グレン、5
活気があった町並みは闇に沈み、昼間の街とは別物になる。
ようやく俺たちの出番だ。
とは言っても毎日辻斬りが出るわけじゃない。
とりあえず今週一週間やればそれから一週間は休み。
頑張りますか……。
「グレンさん、本日はよろしくお願いします。」
警備隊の制服を着た若い青年が挨拶してきた。
「こちらこそよろしくな。」
体格は結構がっちりした推定10代後半のこの青年が俺とペアでパトロールすることになった。名前はペデル。
辻斬りを捕まえるために組織されたパトロール隊の初日だ。
今日の夕方にメンデル様とブローム様が説明していた大規模討伐隊としての機能が試される。
……とは言ってもこっちの都合で犯人が出てくるもんじゃない。
果たして今日、本当に必要なのか……。
いつ来るかわからない以上準備は必要だが、俺にはほかにやるべきことがある。
キーデルみたいに肩書きだけでも忙しい人にしておくんだった……。
まあ、あいつも来週ここでパトロールすることになるんだけどな……。
「あのグレンさんは確か3年前からスライル様の護衛としてそばにいたんですよね?」
ペデルが目をキラキラさせながら嬉しそうに語り掛けてきた。
始め知らない人と二人一組になるって聞いたときは空気を壊さないようにしないと思っていたんだが、この分なら大丈夫そうだ……。
「ああ、そうだけど。」
「じゃあもしかしてガルネシアの奇跡にもスライル様と一緒に参加されたんですか?」
ガルネシアの奇跡か……。
あの出来事があったらこの国は今も一つにまとまっていると言っても過言ではない……。
あの出来事は民衆の間でもはや神格化されているのだろう。
「いや、俺はあの後に護衛になったから。ガルネシアの奇跡まではスライル様はトルニエ様とかと一緒だったから問題なかったんだけど、その後からスライルさんに護衛が必要だって話になって俺が護衛になった。ただそれとは別に俺は参加したよ。」
「ええ!すげぇ!ガルネシアの奇跡に!」
「ああ、しかも最前線で戦った。」
「それ本当ですか⁉すごいすごい!まさかこんなところで英雄と出会えるとは思ってませんでした!」
あまりに食いつきがいいのでつい調子に乗った。
それにしても……英雄か。
「あれはそんないいもんじゃないよ。あの時死んだ人もいる。勝ってうれしい、負けて悔しい、そういうものじゃないんだ、戦争は……。負ければもちろん、勝っても失うものは大きい。前線にいれば嫌でも目にも心にも残ってしまう。俺の師匠もあの時……。」
「ああ、なんかすみません。僕勝手に興奮しちゃって……。」
「……。いいよ……。」
この国では最大級の歴史的快挙だが、個人的にはあの戦争はあまりいい思い出ではない。
俺の様子を察してかペデルもそれ以上何も聞いてこなくなった。
二人そのまま横並びで真っ暗な街を黙々と散策する。
……あれ?
何だこの空気。
まずい、何か言わなきゃ……。
何かこう……、この空気が変わるきっかけあるといいんだけど……。
「ウァアアアアアアアア!」
突然、身の毛もよだつような叫び声が耳に殴りつけるように届く。
まさかあらわれたのか?
肌に冷たく突き刺さるようなこの感じ……。
あの時のような……。
俺は行かなければなるまい。
戦いの惨劇を止めるのは戦いの惨劇を知る者だけ……。
声がした方から察するに、場所は……あっちだな。
ペデルに作戦通り、援軍を呼ぶように指示をすると、
俺は得体のしれない闇に向かって全力で駆け出した。




