第100話 魔王幹部を倒すまで!
俺は一気に加速し、魔王へ奇襲を仕掛ける。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺の降り下ろす剣は易々と魔王に受け止められてしまう。
しかし、易々と受け止めた鋭い爪はヒビが入りガラスのように砕けてしまう。
「ぐっ!?」
魔王にもこれには驚いて大きく距離をとる。
「お前ら魔族の弱点は知ってるぜ? というかお前も元勇者なら知ってるよな? 天使の魔力は魔毒を浄化する。 俺が今纏っているのはあのガブリエルの魔力だ。 天使の魔力と相性のいいこの刀。 いくらお前の魔力だろうが結界貼ろうが関係なく切り裂くぜ」
これもアザゼル受け売りなのだが、やはり少しは動揺したのだろうか、 最初に対峙した時よりかはいくらか警戒の色を見せている。
「なぜだ。 貴様は俺の昔の話を聞いたのだろ? なぜ、それでも人間や天界に味方をする」
「それを俺に聞くのか?」
「なるほど、勇者としての使命か…。 だが、仮に俺を倒したとしてもやつらは直ぐに裏切るぞ。 やつらは騙し、付け入り、利用する。 やつらは生かすに値しない。 それだけじゃないやつらは俺の仲間までも貶めた。 やつらは滅ぼされて当然なのだ。 行きていても益のない最低最悪の生き物だ」
「それは否定しない。 お前やお前たちの仲間が被ったことも同情はする。 だがな……」
俺はそこで一旦区切る。
「俺らは勇者だ。 誰かにちやほやされたいだのなんだので剣を掲げたわけじゃない。 たとえ、世界から蔑まれようと小さな助けを求めを声にも手を差し伸べるそういう存在であるべきだろ? 人間世界から捨てられたからなんだ、 天界に騙されたからなんだ。 お前はそれで1人になったのか? お前を信じてついてくる奴はいなくなったのか?」
「…………」
「さっきから聞いてると自分は今も正義だと聞こえる。 悪いがお前の今やってることは正義でもなんでもない。 ただの自暴自棄だ」
俺は再び剣を構え直す。
「その曲がった根性叩き直してやる。 かかってこい! このバケモノ!!!!」
「くっ! 向こうでも始まってしまったか!」
身体に電気を帯びるサーニャ。 彼女はその昔、勇者一行のメンバーとして誰も追いつかないそのスピードから『閃光戦姫』の異名でなお轟かせていた。 その誰よりも早いはずの彼女のスピードについていくルナ。 2人は目にも留まらぬ激しい空中戦を繰り広げられる。
「援軍に行きたかったら私を倒してからにしてよ!」
ルナは二刀の短剣を手に、華麗な剣さばきでサーニャを追い立てる。
しかしサーニャだってただやられるだけではない。 戦闘においては百戦錬磨である。
確かにルナに押されはしているものの隙をつき着実にルナへもダメージを与える。
だが、『エルフの秘薬』の効果で直ぐに回復されてしまう。
「これじゃあ埒があかない!! 神武式 『鳶爪』!!」
サーニャはルナの右手に握られていた短刀を叩き落とすとそのまま攻撃を防ぐ手段を失った右腹に蹴りを叩き込む。
攻撃を受けたルナは木の葉のように軽く飛ばされてしまい氷を突き破って海に落ちる。
それと同時に、あたりには不自然に霧が立ち込めてきた。
「はぁはぁ…… 魔王様のところに急がなければ…… 」
おそらくベンケイともう1人の少女との戦いでのものだろうとそう思いサーニャはその場を後にしようとする。
だが、
「なっ!?」
霧の向こう側、大きく穴の空いた方から攻撃が加えられる。
それはサーニャの左腿と右肩を打ち抜き、その傷からは留めなく血が流れる。
「クソ! 『怪鳥の羽ばたき』!!」
サーニャは霧を吹き飛ばすため魔法で風邪を起こす。
するとそこには左手に短刀を、右手には変わった武器を持つルナの姿があった。
「いやー、 これ本当にすごいね。 アザゼルが作ったらしいんだけど『マスケット銃』って言うんだって」
「あのクソ天使め…… うぐっ!」
皮肉そうにそう言うが痛みに顔を歪め辛そうな顔をするサーニャ。 飛んでいるのも辛くなったのかそのままルナのところまでゆっくり落ちてくる。
「どうした、さっさとトドメを刺すがいい…」
近寄ってきたルナにサーニャはそう言う。
しかし、ルナはトドメを刺すどころか最初の薬を飲む前の姿に戻ってしまった。そしてサーニャに尋ねる。
「………………ねぇ、なんで手加減して戦ってたの」
「何を言っている。 蹴り飛ばされてバカになったのか…」
はぐらかすようにサーニャは言うがルナは反論する。
「その蹴りだよ。いくら『エルフの秘薬』を使ってるからと言って魔王幹部の本気の蹴りを食らったらタダじゃ済まない。 なのに私は何もないってわけじゃないけどちゃんと動ける。 それだけじゃない、始まってからずっとあなたは手を抜いて戦ってた」
少し間が空き、ポツリとサーニャが語り出す。
「……私の中にもどこかこの現状に思うところがあったのかもしれないな」
「え?」
「『自分の正義を貫け』、私と、いや私たちが『あいつ』がした約束。 しかし、今の私はその約束をした頃の私には胸を張って会うことはできないだろう。 私たちの理想はどこかで狂ってしまい今は全く違う方向へ進んでいる。 それでも私は『あいつ』の元を離れる気は無かったが内心、誰かにこの状況を変えて欲しいと思ってたのだろうな」
それはサーニャにしかわからない独り言であった。 しかし、ルナは口を挟まず、かつて同じく勇者の元に集った仲間としてその彼女の後悔を聞く。
「ソウタならやってくれるよ、きっと。 ソウタならあなたや『あなたの大切な人』を前みたいに戻してくれるよ。 なんたって魔王とは違って『遠くの世界』からきたおとぎ話に出てくる勇者なんだからね。 ぜーんぶまとめてなんとかしてくれるよ」
ニヒヒっとルナは笑顔で全て話し合えたサーニャに答える。
それをみたサーニャは自然と笑みがこぼれる。
「全く、あんなのに救われるとはな」
その顔はまるで憑き物がとれたかのような笑顔だった。




