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精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第一章

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第一話

初投稿です。

完結まで毎日投稿予定。

お手柔らかにお願いします。

いつものように薬草作りに使える植物を採りに湖畔に向かっていた。

籠を持ち、森の中を歩く。

この森で育った私にとって、ここは庭のようなもの。

誰かが怪我をした時、私の作る薬が役に立つ。

それが、私の小さな誇りだった。


──誰か来るわ──


脳内に声が響いた。

姿は見えないけど、私にしか聞こえない精霊たちの声。


──嫌な感じの人間よ──

──気をつけて──


複数の声が忙しなく脳内で騒ぎ立てる。

私は持ち歩いていた小型ナイフを、胸の辺りで握りしめた。


──右よ! ──


その声にバッ!と右を向く。

振り向いた私とほぼ同時に、私のより大きなナイフを持った男が木陰から出てきた。


「……こんな森の中で、当たりを引くとはツイてる」


私の顔を、……特に瞳を、まじまじと見たあとで、男はニヤついた。

その表情に、自然とナイフを持つ手に力が入った。


「なぁ、お嬢ちゃん。お前のその瞳は、宝石眼か?」


宝石眼。

その言葉にドキリと胸が跳ねた。

私の……ダイヤモンドのような宝石眼は、決して人に知られてはいけないと、じじ様たちに言われていた。


「まぁどっちでもいい。お前くらい上玉なら、高く売れる」


そう言って男が一歩、一歩と近づいてくる。

手のナイフを、咄嗟に男の方へ向けた。


「ははっ! そんなので威嚇して、お嬢ちゃんが刺すってか?」


──もう一人、近づいてくるわよ──


仲間が来るのかもしれない。

今のうちに逃げないと。

後ずさりながら、そう思った。

その時。


「これはこれは。物騒な場面に出くわしてしまったな」


声の方に目をやると、もう一人、銀髪の男が立っていた。


「……痴話喧嘩だ。邪魔すんじゃねぇ」

「随分と血の気の多い痴話喧嘩だ」


銀髪の男は小さく笑う。


「とりあえず二人とも、そのナイフをしまうのはどうだろう」

「うるせぇ! お前には関係ねぇだろ!」

「それはどうかな。もしかしたら関係あるかもしれないだろう?」


そう言って、後から来た男は私の方を向いた。


「……この男、君の知り合い?」


銀の髪の隙間から覗く緑の瞳を細めて、その人は聞いてきた。

首を横に振って答える。


「知らないそうだが、お前の言い分は?」


銀髪の男が、私から最初に来た男の方へ目をやった。


「だからつまんねぇ痴話喧嘩だ、って言ってんだろ? 拗ねてるだけだ。ほら、こっちに来い」


そう言って私に近づこうとする男。

思わず一歩、後ずさった。


「あー、そうだ。せっかくここで会ったんだし、俺の人探しに手を貸してくれないか?」

「人探しだと?」


銀髪の男の言葉に、ナイフを持った男は動きを止めた。


「……最近、この辺りで人さらいが起こるらしいが……犯人に心当たりは?」

「……はっ! 知らねぇなぁ」


──嘘よ! ──

──この人間、嫌いだわ──


「そうなのか? 若く、綺麗な女性を狙ってるそうだから、お前かと思ったんだけどな?」

「……さっきからごちゃごちゃとうるせぇ男だ。怪我したくねぇなら、さっさと失せろ」


それまで私に向けていたナイフを、銀髪の男に向けた。


「そりゃあ、怪我はしたくないけどね」


そう言うが早いか、銀髪の男は素手でナイフの男に飛びかかった。


「こうもあからさまに胡散臭い男を放置して帰れるわけないだろう」


ほんの一瞬の出来事だった──

飛びかかったと思った瞬間、ナイフが空中に跳ね上がり、男の体は地についていた。


「……うっ……ぐっ……」

「予告してから攻撃するほど優しくないんでね。隙のあるうちに倒す主義だ。……ねぇ、君ハンカチか何か持ってない? 」


私にそう聞いてくるから、持っていたハンカチを男に差し出した。

銀髪の男はそのハンカチで、器用に倒れた男を後ろ手に縛り上げた。


「……さて。君はここら辺の子かな?」


倒れている男を足で踏みつけている行動とは裏腹に、穏やかに笑いながら聞いてきた。


──優しい匂いがするわ──

──あなたと同じ、血の匂いがする──


今の踏みつけているという行動はどうかと思うけど、でも精霊たちに「優しい」と言われる人は少ない。

それに精霊たちは、匂いでよく人を判断するけど、私と同じ血の匂いって……。


「もしかして俺も怪しまれたりしてるのかな? 」


黙っていた私に、男は頬を掻きながら言う。


「怪しい人間じゃないよ。俺は通りすがりの……便利屋ってところ」


──大丈夫。嘘は言ってないわ──


その言葉に、小さく息を吐いた。


「便利屋さんは、人探しのためにこんな森の中に来たの?」

「ははっ!」


私の言葉に、穏やかに、柔らかく男は笑う。

何故笑ったのかと、その男を見上げ、真正面に捉えた。

優しく細められた目が、私の瞳を捉えた瞬間、少しだけ驚いたように見開かれた。

でもその直後、また柔らかく穏やかな瞳を向けられた。


「……君はとても綺麗な瞳をしてるね」

「え?」

「光の加減で、すごく輝いて見える」


その言葉に、咄嗟に目を逸らした。

青みがかった黒い長めの前髪を、瞳が隠れるように何度も触った。


「俺はコイツを連れてかなきゃいけないから、そろそろ行くけど、一人で帰れるかい?」


便利屋さんの言葉に頷いて返した。


「しばらくはこの森を出たところにある町の宿屋にいるから、用があったら訪ねておいで。ハンカチも返したいしね」


男の手をキツく縛り上げているハンカチの存在を、そこで思い出した。


「その時に、君の名前を教えてくれると嬉しいな」


そう言って便利屋さんは、縛り上げた男を連れて帰って行った。


──優しい空気の人間だったでしょ? ──


「……まぁ……優しい雰囲気の人だったね」


男を倒したあの一瞬の出来事や、そのまま逃げないように踏みつけていたところとかは、決して優しいだけじゃないと思うけど……。

でも、便利屋さんがいた場所は、穏やかな空気が流れていた。


──血の匂いが同じだったわ! ──

──だから彼は大丈夫よ──


「……その血の匂いって、」


私が聞き返そうとした時。


──彼、顔も整ってたわ──


精霊の一人が楽しそうに口にした。


「しっ、知らないわよ! そんなこと」


──あなた顔が赤いわよ──


「うるさいな!」


精霊たちの笑い声が聞こえる。

穏やかな空気に包まれた場所に、背を向け家路についた。

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