スライル、4
本当に彼らに完全に任せてよかったのだろうか……。
もっと私が積極的にかかわるべきではなかったか?
いや、今の私では結局いても足を引っ張るだけだ……。
まともな意見も考えられないのにいるだけでまわりが遠慮してしまうだろう……
そんなことばかり考えても何も始まらない。
今のこの状況を何とかしなければ……、この何もやる気が出ないこの状況を……。
部屋で机の上に山積みされた書類に手伸ばそうとしたところで扉をたたく音がする。
「失礼します。」
中に入ってきたのはグレンだった。彼がここに来る理由……、考えられるのはトルニエ事件の報告だろう。噂をすればというやつか……、まあさっきのは噂じゃないけれども……。
「どうでしたか?」
「はい。まだ始まったばかりで核心的な部分には……。ただ、とりあえず情報が足りないということで今は情報集めに躍起になっています。結論を出すにはもう少しかかりそうです。」
……やはりそう簡単にはわからないか。
彼らの抱える問題は問題がわからないところに問題がある……。
どこがわかればいいのか……。
トルニエが、いや、トルニエに反乱を起こさせた、いや、トルニエが反乱を起こさせられた理由……。
そしてその先の目的……。
「そうですか……。」
元々あまり期待はしていなかったのだが、自分で思っていたよりも淡白な声で言葉を返す。
「……すみません。」
グレンは何か言いたげな表情をしたが、それだけ言って頭を下げ、部屋を出ていった。
こちらこそすまないとは思っている。私だって他の仕事と並行してとはいえ、3か月間調べてはいたんだ。
それでも何もわかっていない……。
それなのに本格的な捜査組織とはいえ、まだ発足してから1週間しかたっていない。
それで解決できるほど、この事件の闇は浅くない。
いや、もしかしたらただトルニエに恨みがある人物がトルニエを牢に入れたかっただけってこともあるかもしれない。
本当は我々が考えているよりもこの闇はずっと浅いのかもしれない。
何一つわかっていないのだ。
ただ国として、全国民の代表として物事を進めるのに、勝手は許されない。とんでもない失敗は、明らかな失敗は許されないのだ……。
結論を出してやっぱり違いましたとは言えない……。
本当は私も早くそっちに関わりたい。
私の戦時中に培ったそういう能力を教えたい、使ってもらいたい……。
……なんだか気分が少しだけ楽になった気がする。
最近は特に言い知れぬ虚無感に襲われ仕事が手につかなかった。
目の前の書類の山に目がいくともう何もする気がしない。
書類を片づけるのがいやとかそんな子供みたいな話ではない。
頭でわかっていても心が動くことを拒否していた。
今の私は後ろから誰かに肩を叩かれている感じだ。
振り向けば肩をたたく人物が誰なのかわかるのだろうが、私はその人がとても危ない人物であることを知っている。
だから、振り向かないようにしているのだが……、それがいつまでもつか……。
一度振り向いてしまったらもう二度と前を向くことはできない、そんな気がする……。
最近私の肩をたたくその手がだんだん強くなっている。
私はなににおびえている?
この闇の正体は何だ?
今までは全然問題なかったのに……。
何で今このタイミングでその闇は現れた?
誰かに何かされたわけではない。
脅されたわけでも嫌な目に遭ったわけでもない。
今は理性が何とか形だけコントロールできているのだが、この闇の正体を知ってしまったら……。
まだまだ決めなくてはいけないことが山ほどあるとはいえ、国の大方の方向性が決まった。
これから会議だ……。




