第十二話
翌朝、少し腫れた目のまま、じじ様を土に還すことになった。
じじ様が大事にしていた折りたたみナイフは、私が貰うことにした。
「お別れは言えた?」
土をかける直前、レオがそう尋ねてきた。
「……大地に生まれし子、儚き火のごとき命を携え、水の流れに抱かれ、風と共に舞い、やがて星に還る。旅立ちとは、この星の一部に戻ること。……だから、お別れはしないの」
「それは君の故郷の?」
「そう……。ばば様がしてくれた昔話の1つよ」
星の一部になると言うことは、振り返ればいつも、そこにいると言うことだから……。
だからこれは、お別れなんかじゃない。
……じじ様、またね。
埋葬を終え、戻ろうかと思った時、頭に包帯を巻いたバイルと目が合った。
直後、彼は何も言わず、顔を背けるように去っていった。
その姿がなんだかとても胸に引っかかった。
「このまま進めば、夜には拠点に着くだろう。……そうすれば、君も少しはゆっくりできると思う」
今はゆっくりすることが、良いことなのかもわからない私は、頷くことで返した。
そして何度か休憩を挟み、日も落ちた頃──
「さぁ、着いた。……ようこそ、交易都市ヴァルディアへ」
「交易、都市……」
街に入るための大きな門を潜り抜けて少し。
「ここが、白狼団の本拠地だ」
馬から降りて見る建物は──
「大きい……」
今まで見たことのないほど、大きな物だった。
森の家がすっぽり入ってしまう大きさだ。
「元々宿屋だったところを改装したからね」
「頭! 戻ったんですね!」
中から人が飛び出してきた。
「ちょうどいい。みんなを集めてくれ」
「はいっ!」
「……みんなに紹介するから、着いてきて」
バタバタとみんなが動き出す中、レオに促され建物の中へと進んだ。
中も天井がとても高く、広く感じた。
森の家とは全然違っていて、ここに自分が立っていることが、現実じゃないように思えた。
「今日からここで生活することになった子だ。良くしてやってほしい」
ソッと私の背中を押した。
それにハッとして、癖でずっと被っていたフードを慌てて取った。
「アシャンティです」
頭を下げて、挨拶をした。
フードを取って顔を上げた事で、広がった視界には、私が今まで関わってきた人数を全員集めたくらいの人がいて……。
ばば様に昔、こう言われた。
困ったら笑って誤魔化すのよ。
笑ってるうちに、逃げ道が見つかるから、って。
……でも今は、逃げられない。
だから、とりあえず笑ってみた。
ぎこちない笑顔。
でも精一杯の笑顔。
「よろしく、お願いします」
一瞬の沈黙。
「……女の子?」
「は? 頭女連れ込んできたのか?」
直後ささやき声がそこかしこで聞こえてきた。
何か言おうと口を開きかけた時。
「わっ!?」
突然レオがフードを被せてきた。
「……新しい仲間として大切にしてほしい」
フードを被り直してレオを見上げる。
そこにあったのは、私が知っているレオとは違う──白狼団の頭としての静かな笑顔だった。
今日はもう遅いし、個々の紹介は追々するということで、すぐに部屋へと案内された。
お風呂場、食堂、みんなで集まって話し合いをする部屋……。
そして私の部屋として連れて来られたのは、三階の、今は暗くて見えないけれど、海が見える部屋だそうだ。
「海は見たことないの」
「それは連れて行かないとだね。きっと、その大きさに驚くよ」
言われてみると、この街に入る少し前から、嗅いだことのない塩の匂いがした。
……ここにいれば、また精霊の声が聞こえるようになるかな……。
「俺の部屋は隣だから、何かあったらすぐに呼んで」
「うん、わかった」
「何もなくても、呼んでいいよ」
「……そ、れは、ない、と、思う」
首を振りながら答えると、レオは小さく笑った。
「アシャン」
どこまでも優しい声で、私の名前を呼ぶ。
「君は一人じゃない。どんなことがあっても、俺はずっと君の側にいるよ」
柔らかく笑ったあとで、「おやすみ」と言って、レオは出て行った。
その後ろ姿を見送った後、近くにあったベッドに倒れ込む。
この数日で、いろんなことがありすぎて、頭がついていかない。
じじ様のナイフに触れる。
……じじ様。
ばば様は……。
レオは、ここにいていいって言ってくれた。
ここが、私の新しい帰る場所になるようにしてくれている。
……でも、本当にそれでいいのかな?
私は、これからどうしたらいいんだろう……。
何も、考えられない。
考えようとすると、目の奥が熱くなる。
……明日。
明日、考えよう。
そんなことを考えているうちに、その日は眠りについた。




