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タレニウム公国救国史 大公代理フレイアは、政略結婚で国難を乗り切れるのか⁉  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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1話 「さあ! 俺と結婚しよう!」「……はあ?」

 轟音とともに室内が揺れた。

 さっきから投石器トレビュシェによる攻撃は止むことがない。目視での確認だが、セジェル王国の敵兵が使用している投石器は3機。


 その3機が順番に稼働しっぱなしだ。

 そのうえ、攻城櫓が2機、こちらに向かって移動していることが斥候から伝えられている。まだ遠目に見える感じだが、まもなく到着することだろう。


(櫓が来たら確実にやられる)


 ドンっと腹に響く重低音とともに視界が真っ白になった。

 天井部分から一気になにかが落ちてくる。

 頭を腕で守って顔を背けるが、破砕した木材が雨のように降り、どしりと背中を打った。


「いた……っ!」


 思わずうめく。

 破壊された木材の破片が、空気を濁らせ、視界を白くよどませた。


「大公代理! ご無事か!」

「ここだ! 無事だ!」


 騎士の呼び声に応じて息を吸ったがために、盛大にむせた。

 フレイアは首に巻いていたクラバットを手探りで外し、口元に巻き付ける。これで少しは呼吸がましになるだろうか。打った背中がまだじんじんする。


 視界は悪い。

 目も痛む。


 執務室として使用していた部屋では、いたるところでせき込み、うずくまる人影がうごめいていた。


(城が落ちるな)


 フレイアは煙と埃で痛む目をこすり、すん、と洟をすすりあげた。


 もはやここまでだ。

 2月前。敵国に落ちた要衝ゴステア城奪還を目指して王都から出たが……。


 目前のセシル城で足止めを食った。

 そして1週間と経たずにこのざまだ。


「誰ぞ、紙とペンを!」


 フレイアが声を張る。そして一気にむせた。

 破壊された天井と壁から強風が吹きこみ、視界が幾分ましになった。


 意外にもすぐそばに護衛騎士がいたらしい。

 真っ赤に痛む目をこすりながら、護衛騎士は机に手を伸ばす。


 その机も瓦礫が降り注ぎ、騎士は形ばかり手でそれを払ってフレイアに差し出した。


「降伏する。その旨を記す故、私の首とともに敵兵に差し出せ」

「大公代理!」


 紙を差し出した騎士が慌ててそれを自分の背後に隠した。

 彼だけではなく、室内にいた騎士たちが詰め寄ってくる。


「いけません! まだ逃げ道を探りましょう!」

「落城まで時間があります! 大公代理はお逃げください!」


 自分を取り囲む騎士たちは必死の形相だが。

 ふふ、とフレイアは苦笑いを漏らした。


「なにをお笑いか!」「大公代理!」


 途端に怒鳴られる。

 そのいずれの顔も血で汚れ、泥のように皮膚にこびりついている。


 宮廷では美男子、美青年の近衛たち。


 それがいまやどうだ。

 髪は埃で汚れ、顔は煤まみれ。鎧がまともに揃っている騎士はおらず、いずれもがどこか壊れたり、継をあてていたり。


「この国の臨時大公については、叔父上を推挙する。宰相が帰国次第、貴卿らはその指示に従え。ペンを」


 喉がいがらっぽい。

 フレイアは咳ばらいをしつつ、手を突き出した。 

 だが近衛たちから差し出される気配はない。


「貴卿らはまだ若い。生きてこの国のために尽くせ」

「この中で一番年若いのは大公代理ではありませんか!」


 近衛が詰め寄る。

 フレイアは目をまたたかせた。


「おや、そうであったか」

「その大公代理を敵に差し出すなど……さようなことできませぬ!」


 もちろんだ、と近衛たちが真面目な顔で頷きあうが、フレイアは肩を竦めた。かしゃ、と着慣れぬ甲冑が硬質な音を立てる。


「だがそれしかあるまい。もう城がもたぬ。領民のこともあるしな。私の命ひとつでこの場がおさまるなら安いものだ」


 ほれ、とフレイアは軽く手を振る。


「そちらは逃げる用意をせよ。私はいまから降伏の請願書を書くゆえ、それを」


 持参せよ、というフレイアの声は「おい、なんかおかしくないか?」といういぶかし気な近衛の声に消された。


「なにが」「攻撃が止んだ……」


 近衛たちが顔を見合わせる。

 はて、と。

 フレイアも動きを止めた。


 そしてようやく気づく。

 近衛たちの顔がはっきりと見えることに。


 攻撃が止んだ。


 そのために建物破壊が止まり、埃や白煙が沈静化したのだ。

 顔を上げる。

 口元を覆うクラバットを引き下げた。喉が軽い。

 投石器によって破壊された天井からは青空が見えた。晴れ渡る青空。


「きっと宰相だ! 援軍に違いない!」

「そうだ! 宰相閣下のお戻りだ!」


 ひし形に傾いで開かなくなったので、扉はすでに撤去されていた。

 その廊下から直接兵の声が聞こえてくる。


「宰相……」

 ぽかんとフレイアはつぶやく。


 自分が公都を出て進軍すると同時に、彼は隣国メンフィス王国へ向かわせた。

 協力依頼のためだ。


「援軍か⁉」「メンフィスが⁉」


 にわかに喜色が広がる。ぼろぼろの執務室内で、同じくずたぼろの近衛たちが手を握り合った。


 だが。

 フレイアは素直に喜べない。


 この状況でメンフィスが援軍を送るだろうか。

 セジェル王国に飲み込まれかかっているこの状況で?


 もし自分がメンフィスの立場なら様子見か。

 あるいは他国と連携を図って飛び火を防ぐ。


『申し訳ない。メンフィスへの調略・説得に失敗した』

 宰相の報告はそれなのではないのか。


「宰相を迎えよう!」


 近衛たちが扉口に向かおうとした矢先。

 ぬっと姿を現した男がいた。


「大公代理というフレイア嬢はどこだ⁉」


 一瞬、とうとう敵兵がここまで来たのかと思った。


 だから攻撃が止んだ?

 壊れた城壁に取りつき、侵入した。

 そして自分を捕らえに来たのか、と。


 だが、違うらしい。


 快活な声とともに、いきなり入室してきたのは金髪で大柄な青年だ。

 20歳のフレイアと年が変わらないのではなかろうか。まだ若い。


 そして、騎士であることは間違いないように見える。

 兜こそかぶっていないが、胸部は甲冑に覆われ、乗馬ブーツにも金細工がされている。


 肩口からは防塵と日よけが目的のマントが装着されており、そこからのぞく軍服には家門とおぼしき金色の刺繍がなされていた。


 青年は、フレイアと目が合うと小首をかしげる。


「貴嬢が大公代理のフレイアか?」

「そうだ」


 応じると、青年は屈託なく笑って言った。


「さぁ! 俺と結婚しよう!」

「……は?」


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