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『みちくさ先生の魔法学園改革記』1年目1学期「いつも赤字続き」編  作者: 風待 行燈
第1章 『華麗ならぬ改革元年』

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『みちくさ先生の魔法学園改革記』1年目1学期「いつも赤字続き」編 第1話「改革請負人」

第0話 龍虎の誤算



 王立魔法学園の理事会室には、重苦しい空気が漂っていた。


 正式な理事会の開催まで、まだ二カ月近くある。


 にもかかわらず、その場に漂う緊張感は、単なる事前協議のものとは思えなかった。


「ハーグリーヴス先生。君には新チームを作り、今年の朱雀祭でベスト4に入って貰いたい」


 理事長エドガー・フォン・リヒテンベルクは、厳かな口調でそう告げた。


「……神舞戦で、ですか?」


 レオン・ハーグリーヴスは、大きく目を見開いた。


「しかも、条件がある」


「まだあるんですか?」


「過去に入賞経験のある生徒は、使ってはならん」


 レオンは顎をなで始めた。


 理事長は渋面のままだ。


 どうやら冗談ではないらしい。


「ハーグリーヴス先生」


 今度は、理事長の隣に座る女性が口を開いた。


 教育長官イザベル・ローワン。


 三十九歳という若さで王国の教育行政を担う、切れ者として知られる人物である。


「今回の教育改革には、クリアなKPIが必要です」


「……けーぴーあい?」


「重要業績評価指標です。改革のパフォーマンスを、客観的なエビデンスで示していただきたいのです」


「なるほど。成果を見せなさい、ということですね」


「イエス。既存の優秀な生徒に依存した成果では、改革の有効性を証明できません」


「それで、入賞経験のない生徒だけでベスト4に?」


「エグザクトリー」


 レオンは、白縁の眼鏡を押し上げた。


「……ちなみに、達成できなかった場合は?」


 イザベルは優雅に微笑んだ。


「リザルトを出せない者が、レスポンシビリティを取るのはマストです」


 レオンは、もう一度眼鏡を押し上げた。


「……つまり、責任を取れと?」


「エグザクトリー」


「最初からそうおっしゃっていただければ……」


 レオンは、しばらく考え込んだ。


 4人の視線が、一斉に彼へ集まる。


 やがて、レオンは静かに口を開いた。


「一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」


「何かな?」


「その生徒たちは、私が選んでもよろしいのですか?」


 理事長は、わずかに目を細めた。


「もちろんだ」


「でしたら……、引き受けましょう!」


 レオンは頭を掻きながら、どこか楽しそうに笑った。


 理事会室に、短い沈黙が落ちた。


 エドガーは表情を変えなかった。


 ただ一度だけ、王国宰相ロデリック・フォン・クラウゼンへ視線を向けた。


 ロデリックは静かに紅茶を口にした。


 しばらくして、カップを置く。


「……実に、興味深いお話ですな」


「宰相もこの提案を承知した、と解釈していいのだな」


 二人の老政治家は、穏やかに微笑み合った。


「……面白そうですな」


 学園長マッテオが、飄々と頷いた。


 エドガーは再びレオンに向き直った。


「君の手腕、楽しみにしておるよ」


 レオン・ハーグリーヴスが、王立魔法学園に赴任する前の日のことである。





第1話 「改革請負人」


 八百年の歴史を誇るティルセニア連合王国。


 その首都郊外に建つ千年の名門、王立魔法学園リュケイオンは、今日も赤字だった。


 豪華な施設、優秀な教師陣、充実した6年間の全寮制。


 その伝統と栄光を支えるため、学園は長年、莫大な財産を切り売りしてきた。


 だが、それも限界に近づいていた。


 そんな学園の再建を任されたのが、レオン・ハーグリーヴス。


 四十二歳。中肉中背、眼鏡をかけた、どこにでもいそうな男だった。


 レオンは、懐かしい学園の練習場を見渡した。


 観覧席の石段。西側の古い時計塔。


 朝日を受けて白く光る中央講義棟。


 卒業して二十年以上の歳月が過ぎていても、見覚えのあるものは多かったが、感傷にひたる時間はなかった。


 練習場を眺めていると焼けつくような轟音が響いた。


 朝の冷たい空気を引き裂いて、巨大な炎が練習場の中央を駆け抜ける。


 「右だ! 右を塞げ!」


 理知的な男子生徒の声が飛んだ。


 その指示に従い、三人の生徒が一斉に動く。


 一人が結界を展開し、もう一人が相手の進路を魔術で塞ぐ。


 三人目は大きく回り込み、背後から玉宝を狙った。


 だが、相手チームの動きはさらに速かった。


 後衛の男子生徒が、片手を軽く動かした。


 薄い結界が、必要な範囲だけを覆った。


 背中まである金髪をなびかせ、琥珀色の瞳の男子生徒が片手を上げる。


 「下がれ」


 短い指示だった。


 それだけで、味方の二人が左右へ散る。


 直後、輝く髪の生徒の前方に光が集まった。


 青白い閃光。


 回り込んでいた男子生徒に閃光が迫る。


 男子生徒は、とっさに結界を張った。


 激しい衝撃が走る。


「ぐっ……!」


 結界が砕け、男子生徒が後方へ吹き飛ばされる。


「一本! 一名、退場!」


 審判役の教師が声を上げた。


「くそっ、立て直せ!」


 守備側のリーダーらしい男子生徒が叫ぶ。


 後方にいた紺色の髪の女子生徒に視線を向けた。


「結界を頼む! 中央を守ってくれ!」


「……はい!」


 少女は長い耳を震わせながら、両手を掲げた。


 指先に赤い光が集まる。


 光は薄い膜のように広がりかけたが、途中で形を崩した。


 もう一度。


 今度は青白い光が生まれる。


 だが、それもすぐに霧散した。


「まだか!」


「……すみません!」


 彼女は再び両手を構えた。


 その間に、相手チームの前衛が中央を突破していた。


「後衛、下がれ!」


 守備側の男子生徒が叫ぶ。


 しかし、間に合わない。


 金髪の男子生徒が、ほとんど無造作に右手を振った。


 閃光が走る。


 少女の足元で石畳が弾けた。


 その一瞬、無防備になった台座に、別の光が突き刺さった。


 玉宝が砕け散る。


「そこまで!」


 審判役の声が響いた。


「玉宝、破壊! 勝者、第一組!」


 練習場のあちこちから歓声が上がった。


 勝利したチームの生徒たちは、軽く息を整えると、ストレッチをしながら試合を振り返り始めた。


 しかし、中心にいた金髪の男子生徒だけは、仲間の言葉に短く答えると、練習場を横切っていった。


 一方、敗れた側の生徒たちは、その場に立ち尽くしていた。


「惜しかったな」


 リーダーの男子生徒が仲間に声をかける。


「途中までは予定どおりだった。次は配置を変えよう」


 そして、ひときわ目立つ美しい少女に話しかけた。


「君は後衛の結界を、もう少し安定させてほしい」


「……はい」


「君の魔力量はAもあるし、十分に高いんだ。あそこで機能すればもっと戦える」


 女子生徒は、固くなって、うなずいた。


 それ以上は何も言わず、教科書通りの結界張りの練習を何度も繰り返した。





「なかなかのものでしょう」


 いつの間にか隣に来た、若い教師が満足そうに言った。


 年齢は二十五歳ほど。


 整った顔立ちに、きちんと着こなした教員用の制服。


 その袖は肘までまくられ、額には薄く汗が浮かんでいた。


「ええ。見事な試合でした」


 レオンは再び練習場を見渡し、西側の時計塔の針を見上げ、ふっと笑った。


「……師匠が懐かしいな」


「何かおっしゃいましたか?」


「いえ、独り言です」


 レオンは練習場に視線を戻した。


 ただ、練習場の床は、彼の記憶にある土の地面から、整然と敷き詰められた石畳へと変わっていた。


「ずいぶん立派になりましたね」


「そうでしょう。設備の更新には、かなり力を入れていますから」


「昔は、雨が降ると大変だったんですよ。靴が泥だらけになって」


 若い教師が振り返った。


「……昔?」


「ええ。私もここの卒業生なんです」


「そうでしたか!」


 若い教師は、じゃっかん驚いたようだった。


「では、レオン先生も学生時代は神舞戦に参加されていたんですね」


「いえ、一度も」


「……一度も、ですか?」


「ええ。私は落ちこぼれでしたから。選手には縁がありませんでした」


「そうでしたか」


 若い教師は、手にしていた記録板を目にしながら話した。


「では、こうして間近で試合をご覧になるのも、よい勉強になりますね」


「ええ。本当に」


「神舞戦は、実際に経験しないと分からないことも多いですから」


「そうでしょうね」


 レオンは穏やかにうなずいた。


「ところで、先ほどの女子生徒ですが」


「彼女ですか?」


「結界の練習は、いつもあの方法で?」


「ええ。基本ですからね」


「なるほど」


「基礎を正確に身につければ、応用はいくらでも利きます。特に彼女ほどの魔力量があれば、なおさらです」


「そうですか」


 若い教師は時計を確認する。


「失礼。始業式の準備がありますので」


「朝早くから、ありがとうございました」


「いえ。こちらこそ」


 若い教師は軽く一礼し、足早に去っていった。


 レオンは、しばらく練習場を眺めていた。


 生徒たちは次々と引き揚げていく。


 先ほどの紺色の髪の少女も、仲間からやや遅れて練習場を出ていった。


 そのとき、レオンの視線が止まった。


 練習場の隅。


 石壁の前に、小柄な男子生徒が一人立っていた。


 右手を伸ばす。


 指先に、小さな光が灯った。


 すぐに消える。


 少年は手を下ろし、しばらく自分の指先を見つめていた。


 そして、もう一度。


 小さな光。


 また、消えた。


 周囲には誰もいない。


 先ほどの模擬戦とは、比べものにならないほど弱々しい光だった。


 少年は、三度目の光を灯した。


 今度は、ほんのわずかに長く続いた。


 レオンは、その様子を眺めていた。


「レオン先生!」


 背後から声がした。


 振り返ると、赤みがかった髪を後ろでまとめた女性が、観覧席の入口に立っていた。


 セレナ・ヴァレンティーニ。三十二歳。


 教員用の制服を隙なく着こなし、その姿は仕立てのよいスーツを思わせた。


「こちらでしたか。探しましたよ」


「ああ、セレナ先生。すみません」


「まったく。着任早々、朝練の見学に行ってしまうんですから」


 セレナは苦笑した。


「学園の案内もまだ半分しか終わっていないのに、もうじき始業式ですよ」


「そうでしたね」


「それに、財務室にも顔を出す予定でしょう?」


「ああ……」


 レオンは、ちょっと困った顔をした。


「そちらは、あまり楽しみではありませんね」


「奇遇ですね。私も最初はそうでした」


 セレナは笑った。


「では、参りましょう」


「ええ」


 レオンはもう一度、練習場の隅を見た。


 少年は、まだ右手を伸ばしていた。




 王立魔法学園リュケイオン。


 所在するティルセニア連合王国よりも長い、千年の歴史を誇る最高峰の教育機関。


 王族、大貴族、豪商の子弟を中心に、

 魔法の才能を見いだされた庶民の子供まで、さまざまな生徒が学ぶ。


 五百年ほど前からは魔力のない生徒にも門戸を開き、魔法以外の幅広い学問も教えるようになった。


 その広大な敷地には、荘厳な講義棟、巨大な図書館、魔導工学の研究所、職人や芸術家用の実践施設、そして神舞戦のための専用練習場がいくつも並んでいた。


 始業式を終えた二人は、中断していた学園案内を再開していた。


「こちらが中央講義棟です」


 セレナが説明した。


「建設から四百年以上経っていますが、何度も補修されていますから、まだまだ使えます」


「立派ですね」


「ええ。天井画は王国の重要文化財にも指定されています」


 レオンは見上げた。


 天井には、五行の魔法を象徴する壮麗な絵画が描かれていた。


「……掃除が大変そうですね」


「そこですか?」


「いえ、つい」


 セレナは穏やかに笑った。


 二人は長い廊下を歩いた。


 壁には歴代の学園長の肖像画が並び、窓には色鮮やかな装飾ガラスがはめ込まれている。


 廊下の角を曲がると、巨大な石像が現れた。


「こちらは、学園創設に尽力した五大賢者の像です」


「見事なものですね」


「恐ろしいことに、台座の修復だけで金十キログラムほどの費用がかかったそうです」


「……そうなんですか」


「その話を財務室ですると、少々長くなりますよ」


 セレナは意味ありげに笑った。


 レオンは石像を見上げた。


 大魔術師は、千年前から変わらぬ威厳で廊下を見下ろしていた。


 その足元には、真新しい金色の銘板が取り付けられていた。





「お待ちしてましたぞ」


 財務室に入るなり、低い声が響いた。


 大きな机の向こうに、一人の女性が座っていた。


 オルガ・ハルデン。


 五十五歳。


 王国の財務長官にして、学園の財務責任者でもある。


 机の上には帳簿と書類が積み上げられていた。


「レオン・ハーグリーヴス先生ですな」


「はい。本日からお世話になります」


「こちらこそ。まずはお座りなさい」


 オルガは向かいの椅子を示した。


 レオンが腰を下ろすと、分厚い帳簿が一冊、目の前に置かれた。


「こちらが、昨年度の決算書だ」


「ありがとうございます」


 レオンは帳簿を開いた。


 数秒後。


 もう一度、最初のページに戻った。


「……財務長官」


「なんだ」


「これは、単位を間違えているわけではありませんよね?」


「残念ながら」


「桁が一つ多いということも?」


「それなら、どれほど良かったか」


 レオンは黙って帳簿を見つめた。


 セレナが、そっと視線をそらした。


「学園の収入は、授業料、王国からの補助金、寄付金、研究事業の収益などで成り立っておる」


 財務長官は説明を続けた。


「生徒数は増えているにもかかわらず、赤字は増え続けており、最近は真っ赤っかだ」


「支出の内訳を見ても?」


「もちろん、その改善があなたの仕事だからな」


 次の帳簿が置かれた。


 教職員の人件費。


 研究施設の維持費。


 各有力者との接待費。


 建物の補修費。


 学園行事の運営費。


 全寮制で暮らす生徒の生活費。


 そして、用途のよく分からない「その他」の経費。


「……その他?」


「ええ」


「この『その他』が、かなり大きいようですが」


「誰もが、そう思うな」


 オルガは静かに答えた。


「内訳はこちらだ」


 さらに分厚い書類の束が置かれた。


 レオンは、その厚さを見て大きく息を吐いた。



「……なるほど」


「まだあるぞ」


「いえ、まずはこちらから」


 彼女はニヤリと笑った。


「なかなか印象的だぞ」


 改革請負人は帳簿をさらに読み進めた。


 施設は立派だった。


 設備も充実していた。


 教員の数も多い。


 研究成果も決して少なくない。


 ただ、それらを維持するための費用が、毎年の収入を大きく上回っていた。


「これまで、どうやって不足分を補ってきたんですか?」


「積立金の取り崩し、資産の売却、借入れ。それから、寄付金の前倒しですな」


「今年は?」


「同じ方法を続ける余地が、だいぶ少なくなっているな」


 彼は帳簿を閉じた。


「……学園の先生方は、この状況をご存じなんでしょうか」


「概要は毎年のように説明している」


「それで?」


「全員が心配しているのは疑いようがないな」


「それだけですか」


「ああ。そして、それぞれの研究室や講座の予算だけは削らないようにと、熱心に頼み込んでくる」


 レオンは、じっくりと考え込む。


「……うーん」


 オルガは別の書類を取り出した。


「こちらは今年度の予算案だ」


「まだあるんですか」


「もちろん。決算書は過去の話だからな」


 レオンは思わず天井を見上げた。


 そこには、先ほどの講義棟ほど豪華ではないものの、美しい装飾が施されていた。


「この天井も、文化財ですか?」


「いや。二十年前に新しくしたものだ」


「……そうですか」


「ちなみに、来年度に再塗装の申請が何度も来ている」


 レオンは静かに視線を戻した。


「その予算案も、見せていただけますか」


「ああ。もちろん」


 財務長官は、さらに一冊の帳簿を差し出した。





 部屋を出たときには、すっかり日が傾いていた。


「お疲れさまでした」


 セレナが声をかけた。


「……ええ」


「大丈夫ですか?」


「数字というのは、不思議なものですね」


「といいますと?」


「見ているだけなのに、体力も気力も減っていく気がします」


 凛々しい顔立ちのセレナが、思わず吹き出した。


「分かります。私も最初はそうでした」


 二人は中庭を歩いた。


 生徒たちが芝生に座って談笑し、噴水の周囲では数人が魔法の練習をしている。


 遠くの講義棟から、鐘の音が聞こえた。


「それで、どうでした?」


 セレナが銅色の髪を揺らして尋ねた。


「何がですか?」


「この学園ですよ」


 レオンは足を止めた。


 朝の練習場。


 歴史ある建物。


 積み上がった帳簿。


 そして、練習場の隅にいた少年。


「……面白いところですね」


「面白い?」


「ええ。まだ、分からないことだらけです」


 新任教師の案内役は少し笑った。


「それなら、明日も忙しくなりそうですね」


「明日は?」


「複数学年合同の基礎魔術実習を見学する予定です」


「ああ、そうでしたね」


「今朝お会いしたフェリクス先生の授業ですよ」


「それは楽しみです」


 セレナは、レオンをちらりと横目で見た。


「神舞戦のご経験がないと聞いて、フェリクス先生は少し驚いていましたよ」


「そうでしょうね」


「気になりませんか?」


「何がです?」


「いえ……何でもありません」


 セレナは軽く肩をすくめた。


 レオンは中庭を見渡した。


 生徒たちの笑い声が、春の風に乗って流れてくる。


「ところで、セレナ先生」


「はい?」


「学園の図書館は、何時まで開いていますか?」


「夜まで利用できますけど……何か調べものですか?」


「ええ。ちょっとだけ」


「魔術理論ですか?」


「それもありますが、まずは学園の資料を」


「財務関係なら、オルガさんに頼んだ方が早いですよ」


「いえ、そちらは今日は十分です」


 セレナはまた笑った。


 夜が近くなる。


 王立魔法学園の図書館では、窓から差し込む仄かな光が長い机を照らしていた。


 レオンは机に何冊もの資料を広げていた。


 学園の資料に交じって、連合王国の近代史に関する書物も積まれている。


 学園の沿革。


 教育課程の変遷。


 魔術実習の指導要領。


 そして、過去の神舞戦の記録。


 ページをめくる。


 歴代の優勝チーム。


 優秀選手の名前。


 魔力量の記録。


 術式の成功率。


 勝敗の分析。


 実に細かい。


 感心しながら、次のページを開いた。


 そこには、朝の模擬戦で見かけた金髪の男子生徒の名前があった。


 さらに数ページ先には、対戦相手の男子生徒の記録も載っている。


 「……これは」


 資料を閉じ、別の冊子を手に取った。


 下級生の基礎魔術実習。


 評価項目は、術式の正確さ、魔力の安定性、持続時間。


 どれにも明確な基準が設けられていた。


 レオンは、しばらく資料を読み進めた。


 やがて、窓の外に目を向ける。


 遠くに、朝の練習場が見えた。


 暗くなりつつある石畳。


 誰もいないはずの隅に、小さな光が灯っては、消える。


 数秒間が空き、また灯る。


 開いていた資料に栞を挟んだ。


 窓の外では、三度目の光が生まれている。


 今度は、先ほどより少しだけ長く続いた。


 やがて鐘が鳴り、図書館の魔導灯が一斉にともった。


 レオンは椅子に座り直し、翌日の授業見学に使う資料を開いた。


 その横には、財務長官から渡された予算書が置かれている。


 表紙には赤い文字で、こう記されていた。


 『収支改善に関する緊急検討事項』


 ゆっくり表紙を眺めていたが、やがてふっと息を吐いた。


「……こちらも、勉強しないといけませんね」


 彼は予算書を開いた。


 千年の歴史を誇る王立魔法学園。


 その帳簿は、今年も赤字だった。


 ――第1話・完――

お読みいただきありがとうございます。


名門魔法学園の立て直しに挑むレオン先生と、個性豊かな生徒たちの物語です。


これからよろしくお願いいたします。


1年目1学期編は1日1話ずつ毎日20時半で追加していく予定です。

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