651 昼休み
昼休み。
俺は冷食弁当つまみつつ凌辱の余韻にひたっている。
うぅぅ、今日もえらい目に遭わされた。
もうお婿にいけない。よよよ。
ログアウト日の恒例だがいっこうに慣れない。
毎回毎回、イズミが新たな趣向で攻めてくるからだ。
ホント研究熱心。
アタマが下がるよ!?
そして認めたくないが、それをひそかに待っている俺も存在する。
ちゃくちゃくと調教進行中だよ!? 怖い。
痴漢に開発されちゃういけない女子の気分である。
ネット漫画で見た。
たぶん存在しない女子だろうが、いたら保護してあげたい。
痴漢アカン。
この復讐はログインしてからたっぷり果たしてやる決意なのだが。
あいつ、ウキウキでお待ちかねなんだよなぁ。復讐にならない。
むしろ義務に気合が入るからと奨励してるフシがある。
だけど顔にナマ足裏はやりすぎだろ!?
興奮したけどさ! おかわり‼
まぁ、こっちだって美少女とイチャコラするのは嫌いではない。
むしろ大好物である。ゲーム内限定だとしてもだ。
とはいえ、そのD&C世界にはけっこう規制がある。
全年齢対象につき。
本当の復讐はあいつをリアルに転生させてこそ成されるのだ。
待ってろイズミ!
とても他人様に見せられないすっごいコトしてやるからな‼
泣き顔で許しを乞うても止めてやるものか。
例えばだな。
……具体的にはよくわからんけど。
そこはおいおい勉強します。
冷食弁当を平らげサプリを冷水で飲みこんで昼食終了。
ネットでまとめ買いできて自然解凍で食える。必須栄養素も確保。
便利な定番弁当なんだが、いかんせん味が薄いんだよなぁ。
イズミの料理が食べたいぜ。
またオムライス作ってもらお。
「おーい、土方。なんかセンセイきてるぞー」
「お? サンキュー」
廊下に出てみると笹岡先生だった。どうも。
「昼休みにすまないね」
「いえいえ。で、ご用件は?」
「それがだね。……すまない。
アレの件で用があるはずなんだが。
どうにも中身が思い出せない。
いかんな。ログイン中に君と話しておくべきだった」
夢の内容あるあるだ。
夢とリンクしたD&Cの基本仕様である。
ログアウトした途端に記憶が曖昧になる。
一部のプレイヤーを除いて。
「前に後輩さん?を誘ってログインするって言ってましたよね?」
「ああ、そうそう。たしか……」
頭をかいて思い出そうとする先生の背広袖にセロテープの切れ端がくっついていた。
掲示板にプリントでも貼ってたのかね?
こういうの気になるタチなのでひょいと引っ剥がした。
指が触れたとたん、先生の肩がピクッと跳ねた。
え? 変な触り方した?
「思い出した!
ゆっくり研究できる場所がほしかったんだ」
「は、はぁ。研究、ですか?」
「町の宿屋で長期滞在を予約しようとしたんだが、どこも断られてしまってね。
特別な設備はいらないので、静かな場所を紹介してもらえないだろうか」
そらそうだ。
RPGの宿屋といえば回復とログアウトの場だ。
連泊してゆっくりするところじゃない。
観光客は想定外なのだ。
ちなみにスタットラインの宿屋はどこも非常に安い費用で一泊できる。
これは冒険者ギルドが特別な補助を出してるおかげだ。
支援が手厚い。
うーん。
研究といえば《錬金術組合》なんだが。
向こうには向こうの予定があるだろうなぁ。
もともと忙しいトコだし。
特に《錬金堂》が希少素材を持ち込むようになってから、忙しさに拍車がかかったらしい。
研究論文とか山積みなそうな。
スマン、うちのせいだった。
蒸留器使用の順番で揉めるぐらいだ。部外者の面倒を見る余裕はあるまい。
新規の見習い受け入れだって延期したそうだし。
だからずっと一番下っ端なんです、とミライナ先生がこぼしてたよ。
本当はさらに下っ端が俺なんだけどね?
組合員なのか微妙だけど。
「うちの裏庭の森に図書館ができたので、とりあえずそこに通ってもらえますか?
俺の紹介なら大丈夫だと思います」
「森に図書館が?」
「前にみんなでカレーを食べた森です。
勉強し放題のいいトコロですよ。
ヨグ様って神様が管理されているので挨拶だけお願いします」
名前を聞いて先生が妙な顔になった。
知ってるのかな? さすが先生だ。
行きがけに《錬金堂》に顔を出してくれるよう頼んだ。
俺も資格の勉強しないといけないしな。
一緒に行けば話も早かろう。
「センセイ、なんだって?」
「D&Cのことだったよ」
「へー? けっこうハマってる感じ?」
席に戻ると東条と西崎がいっしょに聞いてきた。
仲いいな! チッ。
「落ち着いて勉強できる場所を探してて。俺が紹介した」
「仕事終わっても勉強したいんだ。センセイって凄いねー」
「そういえば、俺達もそろそろ試験勉強しないと」
「もー、憂鬱。遊びに行きたいのにー」
ふと思いついた。
こいつらに学年首位とか取らせたら、ちっとは宣伝になるかね?
「よければ同じとこで勉強するか?
1時間で死ぬほど勉強できるぞ?」
「1時間だけでいいの?
じゃあ、ついでに食べ歩きも」
「だけどゲームの中だろ?
覚えてられないんじゃ?」
「そうだな。
ところで、うちのスーパー頼りになるワンコの名前言えるか?」
「えーと、…コロだっけ?」
「タロちゃんじゃない?」
さっき先生にしたみたく、二人の腕に触れてみた。
同じくピクッと肩が跳ねた。もしかすると…?
「いや、シロだって。狼だろ?」
「強くて可愛くて便利なシロちゃん!」
実験成功。
接触でも記憶が繋がるらしい。近場ならこれでいいな。




