第55話 怪物退治の依頼を受けるまで!
「了承しました。 伝えておきます。 それでは頑張ってください、ソウタ様」
「ソウタなんだって?」
「はい。 どうやらレベル100を超える冒険者を見つけたらしく、例の師弟制度を使うそうです。 なので、今回はそっちには行けないごめん、と謝罪してました」
イヴはケータイを耳から離し、ルナにそう答える。
今イヴたちは、皇都の中心に堂々とそびえ立つウァティカヌス城の中の客間にいた。
「でもどうせ連絡するなら私のケータイでもいいのに」
そう言ってルナは大の字にベットに飛び込む。
「それはルナさんがさっき怒りすぎたからじゃないですか?」
ティアラ隣のベットに腰掛けてクスクス笑いながらルナに言った。
「はい、愛想尽かされたのでは?」
「え!? ど、どうしよう!?」
ルナは急に飛び上がり、何やらブツブツと独り言を言い始め、1人で一喜一憂している。
そんなルナの様子を見てティアラとイヴはどちらとなく顔を合わせ、笑った。
「私もだんだん人間らしい『場の空気』を読むのに慣れてきた気がします。 どうでしょう、ティアラ様」
「うーん、ルナさんには悪いですけど良かったと思います。 ルナさんは本当に可愛いです」
とティアラは再びあたふたしているルナの方に視線を戻す。
どうやらルナはソウタにデンワで先ほど怒りすぎたのを謝ろうかどうしようか悩んでいるところらしい。
そんなルナを置いておいて、イヴが話題を変える。
「ところでティアラ様、レイラ様からの依頼の件どうしますか?」
実は先ほどまでイヴたち3人は皇女殿下との食事会に出席していた。 その席で皇女殿下、レイラから『お願い』をされていた。
「そうですね…。 レイラ様からの直接のお願いですし、 お父上やお兄様がいない今、必死にこの街を守ろうとしているレイラ様の力になってあげたいとは思うのですが…」
はぁとティアラはため息をついた。
なんとか力にはなりたいのだが、今回は相手が相手なのだ。
「恐らく相手は被害の具合を聞くに、魔物で間違いないでしょう。 魔物による共喰いもないわけではありません。 しかし、倒すとなればこの皇都周辺の強い魔物ですらエサにする強さを誇る魔物です。 それ相応の準備をしたほうがいいでしょう」
とイヴは今回の依頼の内容を分析し、意見をいう。
なぜティアラたちがレイラからそんな依頼をお願いされたかというと、実は現在レイラの父、つまり皇帝とレイラの兄である皇太子は主要国が集まる会議に出席するため皇都をしばらく留守にしている。 その会議にはレイラの母も同席しているため、現在城の留守を預かっている皇族は皇女であるレイラだけなのだ。 そんな中、最近皇都を付近で謎の化け物騒ぎが出ており、皇都に住む兵士や商人、冒険者たちがすでに何人か無残な姿で発見されている。 討伐隊を組もうにも正体のわからない敵にこれといった成果はなく、日に日に被害は大きくなる一方だった。
八方塞がりなそんな折、スイーンの街と皇都を結ぶ連絡線を魔物から守ったイヴたちの話がレイラの耳に入り、レイラから是非お願いできないか、と頼まれたのであった。
「まぁあの船での相手のお陰でレベルはまた上がりましたし、私たちでもやれるとは思うのですが、やはり相手が見えないとなると慎重にならざる終えませんね」
「はい。 その通りだと思います。 とりあえず受けるならまずは情報収集からやるべきでしょう」
真面目な話をしている中、ルナは結局デンワでソウタと話している。
ソウタがデンワに出た時のまるで飼い主が家に帰ってきた時の飼い犬のような、尻尾が生えてたら全力で降っているだろうルナの様子に2人は真面目なことを考えるのを一旦やめた。
「それで、昨日の話は受けてもらえますか?」
次の朝、3人はレイラのところを訪れていた。
栗色のセミロングの髪でまだ幼さの残る顔で背丈もティアラと同じくらいなのだが、空間がそうしているのか、それとも皇族としての威厳なのか、そこらの同じくらいの歳の少女とは別格な雰囲気の少女であった。その隣には近衛騎士のナタが
「怪物退治の件、承ります」
ティアラは片膝をつき頭を下げ、レイラにそういった。
すると、レイラはホッとしたような顔になり、
「ありがとう。 ティアラ、迷惑かけますね」
「いいえ、私もこの国に仕える騎士の家の次期当主。 これくらい当然です」
「ルナさんとイヴさんもありがとうございます。 私もお力になれることがあれば微小ながらもお手伝いさせてもらいます」
「私たちでよければなんだって怪物退治でもなんでもするよ! 私たちのリーダーはもっとすごい目標があるからねー」
ルナはドンと任せろというようにむねをの叩く。
「はい。そのリーダーは現在そこらへんほっつき歩いているので不在ですが」
そんなルナとイヴの様子にニコッとレイラは笑いかけ、横に控えているナタに
「ナタ、ティアラたちに手を貸してあげなさい」
「は! それでは私は別件があるのでこれで失礼します」
と部屋を出て行った。
それを見届けたレイラはふぅと息を吐き先ほどまでの威厳のある態度ではなく、年相応の少女のような顔つきになる。
「さすがに疲れますわ。 よりにもよって皆が出払ってる時にこんなことが起きるなんて」
と3人に笑いかけた。
そしてうーんと背伸びをする。
すると普段焦った様子なんて見せないティアラが珍しく焦ったようにレイラにいう
「レイラ様! はしたないですよ!」
「いいではないですか。 あなたの前なのですから、ルナさんもイヴさんも構えなくて大丈夫ですよ。 もっと楽にしないと堅苦しいでしょう」
けろっとした顔でティアラの注意をスルーする。
「え? え? どーゆうこと? ティアラとレイラ様は知り合いなの?」
「知り合いもなにも、小さい時からの幼馴染みなんですよ。 昔から真面目な娘で、あ、そうそう実はティアラが7歳くらいの時、ティアラのお父様とこの城に時にですね…」
「もういいです! あの時のことは!! あとルナさんこれ以上レイちゃんに昔の私のことはきかないでー!!!」
顔を真っ赤にし、涙目のティアラが必死にレイラを止めていた。
どれくらい必死だったかというと普段はきっちりしているティアラがレイラの呼び方を昔の呼び方のままレイちゃんと言ってしまい、本人が気づかないほどに。
「久しぶりにティアちゃんにレイちゃんと呼んでもらえました」
「もういいです。 私もういやです」
体操満足そうな顔のレイラと羞恥で疲れ切り、憔悴したティアラの顔が対照的だった。
「はぁ忘れがちだけどティアラちゃんのお家も結構偉いお家なんだもんねー」
「はい。 ただお二人からは最初のレイラ様はともかく今はそんな気配微塵も感じられません」
成り行きを見守っていたルナとイヴはそんな感想をそれぞれ漏らす。
「なぜでしょう。 ただ話を聞くだけだったのにとても疲れました…。 それより、レイラ様… 怪物の件でこちらの方で掴んでいる情報はないのですか?」
「呼び方レイちゃんのままでいいのに〜。 まぁ一応こちらとしても掴んでる情報は幾つかあります。 詳しい話は大臣のほうが知ってると思うので、あとで話すよう伝えておきます。 それでは、慌ただしいですが城ですが後ゆっくりなさってください」
こうして、3人はレイラのところを後にし、ひとまず、この街のギルドへ行って怪物の情報を集めることにした。
「それでは参りましょうか。 えーっとギルドは港の近くだから5番ゲートですね」
「すごいとこだね、ここ。 迷子になりそうだよ」
「はい、この『中央駅』からこの街の主要な施設や場所は繋がっているのでどこでも一瞬でつきますよ。 確かにここは迷いますね。 私も昔はよく迷子になったものです」
とルナが漏らした感想にティアラは笑いながら答える。
「それでは参りましょう!」
「で? どうするんです? その後自慢の傑作とやらもたった2人の冒険者にやられましたが」
全身黒ローブに身を包んだ女が同じく、全身黒ローブ姿の男にそういう。
真っ暗闇で手持ちの光くらいしか頼りないのでどんな場所かわからないが、どうやら声が反響しているので、広い空間であることは確からしい。
「フン、『アレ』は量産型だからな一体倒されたところで変わりはいくらでもいる。 それにそもそも『アレ』は数を持って敵を圧倒するものだからな」
男は嫌みたらしくそう答える。
「そう言って、本当はまともなものは実際ないんじゃなくて?」
「それはこれを見てから言ってもらえるかな」
男が指をパチンっとやると、暗い空間の壁に次々と明かりが灯る。
「これは…!」
「『アレ』と同様、うちの科学者たちがあれこれやって作った『古代種』の復元だ。 まぁ、いろいろといじくっているので本来のそれよりパワーアップしているがね。 やはり『人造天使』などという得体の知れないものより、太古の昔にこの世界を支配していたもののほうがいいに決まってるだろ? これも『我々』の勝利のためだ」
男はそう言い、高らかに笑う。
「それより、そちらの方は順調なのか?」
「ええ、間抜けにも一か所に集まってくれて。 言葉巧みに相手を騙すのは私の専売特許ですわ。 うまく間抜けな諸王たちに疑惑のタネを植え付けてやりますわ」
ニヤリと笑い女はそう言い返す。
「いよいよというわけか。 我らが主人の悲願が」
「ええ、来る終末に備えて…ね」




