第六十話
「……んっ……」
「起きたかい?」
ゆっくりと目を開けると、レオに抱えられるようにもたれていた。
……一瞬、自分がどこにいるのかわからず、辺りを見回した。
「私、いつから寝ていたの……?」
いつの間にか、滝の流れる湖畔の木陰で眠っていたらしい。
「旅の疲れが出たんじゃないかな? 風が気持ち良くて、うとうとしていたからそのまま寝かせていたんだ」
「旅……」
そうだ。
私はレオと一緒に、生まれ故郷を訪れていたんだ。
物心つく前の大火で焼け出され、遠い地で育ったから……。
「……不思議ね。記憶はほとんどないのに、どうしてか懐かしいわ」
それはレオと見ているからだろうか……。
レオは大怪我の影響で私の記憶を失くしてしまったのに、それでももう一度、私に会いに来てくれた。
だから私も、レオと共にいるために、ここに来た……はずだわ。
「もう一日ここに泊まって、明日ストーンフォードの街に向かおうか」
立ち上がりながらレオは言う。
……私はどうして、ここに来たのかしら?
「っ、」
「アシャン! ……頭痛がするのかい?」
頭の奥に鈍い痛みを感じた。
思わず頭を抱えた私に、レオはもう一度しゃがみ込んで私を見てきた。
「ごめんなさい、寝起きの頭で考えてたらちょっと混乱して……」
「考え事? どんな?」
「……どうしてここに来たんだろうって……まだ寝ぼけてるのかしら」
誤魔化そうとした私を、あまりにも心配そうにレオが見てくるから……。
そんな間の抜けたことを口にしてしまった。
「どうしてなんてそんなの、一つしかないだろう?」
私の体を支えるように、レオは手を伸ばす。
「子供ができる前の身軽なうちに、君のご両親の墓参りに来たんじゃないか」
レオは緑色の瞳で、真っ直ぐ私を見つめてそう言った。
「…………え? ちょっと待って、子供?」
「何、もしかして君にはそんなつもりなかったの? ……君にならって、俺の全てを捧げたのに、君は俺の心を弄んで」
「ちょっと待ってっ!!」
レオがどこか悲しそうな顔をしながら言うから、思わず大きな声が出た。
「わ、私、だってそんな、子供ってまだ先の話じゃない!?」
「……そうか。君にはそのつもりがなかったんだね」
「だからちょっと待ってよ! だって子供なんて、結婚してからの話でしょ? 私たちはまだそんな、」
レオは、そう言った私の手を取った。
「うん。だから、俺たち結婚しよう。俺にはもう、君しか考えられない。……君の返事は?」
レオは私の手を取り、指先にそっと唇を落とした。
「……あなた今、私をからかったのね」
「そんなことないさ。俺はいつでも真剣だよ。君のことなら、なおさら」
私の手を取ったまま、レオが柔らかく微笑む。
「それで?アシャン、君の返事は?」
風が吹き抜ける。
優しい大地の匂いが広がる。
滝の澄んだ清らかな音。
温かい太陽の日差し。
以前、レオはおばあ様の故郷に対してそう言っていたけれど……。
本当に、そうだったのね。
この世の春を集めたような、自然あふれる私の故郷。
「……こんな遠いところまで、一緒に来てくれる人なんて、あなたしかいないわ」
レオの手が、私の頬に触れる。
「それは結婚してくれるってこと?」
「もちろん」
お互いの額をくっつけ、未来を誓う。
「帰りましょう、私たちの村に」
「そうだね。バイルが君の帰りを待っている」
「違うわ。私たちの帰りを待ってるのよ」
そう言って立ち上がった私に続き、レオも立ち上がる。
そしてレオは、ゆっくりと滝の方へ目を向けた。
「どうしたの?」
「……いや。行こう、俺たちがいるべき場所へ」
レオは一度目を閉じ、再び目を開け歩き出した。
私も彼の隣に並んで歩き出す。
これからもずっと ──
初投稿作品におつきあい頂き、ありがとうございました。
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