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バルテニー、3

スライルさんが困っている。

スライルさんが困っているが私は一体どうしたらいいのだろうか……。

私にできること、私は人の求めるものを探し、それを売りさばいてきた。

だけどこれではスライルさんを助けることはできない。


スライルさんのやるべきことを私が肩代わりできればいいのだけど……。

私ではスライルさんと同じにはなれない。


今まであの男に助けられてきた。

ならば、あの男が困っているときぐらい私が助けなくては……。


しかし方法が……。

私はこれからどうしたら……。


もう一人で抱えて解決できる問題ではない。

こんなとき誰か私の相談に乗れる人がいてくれたら……、あっ。


気が付くと研究所に向かっていた。

あの人がいるではないか。

私の商売を支え続けた男、クードルさんが!


研究所につくとすぐに若い衆にクードルさんへの取次ぎをお願いした。

応接間で腰を下ろしてしばらくすると

ものすごく嫌そうな顔したクードルさんがやって来た……。

「バルテニーさんか……、それで、今日は何の用?」

彼はいつもぶっきらぼうに話すけど……、なんか今日は機嫌が悪い……。

とは言ってもどうせ溺愛しているナートルちゃんと直前までしゃべってたとかそんなんだろう……。

あの人、人とのかかわりを避けて生きてきたから感情がすぐ顔にでる。

そして繕おうとしない。

わかりやすくて私としては当時は助かっていた。


「あのですね。お忙しいところ申し訳ないですけど、今日は個人的に相談をしたくて来ました。」

本当はちっとも忙しくないことを知っているのだが、ここは社交辞令。機嫌とっとかないと。

「まあ、君とは長い付き合いだ。いいよ。」

不愛想で社交性、協調性が全くない人だが、この人の根はやさしい。

そう言ってくれると思っていた。

「早速、相談というのはですね。最近スライルさんの様子がおかしいんですよ。単純に元気がない。私としては彼の力になりたいのですが……、如何せん私にはどうしたらいいのかわからなくて……。私は何のためにあの会議に呼ばれているんですかね?」

「思っていたよりも重い話だな……。というかその相談を私にするのかい?この社交性ゼロの私に?」

それは知っている。もうこっちもわらにもすがる思いなのだ。

人付き合いしないから平気でズケズケ言ってくる。

「君が本当に金儲けしかできない人だったら初めから誘われたりしない。君に会って他の人にないものがあるんじゃないか。うーん、君のいいところ……。」

けどなんだかんだ文句を言いつつもいつも親身になって考えてくれる。


「そうですね。私もそう思ったんですけど……。」

「君のいいところは明るいところだね。」

徐々にクードルさんの視線が上に行き続けて言った。

「とくにあた――」

「真面目に悩んでるんです!」

ったくもう。こっちは真剣に悩んでいるというのに……。

頭じゃないよ。それはもうあきらめた。


もういい、話を進めよう。

「それで私も考えたんですけど、もう発想は固くなって若い子たちについていけないし、新しい価値観がわからない。考えた結果、こんなおっさんはもう邪魔なんじゃないかって思ってます。」

やはりスライルさんを支えたいという思いだけで支えられるものではない。


それを聞いたクードルさんは黙っていたが、やがてゆっくりと語りだした。

「我々研究者は常に新しい、画期的なものを生み出そうとする。君もある意味探究者だ。自分で新しい流通システムを考え、自分でものに価値を生み出した。我々の作ったものを売っていたようにね。それが若い力だというのなら確かに君にはもうその力はない。つまり、初めから国作りには君のような爆発力のないおっさんは必要なかったってことだ。」

やはり……。

「じゃあ、なぜスライルさんは君を呼んだのか?それはね、君に間違いを正してほしかったからだと私は思うよ。うーん、言い方が悪いね。君にはスライルさんを支えるのではなく、スライルさんと支える。その力を見込まれたんだと思うよ。古いものには価値がないのか?そんなことはないだろう。現にこの国では君が生み出した経済システムが今も動いている。この世界には普遍的なものもあるということだ。昔から大事なものが突然何でもないものになるということはまずない。いや、あるものもあるがすべてではない。君の経済システムはどうだか知らんがね。」

話に時々棘が入る。けど……。

「つまりね。遠回りになったけど君は今まで多くを経験してきただろう。おそらく、5人会議の中で最年長である君が一番。つまり、君の役割は最初から土から芽吹いた新芽に水をやることだったんだよ。その経験という水を若い芽が真っ直ぐ天に向かって伸びるように。スライルさんはすごい人だ。だが人間である以上、時に迷い、時に悩む。」

「つまり私が新しい指導者になれってことですか?」

「そんな直接的なものじゃなくても。スライルさんという太陽があるんだ。君はあくまで水……、いや、植木鉢に差して置く棒みたいに太陽が陰っているときでも新芽がまっすぐ立っていられるように支えてやればいい。」

棒って……。

でも吹っ切れた。

私がスライルさんと同じことができないのは当然だ。

ならわたしはわたしのやり方でスライルさんの代わりになればいい。

今は空が曇っているけどいつかまた太陽が顔を出す日まで……。


「私もそう思ってナートルに大役を任せたんだからな。」

「……人見知りのあなたに限ってはそれは疑わしいですけどね。ただ何となくわかりました。ありがとうございます。」

「いやいや、ほんとだよ!さっきだって応援レターとコーヒーを持って行ったらナートルも喜んでたよ!頑張るって!」

「はいはい、わかりましたから。もう疑ってませんって。」

「もう……。」


ありがとうクードルさん。

私がやるべきこと。

スライルさんの代わりになること。私のやり方で

私は太陽にはなれない。

わたしはわたしのやり方で新芽を育てればいい。


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