トルニエ、3
遠くから石段を降りる軽い足音が聞こえる。
最近やることがなくてこうしてここを訪ねてくる人物を足音で当てるというゲームを一人でやっている。
この足音は……、軽いな。体型はきっと細型。身長の割に体重はない。
そしてリズムが悪い。きっと運動能力は低いな……。
そして不必要なほどに音が響く。歩き方に無駄が多い。
あまり戦いを経験したことのないやつだな。
最初の一か月はスライルが一週間に一度ぐらいの頻度でここに来ていた。
その足音は重く地上では何も進展していないことを察せてしまう。
その都度、そう簡単にはいかないとか敵も馬鹿じゃないとかフォローするのだが……、スライルの落ち込みぶりはますます悪くなる。
最近来てないからそろそろ来るかなと思っていたんだが、今日来たやつはスライルじゃない……。
というかこれは知らないな。
いったい誰だ。もしかして、真犯人か?
いや、戦いを経験していない者にブランクがあったとはいえ俺が遅れを取るわけがない。
実行犯は別の奴かもしれないけど、ここまで存在をきれいに消せる奴がこんなしょぼそうな奴なわけあるまい。
それに経験上、戦場に出てないやつが描く戦術はいつも机上の空論だ。
そういや、スライルの立てる作戦はいつも面白かったな……。冗談としてなら……。
はてさて、今日はどんな文科系が何の用で来たのやら……。
「トルニエ様、ご無沙汰です。」
俺の鉄格子の前で止まったその男は俺の予想通り、線が細くとてもすごみのある男とはいいがたい。
一体お前はどこの誰で何の用でここに?
こいつは一体なんだ。俺の知らない新しい政界人か?それにしては若い。前に来たキーデルやグレンと大差ない。
……、あれ?ご無沙汰?
「すみません。僕が一方的に知っていただけでした。僕の名前はフレロレ。最近までというか昨日までスライルさんの護衛をしていたものです。」
ええ?
こいつがスライルのボディーガード?
ウソだろ……。あまりに弱そうだ……。
なんでそんなウソを……。
「あれ?何か疑ってますね?本当のことですよ!一応、僕はトルニエ様が作った軍学校に在籍していたこともあるんですから!」
……嘘、下手だなー。
こいつにはあまり話さない方がいいな……。
「それで俺に何の用だ?」
「今回、トルニエ様の反乱の件で捜査にきました。ちゃんとスライルさんの許可ももらっているんですよ。」
こいつが?
こいつをスライルが認めた?
もう、なにからなにまで怪しい……。
果たしてどこまでこいつを信用していいものか……。
いや、こいつは敵だ。
俺の勘がそう告げている。
「そうか……。」
目的がわからんがこの場で俺を殺すことはできまい。
暴けるだけ暴いてスライルに教えてやろう。
「じゃあ、早速ですがあなたが反乱を起こしたのはなぜですか?」
「スライルには何度も話した。それはスライルから聞いてるだろ!」
必要以上に凄んで、少し声を荒げる。
思った通り目の前の男は少しおびえた表情になる。
戦いに慣れてないやつはこれで終わり。もう何もできまい。
はてさて、何を聞き出そうか。
と思っていたが、その男はまた顔を引き締め直した。
見かけによらず、こいつ根性があるようだな……。
「すみません。そうですね。じゃあ、一つだけ聞かせてください。」
「なんだ。」
「……トルニエ様、あなたはこの世界が好きですか?」
なんだその質問?一番聞きたいことがそれ?
もしかして、実は俺が真犯人で芝居うってるか試しているのか?
確かに俺が無実であることを証明しているのが俺の証言しかないしな。
まあ、俺が今までいろんな人に話したことは事実なんだが……。
それにしてもその質問……。
こいつの意図が全く分からん。
好きと言えばどうなる?
嫌いと言えばどうなる?
疑いが晴れるのか?
それにしても俺はこの世界が好きか?……か。
スライルが努力で勝ち取ったこの世界、俺たちが血と汗を流して手に入れたこの世界が……。
まあ、そんなの……。
「……ああ、わりとな。」
「……ありがとうございます。時間があるときにまた来ます。今日はもう失礼します。」
そう言って踵を返してもと来た道を帰ろうとする。
「おい!ちょっと待て。」
ふと呼び止める。
「俺からも一つだけ質問だ。俺は人を騙すとき、二通りの人間がいると思っている。愚者は相手に嘘をつき、賢者は自分に嘘をつく。お前はどっちだ?」
このガキ……、フレロレとか言ったか……。
お前は何者だ?
「僕は――。」




