滅亡7
フレロレ
「やっぱりって……、お前はまるで前から知っていたみたいな口ぶりだな。フレロレ。」
キーデルの静かで重い一言が僕の心にのしかかる……。
そう、僕は前から知っていた。確証はなかったけど……。
キーデルがトルニエ事件に始まり、辻斬り事件、スライルさんの解任およびスライルさんの処刑を裏で操っていたことは……、これもやはりなんとなくわかっていた。
そもそも最初のトルニエ事件を成り立たせるためには二人が協力しないと成り立たない。
トルニエ様か、ゴルジオ様が……。
でもその二人は違った。となるとこの事件の犯人は……、その二人とかかわれる人物……。
特にトルニエ様をこの一件に関わらせようと僕が提案するたびにキーデルが必死に反対するところに違和感があった。
最初は違和感だった。
「知っていたよ……、確証はなかったけど……。」
「確証がないのに知っていたって言えるのかよ……。」
この一連の事件はゴルジオ様が中心に動いていた。
しかし彼には、戦略を練るだけの力はない。
彼の下で頭を使う人間が引き起こしている。
そうなると、必然的に……キーデルになる。
しかし、彼には動機がない。
自分の上司の願い、ゴルジオが望んだからと言ってここまで大規模な事件を起こすか……、それはない。まだ親しくなって数か月の段階で事件が起こったのだから……。
そう思っていた。
けどあった。
あの人はよくこう言っていた。
俺は武人、戦いの中でしか生きられない。
これは彼のトルニエ様への恩返しだ。
「……言えないね。……言わなかった時点で言えないよ……。」
ただ、それと同時に彼が真犯人でないことをどこかで祈っていた。
僕の間違いだと思いたかった。
だから、誰にも言いたくなかった。
キーデルは友達、こんなことをするなんて考えられなかったし、考えたくなかった……。
「ハッ、昔からお前のそう言うところがフレロレだよな。分かっているようでわかってなくて、結局足を引っ張るだけ!」
グレンが僕の背中を押してくれて強くなった気がしていた。
僕の意見が周りを変えていくところを見て、自分は変われたと思っていた。
でも結局そう、変わったようで変われてなんかいなかった。
引っ込み思案でチャンスを棒に振る……弱い人間さ。
僕は偽物……。
「ハハッ!」
がっくり肩を落とす僕の後ろから短い笑い声が聞こえた。
「そんなことはない。そんなことはないぜ、フレロレ!あいつが言ったのはお前に対するたかだか一つの見解だ。俺の見解を言わせてもらえばお前ほど一緒にいて心強い人間はいなかったぜ、フレロレ!」
……グレン。
いつだって君は僕を導いてくれる……。
「革命者や大統領なんて世界で通用する大それた肩書はないけどお前の親友の肩書を持つ俺がそう言うんだ自信を持っていいぜ。」
振り向くとグレンは僕に親指を突き立てて静かに笑っていた……。
「……ありがとう。」
涙がこぼれる……。
これは臆病者の涙じゃない、臆病者と決別するための涙だ!
キーデルの後ろにずらりと兵が並ぶ。
出口は完全に塞がった。
この状況で生き残るのは……、正直難しい……。
だからこそ、彼には言っておかなければ、
「キーデル、君はすごい。これだけの曲者、強者を相手に戦いを挑み、そして勝ったのだから……。トルニエ様が言うところの君は賢者だったよ。それは間違いない。誰にも気づかれなかったのは自分に嘘をつき続けたからだろう。でもね、君は偽物だ。君は偽物の賢者だ!」
「ふん、友の遺言として聞いておくよ。」
軽く流された。
もう彼に友の言葉は届かない。
届くとしたらここにはいないトルニエ様だけだろう……。
彼といなかった期間に何があったのだろうか……。
国の威勢者であるスライルさんや旧友である僕やグレンよりもトルニエ様を選んだ君に……。
トルニエ様のためならこの世界の他の何がどうなってもいいという考えはどこから来たのか……。
わからないけど僕はそんなになっても、僕を裏切ることになっても君のことは友達だと思っているよ……。
「もう僕から言うことはないよ。これからの君の人生が幸せだといいね。」
握っていた剣を手放した。
反響音が無常に響いた。
君は知らない。
いや、知っていてあえて目をつぶっているのかもしれない。
僕がトルニエ様を訪ねたときに一つだけした質問、
「あなたはこの世界が好きですか?」という問いにトルニエ様は「好き」だと答えた。
それは彼がついた嘘だ。
彼が答える前のあの間……。
あのとき、トルニエ様は嘘をついた。自分に。
自分はスライル様が作った世界を愛しているという嘘を……。
自分は平和を愛しているという嘘を……。
俺は武人、戦いの中でしか生きられない。
彼がよく言っていた言葉だ。
彼が本当に求めているものは僕もその時気づいた。
今も本来の自分が輝ける世界をまだ求めているかもしれない。
何のしがらみもなければ「嫌い」と答えていたはずだ……。
でも、考えてほしい。
なぜあのとき何でもなかった僕にわざわざ彼は、
優しい嘘をつくことを選んだのかを……。
君はそのことにちゃんと気づいているのかい?




