第94話 魔王が出陣するまで!、
「ふはははは、いいぞ! エルフの娘! こんなに楽しめたのは何百年ぶりだ!!」
魔力全開のラグエルと謎の薬でドーピングしたリンは激しい攻防を繰り広げていた。
「はは、ははは、 あっはははははははは!!!!」
リンの方も壊れたように笑う。
その目は獲物を狩る肉食動物を思わせるほど血走っていた。
お互い理性的とはあまりに遠い戦いを繰り広げていた。
自分の頭の上で繰り広げられるそんな様子を見てはぁ、とジャンヌはため息を1つつく。
「全くラグエル殿はなにをやってるんだか…。 とはいえ、こっちも同じようなものか」
そういってジャンヌは敵の方に視線を戻す。 そこには大きな蔓、頭に大きな花を咲かせた化け物とその心臓部と思われる部分に埋め込まれた女性の変わり果てた姿があった。
「禁術か。 己の自我まで失って見上げた忠誠心いや、歪んだ忠誠心だな」
グォォォォォォォ!!!!
蔓の化け物はジャンヌの漏らす独り言に答えるように大きく吠える。
そしてたくさんの蔓がジャンヌに襲いかかる。
その無数の攻撃を華麗な剣さばきでそれを全て断ち切る。
「無駄だ! せぇぃぃぃぃ!!」
さらに波状攻撃のごとく次々とくる蔓の攻撃をさばく。
「とはいえ火炎系統の魔法が使えないのは痛いな。 くっ!」
もちろんジャンヌは日々鍛錬を怠らずに鍛えているので前のソウタのようにスタミナ切れという事態に陥るのは当分先である。 だが、ジャンヌは先を急がなくてはいけなかった。 先程から『生命の樹』の付近で大きな邪悪な魔力の気配を感じ取っていた。 おそらくこいつら『戦争屋』の拠点で何か良からぬことが起こっているのだろう。 そんな焦りからジャンヌに隙が生まれ始める。
そして、
「くっ!? 」
かわしきれなかった蔓の攻撃がジャンヌの利き腕である右腕をかする。
かすっただけなのに右腕からは赤い血がとどめなく流れる。
そんなジャンヌに構わず蔓の攻撃は休むことなく彼女めがけてくる。
「下っ端!! そこをどけっ!!」
頭上の方から乱暴な声が聞こえる。
ジャンヌは弾かれるようにその言葉に従い大きく後ろに離れる。
すると先程までラグエルと戦っていたエルフの少女がものすごい速度で蔓の化け物の本体に叩き落とされ、さらには
「これで終いだ!! 『断罪火葬』!!!」
大きな球状の火の玉が蔓の化け物のに直撃すると大きな火柱となり、化け物周辺の森ごと焼き払う。
「ちっ! あのエルフっ娘ギリギリで逃げたか。 まぁいい、それよりあの『生命の樹』の方が面白そうだ」
「なにをやってるんだ! ラグエル殿!! あれだけ火炎魔法は使用してはいけないと言われていただろう!!」
まぁいっかとこの場を立ち去ろうとするラグエルにジャンヌは怒鳴る。
「なんだよ。 そんなこと言ってお前ピンチだっただろ? 助けてやったんだ、文句を言われる筋合いはねーな」
「あれは!… 」
ジャンヌが反論しようとすると上の方から呪文を唱える声が聞こえる。
「『恵みの雨』」
「ミカエル様!」
「そんなジャンヌを困らせるな、ラグエル。 ほんと貴様というやつは… 。 それとサリエル、すまないがジャンヌの治療をしてやってくれないか」
上を向くとそこにはミカエルとサリエルの姿があった。 ミカエルはラグエルを窘め、サリエルにジャンヌの腕を治すように頼む。
「…了解した」
サリエルはそれだけ言うとジャンヌの腕の治療を始める。
「で? なんであんたがこんなとこまで出てきてるんだ、ミカエル?」
「先程まで奴らの幹部連中と戦っていたな。もちろん、きっちり懲らしめてやったが 、そこで気になる話を聞いたんだ」
「気になる話?」
「ああ、なんでも先代の神様、エイラ様が『生命の樹』の近くの廃城にいらっしゃると」
「なんだよ。 じゃあその元神様を廃城から引きずり出して任務完了じゃないか」
「それは…… いや、実際行って自分で確かめなければ」
ミカエルは何か言いかけるがとりあえず自分の目で見てみると答える。
「まぁいいや。 面白そうだしそれじゃあ行くぜ! 『生命の樹』へ!!」
魔族の進行によって滅ぼされた国、この国はちょうどアラビア王国の隣に位置する国でかつては城下を中心に交易の商人達で賑わっていた国であった。 そんな国も今では見る影もなく、崩れかけた城に、魔族達が跋扈する街。 人っ子一人いないまさに死の街であった。 そんなボロボロの廃城の王座に魔王はいた。
「人間どもめ…俺がいない間にずいぶんなものを作ったな…」
「申し訳ありません! すぐさま部隊を編成して次の進行に…」
その魔王にサーニャは片膝をつき、自分の失態を誤り、次の進行の話をしようとするのだが、それは魔王によって遮られる。
「いや、俺が直接行こう。 それとサーニャ、しゃべり口調はそんな堅苦しくなくても昔のままでいいんだぞ?」
ニヤッと笑いながら魔王は言うがサーニャは戸惑ったように返す。
「いえ、ですがそれでは他のものに示しが…」
「うふふ、サーニャは何年経っても頭固いままね。 それにしてもあなたが直々に?」
後ろからやってきた女性はそんなサーニャの様子を笑い、魔王にどうして自分が出るなんて言うのか聞く。
「ああ、図に乗った奴らに再び恐怖を与えるためにな。 お前はどうする、ルノ?」
「もちろん、私も行くわ」
聞き返す魔王に笑いながら答える。
それに男もニッと笑い、
「なら決まりだな」
そう言う彼が拠点としている廃城の部屋からバルコニーへ出てしたの広場にいる集まる魔族達に大声で宣言する。
「皆の者、聞け! 次は俺も出る!! 先の戦いでは惨敗したが今度は俺たちの番だ。 図に乗った人間どもに魔族の本当の力を思い出させてやれ!!」
ウォォォォォォォォォォ!!!!!
魔族達の士気は一気に高まりそれを見る魔王も満足そうであった。




