グレン、7
捜査隊会議でキーデルからまたもとんでも情報を聞いた。
スライルさんが捕まった?
それも処刑するために?
何を馬鹿なことを!
こんな横暴許されて言い訳がない!
あの人がどんな人か知らないのか?
何がどうなってそんな結論が出たっていうんだよ!
5人会議っていうのは豚の集まりか!
「落ち着いて、グレン。」
これが落ち着いてられるか!
「なんでお前はそんなに冷静なんだよ!フレロレ!」
親友の妙に冷静な顔にますます怒りがこみあげてくる。
「落ち着かなきゃだめだからさ!ここで興奮して後先考えずに暴れまわったら、大事な時に大事な場面にいられなくなるよ!」
「そうだグレン。ここで興奮しても何も始まらない!」
フレロレとキーデルがなだめてくる。
「……。」
確かにここで怒りを爆発させても始まらない。
熱くなるな。
大事な時ほど冷静に、だ……。
「わかったよ。すまない。」
「そうやってすぐ熱くなれるところはグレンのいいところさ。ただ時と場合をわきまえてくれればね。」
「ようやく落ち着いたか……。じゃあ続きを話すぞ。事の発端はうちの馬鹿な上司ゴルジオが会議を早く終わらせるために誰も賛成しなそうなスライル様の処刑を提案したところ、現大統領のナートルとその部下がその提案に乗ってきて可決して今の状況になっているらしい。」
「しかし、しばらく離れているうちに権力が暴走しているね、5人会議は……。」
フレロレがぼそっとつぶやく。
確かに、人一人の命を自由にできる、そんな機関ではなかったはずだ。
今までそうじゃなかったのはスライルさんがこの国の良心として悪の道へのブレーキになっていたからか……。
とりあえず今確認しておかなければならないのは……、
「スライルさんの処刑までどのくらいある?」
「1週間だ。」
「場所は?」
「わからない。まだ決まってない。ただ、そんなに見渡しがいいところではないのは確かだろう。スライル様の知名度や影響力は一般市民にも及ぶ。処刑が秘密裏に行うことは決まっているらしい。」
「お前のところにも情報が入らないのか?」
「いや、そのうち入るだろう。ゴルジオ様は口が軽いから……。ただそれがいつかはわからない。」
……期限は一週間。
今はそれしか情報がない……。
いや、そうじゃない。
俺はどうしたい?
俺は……、
「グレンはどうしたいの?」
フレロレがまさに今考えていることを質問してきた。
俺は……、
「俺は……、救いたい。今まで大きな恩を受けたスライルさんを、そして姉ちゃんたちが安心して暮らせる国を!」
そう言うとフレロレは黙ってうなずいた。
顎に手を当てて何やら考え事をしていたフレロレは言った。
「キーデル!君はゴルジオ様を説得できないのかい?」
「ん?どういうこと?」
「いやだから、5人会議内でその決断が覆らないのって話だよ!」
「そう言うことか……。ゴルジオを説得……。あの時俺が5人会議の内容をゴルジオに丸投げしなければ、結果は変わったかもしれないが……。これは奴が勝手に考え、勝手に出した答えだからな……。聞く耳を持ってくれるかどうか……。特に最近の部下への八つ当たりは目に見えて悪化しているからな……。」
「ゴルジオ様と君が僕たちと5人会議を繋げる唯一の橋なんだけど……、ダメみたいだね。」
もう一度会議をひっくり返すのは難しいか……。
「どうするんだ、フレロレ?」
フレロレは悩んでいるようにも困っているようにも楽しんでいるようにも悲しんでいるようにも見えるように考えていたが、やがて決意した男の目をして言った。
「仕方ない、一度、僕たちでこの国を滅ぼそう……。」
……え?
目を見合わせたキーデルも驚いた表情をしていた。
まさかフレロレがこんな思い切ったことを言うなんて……。
あの引っ込み思案だったフレロレが……。
いや、もうあのころのフレロレじゃないんだな……。
やれやれ、いつの間にかずいぶん大きくなっていたんだな……。
キーデルは俺と目が合うと黙ってうなずいた。
「わかった。お前にスライルさんを、この国を、そして俺を預ける。フレロレ、俺は、俺たちはどうすればいい?」
「僕たち以外にもスライルさんが処刑されることに不満を持つ人はいるはずだ。とりあえず仲間が増えればそれだけ戦略が変わってくる……。仲間にならなくても噂を振りまくことが勝利の布石になる。」
「じゃあ、俺たちはこの事実を言いふらせばいいんだな!」
「いや待って、グレン。僕たちがやろうとしていることは国の方針に逆らうことだ。ばれたら逆賊扱いされて軍を起こされたら僕たちは立ち向かう術がない。こっちにキーデルがいるとはいえね。」
「ええっと、じゃあどうする?秘密裏にやるのか?できるのかそんなこと?」
「政府の役人に知られずに噂を広める方法なんてないよ。」
「何を言ってるんだ?じゃあどうする気だ?噂は広めたいだけど、噂を広めて目をつけられたくはない……。気持ちはわかるが危険を冒さなきゃ手に入らないものだってあると思うぜ!」
「いや、グレン。それは少し違う。目をつけられたくないわけじゃないんだ……。潰されたくないんだ。あるよ。まだ方法が……。」
フレロレがつぶやく。
リミットはあと一週間……。




