滅亡6
メンデル
王宮入口から怒声とともに敵が雪崩のように押し寄せてきた……。
ようやくキーデルのところから合図が来たようだ。
さて動くか。
王宮の入り口は狭い。一度に通るには多くても10人ぐらいだろう。
ただずっとそこを防衛しているだけでは乱戦にはならず、スライルさんたちの脱出経路を確保できない。
軍全体を前に……。
かと言って散り散りになるとサポートが立ち行かなくなりすぐに全滅してしまう。
このさじ加減は長年、戦に身を投じてきた私だからこそわかる経験というやつだ。
いち早く陣を構える。
戦において初期陣形が締める勝利の貢献度は80%である。
陣形が勝敗を分ける。
乱戦が続く。
もともとわが軍は戦争孤児を集めてできた軍だ。
戦そのものに恨みを追っているものも少なくない。
士気は何もしなくても高い。
数が圧倒的に少ないが善戦している。
当初の予定通り上手くいきそうだ……。
それにしても向こうの攻撃があまりに単調な気がしてならない。
攻撃に意図を感じない……。
ただ突っ込ませただけのような……。
トルニエ様が手塩に育てたとか言うわりには平凡な……。
まあ、気にしすぎか……。
乱戦のまま壁沿いに軍を伸ばす。
これで大丈夫だ。
乱戦が王宮の入り口から出口である門まで続いている。
これでスライルさん、グレン、フレロレの3人とも中をかき分けて出口まで来れるだろう。
そのときが来るまでこの乱戦が持てばいいだけだ。
あとは……、そう言えばキーデルに飛び道具に気をつけろとか言われたな……。
まあ、両軍入り乱れているこの状況で飛び道具なんて使えば、自軍への影響も大きくなる。
警戒の必要はないな。
「メンデル将軍」
振り返らなくてもわかる。オーネンスだ。
彼には軍の細かい異変を見てもらっている。
何か予想外のことが起こったか……。
「どうした?オーネンス。」
振り返ろうとした瞬間、
「お許しを!」
その言葉とともに背中から鈍い痛みが……。
下を見ると自分の腹から銀色の刃物が飛び出ている……。
「……なぜ?」
私の右腕であるオーネンスが……、なぜ私を……。
「……ウッ、ずびば、……せん。」
鼻をすすりながら、嗚咽しながら彼はそう言った。
彼の様子から察するにただならぬ事情があるのだろう。
私は武将、死ぬときは戦場だとは思っていた。
いや、戦場で死にたいと思っていた。
まさか味方に殺されるとは思ってなかったか。
いや、この状態のオーネンスを味方と呼べるだろうか……。
誰かに操られているとしか考えられない……。
操られているというか脅されている。
彼は賢い。
安い脅しには屈しない。
彼が一番大切にしているもの……。
家族……。
それをネタにできるもの……。
オーネンスを知っている人物。
そして、私のことが邪魔な人間。
……ゴルジオ。
いや、キーデルか……。
やられたよ。
飛び道具っていうのは彼のことだったわけか……。
なるほど必殺の飛び道具だな……。
目的はわからないが担がされたわけだ私は……。
「もういい。もう行け、オーネンス。なるべく私の部下たちを死なせないでくれ。私からの最後の願いだ……。」
「長い間お世話になりました……」
薄まりつつある意識でそう言うとオーネンスはどこか立ち去った。
まわりが急に静かになる。
スライルさんが言っていた闇の正体……。
今ならなんとなくわかる気がする……。
彼はガルネシア王を殺したことをいつまでも心残りにしていた……。
その罪の意識に耐えられなくなったのだろう。
トルニエ様が反乱を起こしたことをきっかけに……。
いや、そこがトリガーじゃないかもしれないが……。
私もたった今おそらく消えない傷を負わせてしまった。
スライルさんとは逆の立場だけど……。
彼はまじめだ。
私か家族かの2択を迫られて……。
そしてそのあと苦しみ続ける。
どちらを選んでもきっと……。
私が黒幕の存在にもっと早く気づいていれば……。
こんな事を言っても仕方ないだろう……。
この先君に寄り添って困った時に手を貸すことはできないが、
私から言えることは生きて、そして、……。
もう何も出てこない……。




