第66話 覚えもなく逮捕されるまで!
「あれ? ここはどこだ?」
目をさますとベッドの上に寝かされていた。
「意識が戻ったのか!? 君! 至急、書視殿を読んで来るんだ!」
俺が寝ている周りには複数人の人がバタバタしている。
そして、なにやら先ほど指示を出していた男が俺に聞いてくる。
「君、自分が誰だかわかるかね?」
「ええ、あのここはどこなんですか? それとあなたは? いっ… 」
「その傷だ、あまり動かないほうがいい。 私の名前はハムザという。 この国で医者をやっているものだ。 詳しいことはこの後くる人が説明してくれるからその人に聞きくといい」
起き上がろうとすると胸に激痛が走る。
ハムザと名乗る医者は起き上がろうとする俺に安静にしていろといい、俺は再び横になる。
そして、問診のように身体のどこか異常はないかとあれこれ聞かれる。
状況が全然把握できない俺はただその質問に聞かれるがまま答えた。
しばらく質問に答えていると部屋のドアがコンコンとノックされる。
そして凛とした顔立ちのメガネを掛けた女性が入ってきた。
そしてその後ろから他に2人の男の人も入ってきた。
3人は同じような制服を着ており、どうやらどこかの役人のようだ。
「具合の方はどうだ。 病み上がりで申し訳ないが我々に協力してくれないか」
「はぁ…」
「いきなりで済まない。 私はアルシノエ王宮図書館三等書視、エディだ」
「あ、俺は冒険者をやってるハヤカワ ソウタって言います。 あ、えっと、ギルドカードは…」
「大丈夫だ。 君の持ち物は調べさせてもらった」
エディと名乗る女性はそういう。
なぜ俺が、ギルドカードを彼女に見せようとしたかというと、あれがこの世界における俺の身分証明書と同じ扱いだからで、もし、国の兵士や警察に捕まった場合それを見せて自分が何者か言う必要があるとルナから教えてもらった。
肩書きや何か調べ事に協力して欲しいと聞く限り、どうやらこの国の警察みたいだからルナの教えの通りやろうとしたのだが、どうやら必要はなかったらしい。
「ええっと、エディさん。 俺はなにに協力すればいいんですか?」
「ああ、君にはいくつか話を聞きたい。 なんせ君はあの時のプトレサンドリア図書館唯一の生き残りなんだからな」
ここで話がこんがらがってきたので少し整理する。
俺は魔王幹部フーカ、サーニャと共に『戦争屋』の植物使いミリアによってここ、アルシノエ王国に戦っていたドラゴンと共に飛ばされてしまったのだ。
そこにいた天使ガブリエルと共闘、手分けしてドラゴンとミリアを倒す事になった。
俺は単身ミリアを追い、建物に逃げ込んだ彼女とそこで戦い、なんとか勝利するも世界中の諸王が会議をやっている建物にしては警備の人どころか職員らしき人もいない事を不審に思い、建物を探索、そして、そこで出会った謎のエルフの少女に殺されかけた。
というのがここまでのことである。
これをそのままエディに話したところで信じてはもらえないと思うので、ところどころ誤魔化しつつ、その時見たことを話した。
ちなみに俺とミリアが戦ったあの建物がプトレサンドリア図書館であることがわかった。
「なるほど。 無理をさせて悪かった。 協力感謝する」
エディは頭を下げ部屋を出て行く。
彼女から聞く話によると今世界は大混乱らしい。
当然だ。 なんせ世界中のトップがみんなやられてしまったのだから。
それに加え犯人の足取りはつかめず、どこかの国が仕掛けた事件じゃないかと現在国家間で疑心暗鬼になっており、いつ戦争になってもおかしくないというのだ。
奇しくも『戦争屋』が望む通りの世界になってしまったということである。
とは言っても俺にやれることはない。
それどころかまだ満足に動けない身体なので、しばらくここでお世話になることにする。
数日して、再びエディが部屋を訪れた。
「あの、エディさん。 俺の持ち物返してくれませんかね? お世話になってなんなんですけど、長くなりそうなら俺のパーティの仲間に連絡を取りたいんですけど」
エディは俺の問いかけにはなにも答えず淡々と手に持っていた書類を読む。
「ハヤカワ ソウタ。 貴公を殺人及び複数の国家転覆罪の容疑で拘束する」
えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!????
「ベリアル! 貴様どういうつもりだ!!」
「騒々しいよ、カマエル。 私は可愛い部下にさに争いの種を蒔くように指示しただけ? なんか文句ある?」
ベリアルと呼ばれた女はカマエルと呼ばれた男に気だるそうに答える。
「あの生物兵器のことだ! 我々はあんなもの認めてない!」
「いーじゃん。 天界のどうのこうのとかもう私らに関係ないっしょ? それに、結局牛もトカゲもこっちが期待したほどの性能はなかったしね。 まぁ、雑兵としてならなんとか」
「貴様はっ… 」
「まぁまぁ、それにしてもうちのリンちゃんが面白いことやってたからいーぶんでしょ」
「それもだ。 あれはあのエルフの完全に独断行動だろう。 世界が今うまい具合に疑心暗鬼になってるからいいものを下手したら全ての矛先が我々に向いていたぞ」
「それならそれでまとめて潰せばいいでしょ。 それに結果が良ければ関係ないじゃん」
「我々とて、完全に準備ができたわけではなかろう! それに良い結果になるように尻拭いをしたのは私の子飼いたちだ」
「それはご苦労様。あんまりストレス溜めるとハゲるよ? それに…」
怒りが見て取れるカマエルにベリアルはずいっと顔を近づける。
「『神さま』のほうはなにも言ってないんでしょ? なら問題ないでじゃん。あの人も今更どうこうとかないでしょ」
笑いながらそう言い、ゲートを開いて何処かへ行ってしまった。




