テディベア
舞い散る雪が黒く染まった髪の上にそっと舞い降りる。黒に白はよく映えた。彼女のつむじはいつ見ても魅力的だ。
「あ、またつむじ見てたでしょ」
隣を歩く背の低い彼女が不機嫌な顔で僕の瞳をじっと睨んだ。長い睫毛に小鳥眼。黒く丸く縁取った、透き通る深い闇の色はいつ見ても美しい。僕は笑って彼女のつむじをつんつん押した。
「ばれた? 可愛いんだもん。大好きだよ」
「……大好きって言われてもつむじは照れないよ。赤くなったりしない」
つむじを褒めても彼女は喜ばない。僕の大好きな彼女の部分、第2位なのに。3位は瞳で、1位は後頭部の丸さ、カーブだよ。撫でると落ち着くんだ。ふいに手を伸ばして彼女の最大の魅力、後頭部に触れようとすると、ついっと横に逃げられた。
「樹の後頭部撫でる手つきはなんかきらい」
僕の顔を見ようとしないで彼女はそっけなく言う。冬の風が彼女の火照った顔を撫でていく。彼女の吐く息と言葉は相反して白と黒のコントラストだ。横目に彼女の様子を伺うと彼女の透き通る肌に触れたくなった。が、引き止める。これ以上は怒られるだろう。
「……でも、撫でられるのはきらいじゃないだろ?」
「……外ではやらないで」
キャメル色のダッフルコートに両手を突っ込み、彼女はヒールをコツコツ鳴らして先を行く。わたしは怒っているよ、サインだ。僕は彼女の後を駆け足でついていった。
クリスマスの飾りつけに包まれたショッピングモールに入る頃には、不機嫌顔の彼女の右手は僕の上着のポケットの中にあった。大人しく指を絡めてくれている。彼女はあまり手を繋ぐのが好きではない。長い年月を共に過ごし、僕たちも大人になった。26歳になった今、外で恋人らしいことはあまりしたくないらしい。僕はしたいけど強要はしない。でも今は手を繋いでくれている。さきほどの発言を少し気に病んだのか、僕の左手を彼女は拒否しなかったのだ。ここぞとばかりに口角を上げ、僕は彼女のあたたかい手のぬくもりを感じた。
「あの人かっこいい! ハーフかな、金髪碧眼!」
「隣の女の子もかわいいね、あの髪型わたしも真似しようかな」
僕が中央にそびえるおおきなクリスマスツリーに目を奪われていると、そんな声が聞こえてくる。二人組の女の子たちが僕たちを見て、チークでほんのり染まった顔をさらに紅潮させ、ブーツをコツコツ、カッカッと鳴らし僕たちとすれ違う。僕はにこりとしたけど彼女は唇を前に突き出してそっぽを向いていた。僕は言う。
「正確に言うとクォーターだけどね」
彼女は言う。編みこみマフラーに鼻までうずめて。
「そんなの誰も分かんないよ、ハーフとクォーターって顔立ちでわかるものなの?」
「んー、どうだろう。わかんないなぁ」
僕がアメリカ人みたいに肩をすくめておどけてみせると彼女は笑う。彼女の笑顔はとても綺麗だ。目を細めて、歯を見せて、彼女は無邪気に笑う。彼女の一番可愛い表情だ。彼女を友人に紹介するたび、璃子ちゃんは澄ました顔が綺麗だね、横顔が綺麗だ、とみんな言うけれど、僕は無邪気に笑う彼女の表情が一番魅力的だと思う。
璃子は足を止め、突然「あ、そうそう」と言う。
「茉莉にプレゼントするぬいぐるみ受け取りに行かなきゃ」
「クリスマスプレゼントにテディベアだなんてベタだね」
嫌味たらしく言ったわけではないのに彼女はまた顔をしかめる。ころころ表情が変わって面白い子だ。璃子はリスみたいに頬を膨らませ、僕の手を強引に引っ張った。




