トルニエ、北地区留置所
いったいなんだって俺がこんな目に……。
俺はもう引退したんだ。いったい誰の仕業だ?
湖のそばできれいな小屋で余生を過ごすはずだったのに……。
何で汚い豚小屋にぶち込まれなくちゃならん。
俺がこの1か月で少し勘が鈍ったのは間違いない。
あの時、背後から近寄る何者かに気づいていれば……。
コツコツと牢屋の石畳を歩く音が聞こえる。音の数から察するに……3人。
不規則なリズムでどんどん近づいてきてその足音は俺の鉄格子の前で止まった。
スライル、教え子キーデル、2本の剣を腰に差した確か俺の部下の教え子の子がいた。
スライルはがしゃんと鉄格子を激しくつかんで言った。
「トルニエ無事ですか?」
「無事といえば無事だが、全然無事じゃねぇな。」
「トルニエ、あなたいったい何をしたんですか?」
「俺にもわからない。」
「どうして反乱を?」
「反乱?何の話だ?」
「今捕まっているのはそれが理由です。」
「俺は何もしてねぇぜ。」
「どうして北区にいたのですか?」
「俺にもわからない。何者かに捕まって縛られて目隠しされて気づいたらなんか血気盛んな人だかりの中にいて……。それで軍が襲い掛かってきて、何が何だかわからないうちに捕まってこうなった。本当だ。」
「おそらくそれが本当ならやはり何者かがトルニエを利用して……。しかし、あなたともあろうものが背後から迫るものに気付けないとは……、その前は何をしていたのですか?」
「……。確かなことは覚えてない。ただ何者かに襲われて、そのまま……。」
くそ、俺としたことが……。
「酒でも飲んでいたのですか?トルニエは酒が入ると油断しやすくなりますからね。」
スライルは固く握りしめていた鉄格子から手を離し、少しあきれるように言った。
「今はいいだろ。」
スライルにはお見通しかよ。
「安心しました。やはりトルニエは犯人ではない。」
「当たり前だ。俺が反乱なんてしょぼいことするわけないだろ。」
「ええ、それにこんなに簡単に捕まるわけがありません。」
「だろ。ここから出してくれ。」
「そうですね。」
「ちょっと待ってください!」
突然、静観していた部下の教え子が声を張る。
「どうしました?グレン。トルニエは無実です。彼の場合早いところ味方にした方がなにかと頼りになると思いますが……。」
「それはそうですが……。あの、まだこの事件は解決してません。トルニエ様を利用しようとしたものがわからない以上また狙われる可能性が高いです。」
「いえ、次はトルニエも油断しないでしょう。」
「ああ、次は返り討ちにしてやる。」
何度も俺がやられるわけないだろ。戦場に出たことあるなら何を言ってるんだ?
「グレンまだ何か?」
「ええっと……。」
困惑するグレンと呼ばれた青年。あれは仕方がなかったことだが彼の師を、私の一番の部下だった男バルヴァンを殺した私をまだ恨んでのことだろう。あの時はまだ彼は子供だったしな。
「恐れながらスライル様。」
キーデルが困惑したグレンを庇うようにスライルとグレンの間に割って入る。
「私もグレンと同じ考えです。こんなに簡単にトルニエ様の無実が判明することに、トルニエ様を利用するほどのものが気づかないわけがありません。ここでトルニエ様を開放するのは敵の術中にはまる気がしてなりません。トルニエ様には申し訳ないですが、しばらくこのままで真犯人の策略が見えるまでこのまま様子を見た方がよいかと思われます。」
「しかし……。」
スライルが反論しようとする。
俺としてもとっととこんなところでたいが、俺が出ることで俺をはめた奴がいい気になるのは許せんな。それにもう俺の時代じゃない。
「ガハハ、俺のことは気にしなくていい。お前ら新しい世代が思う存分にやれ。」
もうこの世から散るだけの俺に囮とは言え役に立つことができるならそれで十分さ!
「そういうことなら私たちはこれで行きます。必ずや真犯人を捕まえて見せますよ!」
「ああ、頼んだぜ。スライル、キーデル、そしてグレン。」
新しい時代を!




