第51話 皇都に着くまで!
「さて、これから『終末の笛』とかいう物騒な物を探しに行こうと思うのだが…」
空は雲ひとつない晴天。 本来であれば旅立ちの日としては最高のコンディションなのだが、吸血鬼たる我にとっては最悪な日である。 ただ、我はそこらの吸血鬼とは違うので太陽の光ごときではどうなりもしないのだが、そこは気分の問題だ。
しかし、それよりも厄介な問題が起きた。
「行こうとはおもうのだが、なぜお主が付いてくるのだ? シスター・セリア」
「なぜと聞かれましても、昨夜お話ししたではありませんか、ルークさん」
笛探しの旅にセリアも同行するというのだ。
なぜ、ルークが笛探しなど彼の趣味からいって関係のなさそうな面倒くさいことをしようとしているのかという事の発端はこのポルタの街へ魔王軍幹部と『戦争屋』などという物騒な連中が同じ物を目的に訪れたことにある。
彼らが求めていたのは『終末の笛』と呼ばれるもので、伝説によるとその笛を使うだけでこの世の全てを滅ぼすことができるとかいう非常に物騒な代物である。
それに危機感(そんなものを魔王軍か『戦争屋』に使われると世の美しい女性たちがいなくなってしまう!)を感じ、吸血鬼王で元魔王たるルークが先にそれを見つけ破壊してしまおう。 というのがこの旅の目的だった。
「前も話したが、とても危険なものになるぞ? だから、大人しくこの街にいた方が良いのではないか?」
「私としてはルークさんが心配ですし、それに私は一応冒険者の資格を持ってますしレベルは121、足を引っ張らないとは思いますが? それに久々に外の世界というのも回ってみたいですし」
その説得したい当人は行く気満々であった。 そもそもセリアが冒険者、しかもレベル100越えだというのには流石の我も驚いた。 まさに吸血鬼が銀の弾丸を食らったようである。
実際そんなことしたら我以外の吸血鬼は驚くどころかそのまま灰になって死んでしまうのだが…
それにもう一つ我にはセリアが付いてくるのに都合の悪いことがあった。 それは旅の行く先々で美しい女性たちと戯れることが出来ないという我にとってはこの旅唯一の楽しみがなくなるということであった。
正直先ほどはセリアの安全がうんぬんと言ったが、我にかかればセリアさえ積極的に戦闘に参加するということさえなければ1人の人間を守りながら戦うのは容易い。 が、美女探しなどとなるとセリアが同行してくると気軽にできなくなってしまう。 これがまた彼女は怒ると怖いことこの上ない。 いくら無敵の我とはいえ怖いものくらいあるのだ。
「う、うむ…。 しかしポルタの街の教会はどうするのだ? シスター・セリアがいなくなるのはまずいのではないのか?」
「その辺も抜かりわりませんわ。 しっかりと代わりの者に任せてきました。 …ルークさん私を意地でも置いていこうとしていませんか?」
この通り鋭いセリアである。 間違いなく、勝手なことは出来ないだろう。 美女が付いてくるというのは一見ご褒美のようにも思えるが考えてもみて欲しい。 いくら好物だとはいえ毎日カレーを食べさせられたらどうか? たまには他のものも食べたいとは思わないだろうか?
だが、どうやろうとセリアが下がりそうもないので大人しく諦めることにするとしよう。
…怒ると本当に怖いのだ。
「はぁ、我の負けだ。 付いてくるなりなんなりするが良い」
「さぁ、参りましょう! ところでその『終末の笛』というものがある場所は分かっているのですか?」
「確実ではないがある程度は予想がついている。 では行くとしよう」
こうして、ポルタの街から吸血鬼王とシスターの異色のコンビが旅立って行ったのである。
「ソウタ、ついたよ! 起きて!」
まだ頭は重いが、その声に重いまぶたを上げる。
「まぁだいぶ無茶したみたいだし、疲れてるのは無理ないけどもう港に着いたから船から降りないと」
そこには俺を起こしに来たルナの姿があった。
ギャルゲーにありそうな展開だな。
俺は寝ぼけながらも、というか寝ぼけてもなおそんなくだらないことを思い浮かべるのであった。
ルナはみんなデッキで待ってるよ? 早く準備してきてね、といい部屋から出て行く。
俺は大きく伸びをして船を降りる準備を済ませる。
準備を済ませ船のデッキへ行くとすでに準備を済ませていたみんなの姿と見知らぬ女性がいた。
「ほう、あなたがルナさんたちのパーティのリーダーですか。 図太い神経をお持ちなのでどんな方かと思いましたが、随分と冴えない見た目ですね」
「あ、あはは」
なぜか見知らぬ女性に初対面早々に罵倒される。
その言葉に女性の隣にいるティアラは苦笑いだ。
「なんなんですか、あんた。 初対面の人間にいきなりそんなこと言うなんて無作法にもほどがあるでしょ」
「これは失礼。 あんなことがあったのにもかかわらず熟睡してられるなんて常人じゃありえないことです。 確かに敬意を払わなくてはいけませんね、熟睡王。 さぁ、ルナさんたちは皇女殿下から褒美があるとのことなのでご案内します。 ついでにそこのデクノボウも付いてくるがいい」
そう言って女性は終始俺のことを貶してティアラとイヴをどこかへ案内する。
ルナがぽりぽりと頭をかき、苦笑いしながらソウタはどうする? と聞いてくる。
どうするもこうするも何がなんだかさっぱりわからない。
俺、寝ぼけてなんかやったのか?
「なぁ、ルナ。 何があったら初対面の人間にここまで嫌われるんだ?」
「あはは、えーっとね…」
とルナは俺が寝てる間に会ったことを話してくれた。
「はぁ!? ここに来る途中、海賊が船に乗り込んで来て乱戦になった!? しかも相手は魔獣を使って相当ピンチだった!?」
ルナ曰く、ここに来る途中海賊に襲われたのだという。 そして、海賊が操る魔獣との死闘を繰り広げたそうだ。 この時この船に乗っていた冒険者は皆戦ったのだが、中でもルナ、ティアラ、イヴの活躍がものすごかったという。 そこで皇国から褒美を与えるとして先ほどの女性(どうやら近衛騎士らしい)が迎えに来たらしい。 そして活躍したパーティが実は3人ではなく4人ということでもう1人はどうしたとなって事情をイヴが説明したらしい。
そしてあの対応である。
俺は船がスイーンの街を出てからすぐに眠りに落ちた。 さすがに体力の限界というやつである。 この船で皇都までは丸一日かかるというので、ゆっくり寝れると満身創痍で船の寝室へ、何かあったら起こすようにみんなに伝え寝たのである。
でもしょうがなくない? あんな化け物イノシシと死闘を繰り広げたんだよ?
そりゃ死んだように眠りますよ。
それに…
「いや、それイヴが絶対また余計なことを言ったんだろ! どんな説明をすればあそこまで俺の評価落とせるの!?」
「イヴちゃんは、ちゃんと説明するって言ってたけどね。 で、話は戻るけどソウタはどうする? このまま私たちと行く? それとも街を散策する? 私たちも皇女殿下と少し話をしたら戻る予定だからもちろんソウタのことは私とティアラちゃんで弁解しておくから」
つまり、ルナはこのまま俺が城へ行っても気が滅入るだけだろうから行かないほうがいいのではと地味な気遣いをしてくれる。
ルナ、それ地味に傷つくから…
だが、城に言ってもどうしようもないことは確かなので、俺は別行動をすることにする。
ルナは終始頭を下げていて、逆にこっちが申し訳なくなった。
俺はルナと別れ、とりあえず街のギルドを目指すことにした。 ルナたちとはケータイのおかげで別行動でも連絡取れるしな。 前ほど困ることはないだろう。 それにルナたちにもまだまだレベルは追いついてないわけだし、1日でできるクエストこなしてレベル上げの足しにしよう。
さすが、国の首都だけあって港から街の中心部に伸びる道には所狭しと店が並んでおり行き交う人たちも東京の渋谷や新宿などを思い出させるような密度だ。
色々と気になるものもあり、店を周りつつ時間を潰すのも良かったが、なにせレオたちのパーティと行ったクエストでも報酬は断ってしまったので、お金がない。 財布を潤すためにも、早急にクエストへ望む必要があった。
ギルドへ着くとこちらもものすごい賑わいを見せていた。 俺は早速ギルドのクエスト案内の掲示板のところへ行き、手頃なクエストを探しに行く。
「うーん、どれも金額は高いが、どれも高難易度のクエストばかりだな。 さすがに1人じゃどうしようも… うん?」
どれも難しそうなクエスト依頼だなと思っている時、同じようにクエスト掲示板の前にたたずむ女の子の姿があった。 何やらキョロキョロ辺りを見渡し挙動不審で怪しいのだが、何をやってるんだろう?
気になって見ていると彼女の手にクエストの依頼書が握られていることに気づいた。 なんだろう? あの娘も冒険者なのかな? でも見た感じ武器も持ってないし、それじゃあクエストの依頼かな? でもそしたらクエストの受付に言えばいいのに
俺は最初は関わらないほうがいいかなーとは思ったがなんとなく声をかけてみることにした。
それにあの娘、ずっと掲示板の前しかもど真ん中にいるからさっきからずっと他の冒険者の邪魔になってるし
「あの、さっきからソワソワしてるみたいだけどそこ他の冒険者の邪魔になってるよ」
俺はさりげなく声をかける。 すると彼女は冒険者の視線に気づいたのか慌てて掲示板の前から退く。 俺もその後を追い、何をしていたのか聞いてみた。
「あ、そ、その、 クエストを依頼したいな、と思いまして。 で、でも、私、お金持ってなくて、だから、内緒で、紙を貼ろうかと…」
彼女はそう言って持っていた紙を差し出してくる。
俺は紙に書かれた依頼内容をみる。
依頼内容: 依頼主の護衛と薬草探し
報酬: 3ゴルド
条件: 特になしですが 薬草の知識が嬉しいです
「なるほどな。 確かにこれじゃ受付の人に拒否られるわ。 確か最低100ゴルドからだったよな?」
「は、はい。 なのでこっそりと…」
確かにそうするのもありで、実際特に罰則もない。 だが、そう言ったのはだいたい邪魔になるのでギルドの人に剥がされてしまうのが通例だ。
まぁ、貼ったところで3ゴルドの報酬じゃ誰もやらんだろうけど…
俺は彼女に諦めるよう話そうと思ったのだが、
「や、やっぱ、無理ですよね。 仕方ありません」
と、こちらが言う前にトボトボ帰ろうとする。
俺は最初は受ける気は無かったのだが、なんだかそんな姿を見てかわいそうになり彼女のクエストを受けることにした。
「あの、俺でよければやろうか? そのクエスト? 薬草とかの知識はないけど」
このお人好しが後でとんでもないことになるのをまだこの時の俺は知る由もなかった。




