歯車廻編①主人公との邂逅
目を覚ますと、耳に飛び込んできたのは街の雑踏だった。
車の走行音。
行き交う人々の話し声。
駅構内から流れてくるアナウンス。
現実感のある騒音が、ぼんやりとした意識を少しずつ引き戻していく。
「ここは……一体……」
俺は駅前のベンチに座ったまま眠っていたらしい。
頭に手を当て、ゆっくり記憶を辿る。
確か俺は、さっきまで家にいたはずだ。
押し入れを漁って。
昔遊んでいたおもちゃ箱を開けて。
それから――。
『今日このグランドアリーナで行われるギアフォース世界大会、日本代表予選! 注目のコマンダーはこの三人だァァァ!』
突然、どこからか景気のいい実況が響いた。
テレビ中継だろうか。
妙にテンションの高い声が、駅前広場全体に流れている。
『一人目は七色の歌声を持つ黄昏の歌姫――ネジキィィィ! なんと日本代表予選のオープニングで新曲を披露予定とのことだァァァ!』
駅ビルに設置された巨大モニターに、一人の少女が映し出される。
スポットライトを浴びながら歌うその姿に、周囲の観客が歓声を上げていた。
『二人目は若き天才コマンダー! 天童リョウガァァァァァァ! 昨年の日本代表予選同様、二連覇なるか! 目が離せないぞォォォ!』
銀髪の少年が画面いっぱいに映し出される。
鋭い眼差し。
黒いロングコート。
立っているだけで周囲を圧倒するような存在感。
そこで、俺の記憶が繋がった。
そうだ。
昔遊んでいたおもちゃを物色していて。
その時に見つけたんだ。
ユウヤのギアフォースとギアシューターを。
子供の頃、突然この世界から消えてしまった親友。
誰も覚えていないはずの少年。
その持ち物が、何故か俺のおもちゃ箱の中に混じっていた。
『三人目は現在話題沸騰中! 太陽の力を宿すサンライザーの使い手! 歯車廻ゥゥゥゥ!』
「えっ?」
その名前を聞いた瞬間、俺は勢いよく後ろを振り向いた。
巨大モニターに映し出されていたのは――。
歯車廻。
ギアフォースのアニメにおける主人公。
太陽を司るギアフォース、サンライザーのコマンダー。
「えええ!? なんで!? どういうことだよ!?」
思わず叫んでしまう。
だって歯車廻は架空の存在だ。
アニメの中のキャラクターのはずなんだぞ?
混乱のまま呼吸を乱す。
その時、自分の声に違和感を覚えた。
「……あれ?」
妙に高い。
まるで声変わり前の子供みたいな声だった。
嫌な予感がして、自分の首元に触れる。
「喉仏が……ない……」
さらに視線を落とした瞬間、背筋が凍った。
腕が短い。
脚も小さい。
身体そのものが縮んでいる。
「それに俺の身体が縮んでる!?」
なんでだ。
俺は大学生だぞ。
そして。
俺の膝の上には、一体のギアフォース。
さらに腕には、見覚えのあるバングルが巻かれていた。
「ユウヤのギアフォース……それとギアシューター?」
「ん?」
突然、誰かに声を掛けられる。
「それ、ギアフォースだよな? お前もギアバトルやるのか?」
「は、ははは!?」
顔を上げた瞬間、心臓が跳ね上がった。
間違えるはずがない。
歯車廻本人だった。
赤いジャケット。
黒いゴーグル。
現実離れしたギザギザ頭。
太陽みたいな笑顔。
ギアフォースを愛し、ギアバトルに愛された少年。
「面白いなぁ! 色んなアーマーを寄せ集めて作ったのか! 見てみろよリョウガ!」
廻の後ろから、もう一人の少年が歩いてくる。
銀髪。
黒いロングコート。
氷みたいに鋭い視線。
天童リョウガ。
世界に名を轟かせる天才コマンダー。
そして歯車廻最大のライバル。
「貴様……何者だ?」
リョウガの視線が、俺のギアフォースを鋭く射抜く。
「このアーマーをどこで手に入れた?」
「そんなこと……言われても分からないよ。俺にはもう何が何だか……」
現実味がない。
ただ、夢にしては質感も空気もリアル過ぎた。
「そのギアフォースの胸部パーツは廻のサンライザーのものだ」
リョウガが低い声で言う。
「そして左脚部パーツは、この俺のドラゴナイトブレイバーのもの」
鋭い視線がさらに細くなる。
「どちらのアーマーも世界に一つしか存在しない特注品だ。色こそ違うがな。何故、貴様がそれを持っている?」
色。
言われてみれば確かに妙だった。
ユウヤのギアフォースは、本来のカラーリングではない。
全てのアーマーが白で統一されている。
まるで何色にも染まっていない未完成の機体みたいに。
「まぁ分からないなら尚更ギアバトルすべきだろ!」
廻が楽しそうに笑う。
「戦えば答えが見つかるかもしれないぜ!」
「日本代表予選前だというのにバカか貴様は……」
リョウガは呆れたように溜め息を吐いた。
「……だが、奴の正体を知るにはちょうどいい」
鋭い眼光が俺を睨む。
「そこのお前。構えろ」
「ギアバトルだ」
「なんだなんだ!? ギアバトルか!」
「おい見ろよ! 歯車廻と天童リョウガだ!」
「試合するらしいぞ!」
瞬く間に野次馬が集まってくる。
二人は有名人なのだ。
注目を浴びるのも当然だった。
『サンライザー! SET ON!』
機械音声が響く。
廻のギアシューターが変形し、ブレードが展開する。
本物だ。
本当にアニメの世界そのままだった。
「さぁ! 次はお前の番だぜ!」
「う、うん……!」
俺は自分の腕に巻かれたギアシューターを見る。
形こそ玩具版と似ている。
だが、中身はまるで別物だった。
ディスプレイは本当に起動しているし、内部では情報が流れている。
ただの玩具じゃない。
本物のデバイスだ。
重さ自体は、俺の世界の玩具版と大差ない。
なのに。
圧倒的な“本物”の存在感があった。
「行くぞ……!」
意を決し、俺はギアフォースを装着する。
その瞬間だった。
『ERROR! ERROR! ERROR!』
「えっ?」
ギアシューターが激しく赤く点滅する。
警告音が周囲へ響き渡った。
「ギアフォースが個別認識しない!?」
やっぱりダメなのか。
このギアフォースじゃ戦えないのか。
そう思った、その時だった。
突然。
ギアフォースとギアシューターが同時に白く発光した。
「なっ……!?」
眩い光が脈打つ。
まるで互いに呼応するように。
共鳴するように。
脳裏に蘇る。
この世界へ来る直前、自分を包み込んだ白い光。
そして。
『COMPLETE! SET ON!』
「認識した……!?」
ギアシューターの表示が正常化する。
エラー表示は消えていた。
何かが起きた。
何かが、このギアフォースを“適合”させたんだ。
リョウガの表情が険しくなる。
「個別認識出来なかったギアフォースが、突然適合し、認識出来るようになった……」
彼の瞳が細められる。
「それに、あの白い光……あの現象……」
低い声が漏れる。
「まさか、歴史改変……」
空気が一瞬で張り詰めた。
「アイツ……いや、奴らの手先か……?」




