその性格に心底感謝した。


 一方、シンゴに心の中で失礼な扱いを受けているとは露程も知らず、カズは「いいか?」と人差し指で地面を指し示すと、


「ピスト・リドルワーツって言うのは、オレ達が今現在も乗っかってる、この星の名称の事だ。――その世間知らずっぷりは、他のとこではあんまり晒すなよ? 舐めらるだけならいいけどよ、タチの悪い奴らからしたら、格好の獲物ですってアピールしてるもんだからな?」


 そう念を押しつつ、説明してくれる。


「ああ、肝に銘じておくわ――」


 シンゴは頭を掻きながら、そう応える。そんなシンゴの横では、アリスが「なるほど――」と頷いているが、見事に皆の意識から外れ、呆れた目で見られるのはシンゴだけという、いささか納得できない結果になっている。


 まあ、シンゴの理不尽なくじ運の悪さも、別に今に始まった事ではない。さっさと忘れなければやっていけないという事を、シンゴはここ十七年の人生で学習している。というかまあ、慣れである。


「んで、話は戻るけど、その『星の足跡』っていうのが、『星喰い』とどう関係してくんだよ?」


 話を元の路線に戻すよう促すシンゴに、ユピアは「つまりですね――」と、人差し指を立ててシンゴの方を見ると、


「『星の足跡』に、足跡をつけた『星』――いわば、超常的な存在によって、消失者達は食べられてしまったのでは?――という、例え話や噂が生まれたのです。その結果、レッジ・ノウの消失現象に、『星喰い』という呼び名が付けられたのでございます――」


 ユピアが言い切ると、アネラスが肩をすくめながら、


「ま、なにせ、現役で国を治めていた王が忽然と消える事も、史実上では結構あったてんだ。そんな作り話もできるってもんさね。そして――」


 アネラスは一旦お茶で喉を潤すと、片目を閉じ、


「今回も、国を治めていた王が『星喰い』にあった。その結果、今現在の王都はちっとばかし治安が悪いのさね。――悪いと言っても、本来ならもっとひどいはずなんだけどね――」


「この王都には、優秀な騎士団がおります。ですので、そこまで酷いという事ではないのですが……」


 アネラスの言葉を継いだユピアがそう言葉を切ると、お茶を最後まで飲み干したアネラスがその先を引き継ぐように、再び口を開いた。


「まあ、騎士団と言えど、所詮は人の子さね。万能ではない。だから、この王都のお偉いさん達は、片っ端から騎士団の増員をはかったのさ。――結果、勘違いして思い上がる馬鹿どもが、その騎士の肩書を振り回し始めてね。今じゃ、この王都でのいざこざの半分は、その勘違い騎士達が占めてるのさ――」


 話し終えたアネラスから一旦、シンゴは視線を外す。そして、考えるように顎に手を当てて、やがて目的の記憶に辿り着くと、


「……そういや、イレナと初めて会った時と帰りに出くわした奴ら、見習い騎士がどうのこうのって言ってたけど、そういう――?」


「じゃあ、ボクが退治した人達も――?」


「え?」


 あのリーダー達の所属というか、立場的なものが理解できたシンゴは、ゴードは確か正式な騎士だっけ――?と、頭の片隅で整理しながら、確認の意味も兼ねて口に出してみた。が、同じタイミングで発せられたアリスの言葉に、なにやら不穏な気配を感じ、


「なあ、カズ。アリス、“退治”したなんて可愛い表現してるけど、そいつら死んでねえよな? 厄介ごとはごめんだぜ、俺?」


「大丈夫――じゃねぇな。いや、見た目的には穏やかに解決してたんだが、男から見たら地獄絵図だった……とだけ言っておく」


「……ああー、なんとなく理解した。アリスも酷な事を……」


 シンゴとカズが青い顔をして小声で話す傍らでは、アリスの確認の言葉にユピアが頷いている。なんかスルーされてる気もするが、シンゴの方も思い上がった騎士達の暴走で間違いないだろう。


 シンゴは「じゃあ――」と、ようやく最初の話の概要が見えてきて、


「ユピアさんが次の王になるってことか……ん? でも、争ってるって……」


 シンゴは言葉の途中で、最初に話に出て来ていた『王位を争っている――』というアネラスの言葉を思い出した。

 そんなシンゴの言葉にアネラスが「そうさね――」と、お茶のおかわりを注ぎながら、


「ユピアには兄弟がいない――いや、“いた”というべきかね……。まあ、今、ユピアは一人さね。だから、王位の継承権はユピアにある。順当に行けば、今頃は戴冠式も終わっていたさね……順当に行けば――ね」


 思わせぶりなアネラスの言葉と態度に、アリスが「という事は――」と、現在もこうしてこの場に居て、明らかに王の立場にないであろう事が窺えるユピアを一瞥し、


「順当には……行かなかった――?」


 そう問いかける。

 アネラスは足を組み替えて、湯気の立っているコップを持ち上げる。そして、コップの中のお茶の波紋を眺めると、


「従兄のカワード・レッジ・ノウが、ユピアの王位継承に異議を申し立ててきたのさ――」


 そう言って、グイッとお茶を飲み干したのだった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ