ブローム、7
ゴルジオが猪突猛進でテロリストに突っ込む。
甘いんだよ、バルテニーさんは!
剣を抜いた相手に話し合いでどうにかしようなんて!
所詮は武器をもって振り回している奴らなんか全員前時代の野蛮なサル、話し合いでどうにかなるわけがない。
こっちにも奴と同じ言語を話せるゴリラがいるんだからそいつらで勝手にやらせておけばいい。
ゴルジオがいなければ全員このテロリストに殺されていただろう。
あのゴリラが初めて役に立った。
いつだってそうだ。
何かにつけてやれ殺せ、やれ壊せ……。
昔からそんなんばっかりだ。
力こそすべて、殺し合いに制するものが世界を制する。
だが、残念なことに私は腕っぷしが強くない……。いや私は弱い。
そんな私がいくら頑張っても威張れる日は来ない。
私は王様になりたかった。
私が望むものを望むように……。
あの時代は力こそすべて、弱ければその辺の石ころと大差ない。
あのころ人や建物はすぐに壊れた……。
私は戦えないから、私にできることと言えば壊れたところを直すこと。
誰に褒められることもない。むしろ戦場に出て行かない私を多くの人間がさげすむような目で見ていた。
本当は誰よりも強くなりたかったのに……。
そんなとき、スライルさんに出会った。
世界を変える。彼ははっきりそう言った。
そんなことできるわけがない。最初は戯言だと思っていた。
しかし、彼はやり遂げた。
世界は目に見えて変わった。
そのとき彼なら私でも誰かの上に立つ人間になれる世界をつくれる。
力がものを言う時代ではない。新しい時代が来る。
そう思って彼についていった。
その権力のおこぼれを手にするために……。
けど、現状はどうだ。
ゴルジオがいなければ今頃私が大統領だったに違いない。
あいつのせいでおこぼれすらナートルに取られた……。
やはり、俺を見てくれて、俺を取り立ててくれるのはスライルさんだけだ……。
あの人がいない世界に俺の生きる価値はない。
一番いいのはこのままテロリストとゴルジオが共倒れになり、本格的な軍事排除政策を私が打ち出す展開になること……。
剣と大矛がぶつかり合う耳障りな金属音が部屋中にこだまする……。
その昔、ゴルジオに1対1で勝る人はいないと聞いていたが、こいつ一人で乗り込んでくるだけあってなかなか強い。
互角か……。もしかすると……。
ゴルジオの大矛がこの部屋には、椅子や机があってうまく立ち回れていないように見える。
さらにテロリストの方は小回りが利くだけでなく置いてある机やいすをうまく使ってゴルジオを翻弄できている。
それならそれでいい。ゴルジオくたばれ!
「俺ではお前に勝てねぇな。」
劣勢のゴルジオが負け惜しみじみた言葉を吐く。ざまあみろ!
「……天下の大将軍様がみっともない発言だな。まあ、やる気がないならそれに越したことはない。俺の目的は黒幕を探し出すことだ。」
「余裕がないなー、お前。人の話は最後まで聞きな。」
どの口が言ってるんだ!
お前だって私の話聞かないじゃないか!
と心の中で叫ぶ。
「俺が勝てないのは現時点での強さがお前の方が強いということだ。だが、一瞬で俺の方が強くなる方法がある。」
何言ってんだあいつ。
これだから低能な筋肉ゴリラは意味深な言葉を吐いてはすぐ調子に乗る。大した意味なんてないくせに!
そもそもの話、だったら最初からやれって言うんだよ!
余裕があるふうはいらないんだよ!
「ほう、なんだい?覚醒でもするのかい?秘めた力を開放するとでもいうのかい?」
「そんなわけないだろう。簡単さ。」
そう言って無造作に振り上げられたゴルジオの大矛が真っ直ぐ……
私にいいいいい!?
ゴルジオの大矛が私の体を切り裂く。
胸から腹にかけて体が……右と左に……。
「うわあああああああああ!!!!!!」
痛い痛い痛い、ただ身悶えするしかない……。
胸が引き裂かれ、血がとめどなく流れでる。
熱い熱い熱い、体が熱い。
体温が、血が、マグマのようにただ熱い……。
苦しい……。
呼吸が……。
意識が遠のく……。
何で私が……。
結局自力が何もない人間はいざというときに……。
もう頭も回らない……。




