スライル、会議場
トルニエがそんなことをするはずがない。
やったにしても何か事情があるはずだ。
ここは一番の友として私が直接……。
「本日の会議はこれにて、私はこれからトルニエに会いに行ってきます。キーデルさんとグレンは私とともに。万が一に備えてメンデル将軍は軍の編成を進めておいていただきたい。残りのお三方はくれぐれも気を付けて。フレロレは王宮内の空き部屋を対策本部に作り替えてください。」
「はい、スライルさんもどうかお気をつけて。」
フレロレの返事を聞こえると足早に会議室を出て出発の準備に向かう。
グレンとキーデルとともにトルニエのもとまで早馬で走りながら、移動中に頭を整理する。
おかしいところはある。
そう言えばトルニエは西の湖のほとりで隠居すると言っていたような……。
なぜ北区で?
トルニエが反乱を起こした場所はそこから遠い。
トルニエに特別なカリスマ性があるといえども数時間演説しただけで戦う気のないものに手に武器を持たせるのは難しい。
となると何回か通っていたということになる。
なんでわざわざ?
それにトルニエほどの大人物ならすぐに気づかれる。噂の一つでも立っていないとおかしい。
もしかしたら西区から大勢が北区に移動したのかもしれない。
いや、メンデルが国全体に軍を配備してそういうのは移動した時点でこちらも気づくはず……。
そもそも一か月で説得可能か?
聞けばその規模は2000にものぼるらしい。
その間彼は前線にいてそれどころではないはず……。
いや、どうやったかがわからなくて困っているのではない
どうしてやったのかがわからない。
動機は?
トルニエにはこの国を不満に思う理由などあるのか……。
彼が政治に携わりたいと言えば喜んで席をつくる。
それに私は何度も誘った。
この国の嫌なところは内側から変えることができた……。
この結果から導き出される答えは……、
トルニエを操りこの国崩壊を望む何者かの陰謀……。
しかし、そんな人物がいるのか……。
おそらくこの国に対して不満を持つものは水面下にはいる。
この国の建国に際して武力をもって滅ぼすしかなかった国もあった。
だが、その中でトルニエを利用できるほどの能力のある人物が……、
いやこれだけの規模の軍を起こすにはそれなりの力が必要だ……。
見当もつかない。
「大丈夫ですか?スライルさん。」
私の顔を覗き込むような体勢でグレンが心配そうに言った。
「スライル様、心配なされるお気持ちはわかりますがトルニエ様のもとに着くまで我々にできることはありません。報告だけで取り乱していましたから、トルニエ様に会った時にスライル様の感情がどうなるかわかりません。今はできるだけ心を休めてください。」
「グレン、キーデル。すまない。こういうときほど冷静にならなくてはなりませんね。ありがとう。」
そうだ冷静にならなくては……。
こんな修羅場はいくらでも体験してきたではないか……。
その日の夜遅く、私たちはトルニエが拘束されている留置所に着いた。