第35話 人造天使を止めるまで!
「ちょっと、話が違うんじゃないのかい?」
モニターの明かりだけが照らすだけの薄暗い実験室。
そこには破れた円柱の水槽と無残な姿になった若き研究者たちだった。
「これは私のせいではない。 この者どもが呆れたことに試運転をしたいと言い始めたから付き合ってやっただけだ」
床や壁のあちらこちらが研究者たちの血にまみれているそんな部屋でミーナはカマエルと対峙する。
「なにが私のせいじゃないだよ。 君が中身を調整したんだろ?」
「そうだが、むしろ計画の通りではないか。『人造天使創造計画』… 人間の永遠の繁栄を目的に造られた新たな労働力の担い手。 しかし本来の目的はそれだけではなく、むしろ敵対組織及び国の制圧できる戦力。 それは戦場で感情もなくただひたすらに敵兵を狩り続ける最強の兵士。 これを造る計画だろ? 君の父上と当時のベルン領領主の考えていたものは」
カマエルは坦々と答える。
そして薄暗い部屋の中で唯一光を放つモニターの方に目をやる。
「 出来損ない天使にしてはこの程度の働きなら及第点か。 これなら『我々』の計画の使えるコマとなるだろう」
「なるほど。君の目的は初めから、この『人造天使』を研究者たちから奪うことだったんだね」
「これは人間が扱うには不相応だ。天使である私こそが最適だとは思わないか? まぁこんな出来損ないで同じ名を冠することは業腹だが、悪くない出来だ。 この街も己の悪巧みのせいで滅ぶのだ自業自得だろう」
「そうかい。 君の言い分はわかったよ!」
ミーナはそういうとカマエルの不意を打つようにメスを飛ばす。
が、その投げたメスはカマエルには届かず目の前でポトリと落ちてしまう。
「なるほど。 うまいな。 しかも今のナイフは風属性の魔法を付加させていたな? 無詠唱で魔法とはなかなかやるではないか」
「僕の師匠は誰だと思ってるんだい? これくらいで驚いてもらっちゃ困るんだけど!」
ミーナは白衣の袖から再びメスを取り出しカマエルへ飛ばす。 しかしカマエルの対応は先ほどとは違い、それを避けた。
「そうだったな。 お前の師はあの天界の面汚しだったな。 なるほど、普通の魔法が効かないと見るや私たちの弱点をつこうとするとは」
カマエルはそういうとミーナへ向き直る。
そして体内の魔力を高め始めた。
その溢れ出す魔力はおもわず跪きそうになるほど神々しいものだった。
「さぁ、人の子よ。 私に逆らうのがどれほど愚かか、その身に味あわせてやろう」
街のあちらこちらでは冒険者や街の衛兵たちが『人造天使』と戦いを繰り広げていた。
「ソウタ様。 次の角を右です」
「おう! って俺だけ走ってイヴはズルくない? その羽根で飛んで」
イヴは街中で暴れている人造天使のように背中から真っ白な羽を広げてスイスイ飛んでいる。
「ズルではありません。私の中にある最速の移動手段を使用しているだけです。 それにこの飛行には魔力を大量消費しますので楽でもありません」
と答えるイヴ。
あれ? 心なしかムスッとしてません?
感情に乏しいとか言ってた気がするんだけどなんかいろいろ嘘っぽい気がする。
「ソウタ様。 お急ぎください。 一刻を争いますので。 次の角を左です」
くそ! 最速だって俺が追いつかなきゃ意味ねーだろ!
「ま、まだなのか?」
俺は息も切れ切れながらイヴに聞く。
「はい。 電波の発信源はすぐそこです」
とイヴは指をさす。
それはこの街で1番高い塔だった。
「あの塔の地下より異常な魔力を探知。 どうなさいますか?」
「どうなさるも、こうなさるもねぇ。 そいつが発生源だろ? だったらそいつをぶっ壊すだけよ!」
「了解しました」
俺とイヴは塔に入り地下の強い魔力エネルギーとやらを目指す。
地下へ進むと中はあの廃墟のような設備のある施設になっていた。
「おい…これって…」
「はい。 私のいた研究施設と同じようですね。 おそらくここで街で暴れている『人造天使』は造られたと思われます」
ってことはここで間違いなさそうだな。
でも、人が1人も見当たらないって変だな?
「なぁ、イヴ。 ここもあそこと同じで廃墟なのか?」
この質問に対してイヴは首を振る。
「いいえ、この施設はつい先ほどまで使われていた形跡があります。 おそらくこの施設の人間が1人もいないのは何者かの襲撃を受けたと考えるのが妥当でしょう」
襲撃を受けた?
なら操作する人間が消えたんだから外の人造天使たちも止まってもいいと思うんだけど
「まぁとりあえず、その強い魔力のある部屋ってのにいこう!」
俺たちは施設の最下層まで来た。
そして扉を開けるとそこには、
「なっ! ミーナ!? どうしてここに!?」
「はは、ソウタこそなんでここに?」
そこにはボロボロになったミーナと
「お前はランダスの街にいた…」
あのランダスの街であった背の高い男だった。
「 マスター及びソウタ様に危害を加える敵を認識しました。 これより通常戦闘モードより守護天使モードへ移行。 戦闘を開始します」
イヴはそういうと、この塔に入った時に邪魔だからと消した白い翼を再び広げ煌びやかに輝かせる。
それに比例してイブの魔力はドンドンと上がっていくのがわかる。
「お前は何者だ? ここで造られたものじゃないな?」
「私は『人造天使創造計画』検体番号052 検体名『イヴ』 貴方を危険因子と判断。実力をもって排除します」
すると肘から少し下を刃にし男へ切り掛かる。男はゲートを開き、剣を取り出しイヴの攻撃を受ける。
「なるほど。 10年前にすでに出来上がっていたのか。 通りでミーナ・ウィルキンスがいとも簡単に作り出せるわけだ」
俺はミーナをイヴと男の戦闘にまきこまれないように部屋の端っこへ運んだ。
「おい! これはどういうことだよ!」
「はは、ソウタこそなんで。 皇都に行ったんじゃないのかい?」
身体のあちこちに傷を作って苦しそうに答えるミーナ。
こういう時に回復魔法が使えないのが悔やまれる!
「いろいろあってな… ってそんなことはどうでもいい! ミーナの仕業なのか? 外で暴れてる人造天使は!」
「僕の仕業といえばまぁそうかな。 そこにいる男に頼まれて造ったんだからね。 罰なら受けるさ」
といい呻くミーナ。
頼まれて造った?
それはどういう?
すると後ろで大きな物音がした。
振り向いてみると、
「やはり欠陥品か」
腕の片方がなくなったイヴが転がっていた。




