魔法使いを籠絡せよ
朝、暖かいベッドで目を覚ました私はあれの存在に気が付いた。
「私としたことがあいつの存在を忘れていたわ」
あいつとはもちろん諸悪の根源、忌まわしき魔法使いである。
シンデレラをシンデレラたる存在にしたあの野郎だ。
しかしながら今現在、魔法使いはお父様の側近の一人である。
だが彼は私の世代の魔法使いではない!
つまり私の時代にシンデレラを作るのは魔法使いの息子である。
次代魔法使いを籠絡しなければならない。鉄は早いうちに打っておかなければならない。
「奴がシンデレラに手を貸す前に魔法使いは我が手駒にしておかなければなるまい」
ベッドの上で立ち上がりフフフ笑う姿に私を起こしに来たお兄さまが目撃しそっと扉を閉めた。
「私のことどう思ってる?」
次代魔法使い、レヴァルとの初対面である。奴は一人庭園でぼーと立っているところを発見した私の第一声がこれである。
「…えっ?」
奴は呆けたまま私のことを見つめていた。
レヴァルはお兄さまと同じ年で魔力が強いというあかしである黒い髪をしている。
ここで説明するとレヴァルは人よりも強い魔力を持つため人との接触をさけているそうだ。はいはい、よくある話ですね。
私はどちらかといえばせっかちな方である。だからレヴァルの心が開くまでその労力を使いたくはない。直球あるのみ!!
だが、レヴァルは逃げた。一目散に逃げていく!!
「レヴァル!!」
必死にその背中を見失わないように追いかけるが早い。だがこっちはあきらめられない。体力で勝負だ!!
所詮子供そろそろ力尽きるわね。そう思ったときにレヴァルはこけた。なかなかの勢いだったためレヴァルは起き上がれないようだった。
私は自分の荒い息をなんとかととえながらほくそ笑んだ。
「はぁはぁ、もう逃げられないわよ」
我ながら悪役のような気分だ。
レヴァルは私の声に肩をびくつかせるとなんとか立ち上がり逃げようとしたがすぐに立ち止まった。そう、奴は知らぬうちに行き止まりに導かれていたのだ。
私の計画通りである。
レヴァルは周囲をきょろきょろと見渡し何とか打開策を探しているようだがそうはさせない。
私はゆっくりとだが確実にレヴァルを壁へと追い詰めてた。
頭一つ大きいレヴァルに対して威圧を込めて顔の横の壁に手を押し当てた。ビクッとレヴェルは身体を震わせたがまだこちらを見ようとしない。
「ちょっと視線を合わせなさいよ」
そういえばレヴァルは反対方向に顔をそむける。
私は逃がすかと左手も同様に押し当てた。
どうこれで逃げられないでしょう?と勝ち誇って下から見上げてさしあげる。
ここまでしているというのにレヴェルはまだ視線をさまよわせているようだ。長い前髪のせいで表情はよくわからないが髪の間から見える耳は赤い。
「いい加減にしなさい!私から逃げられるとでも思っているの!!」
「姫様…僕に言ったなんのようなんですか…」
「何度も言ってるでしょ!わたしのことどうおもってるの?」
「僕たちは初対面ですよ、ね?」
「だから、好き?嫌い?私に尽くしてくれる?」
「そんなはじめてあってそんなことわかるわけ…」
「なら好きになりなさい!!私のだけのためにその力使いなさい」
壁から手を離しその手で魔法使いの前髪をのけ視線を絡めた。
「あう……姫様」
あまり人と顔を合わせることをしてこなかったためかレヴァルの顔はまるでゆでだこだ。だがなかなかの反応だ。
「レヴァルは私のもの、それでいいわね!」
「…はい、姫様。僕は姫様のものです」
その言葉にいい気になった私はこの後自分がしたことの愚かさに気が付くことになる
「なら姫様、すぐに父上のもとに行きましょう」
「魔法使いのところへ?」
レヴァルは急にいきいきとしはじめると私の手を引いて魔法使いのところへと連れて行かれた。そこには魔法使いと私の父がいた。
「王さま、お父様、僕は姫様のものになりました」
ねってうれしそうに私に同意を求めてくるからうなずいてやればレヴァルは嬉しそうににこにこ笑う。なんだか調子がくるってくるな…?
「なんと次代魔法使いとわが娘がそんな仲に!なんと喜ばしい!!」
「たいへん光栄なことだ。レヴァルよ」
お父様と魔法使いのこの反応は??
「よし、レヴァルを姫の婚約者とする!」
「ちょっと、お父様待って!!」
私が止めようとするがもうその言葉は耳に入らないようだ。
「レヴァル、婚約って私そこまで…」
考えていないと言おうにもレヴァルの笑みが怖すぎる。
子供がする顔じゃない。
僕を好きにさせた代償はらってもらいますからね、姫様
その顔がそう語っている。
シンデレラとか今はどうでもいい…なんかやばくない????