第95話試験と魔女
ニス魔法学園、その見た目はニス=グリモア城ほどではないが相当なインパクト、見た目を誇っており。ニス=グリモアの五分の一を占めるこの学院はまさに壮絶な凄みを醸し出していた。
そんなニス魔法学園、学院長は今、ム―と頭を悩ませていた。
今手元にあるのは試験を通過したSクラス以外の通過者たち、だが表記されるステータスを見ても、どうも養殖された貴族たちにしか見えない。
「は~あ、今年も駄目ね.....もっとこう、学園をぶっ壊すような子達はいないのかね」
「まーた変なこと言って、仕事まだ残ってるんですからね」
そんなふざけたことを抜かす学園長に、あいた扉から呆れ気味に告げるのは、Sランク試験担当官、スノー=ホワイト。
「どう?今年のSランク生徒の実力は」
「今年は酷いですね、本当に勘弁して欲しいですよ」
「そうか....期待はずれね」
「あ、いえいえ違います、強すぎて手に負えないって事です、てか私よりも強い生徒が3人ほどいました」
「なっ!?Sランク冒険者の君よりもか!?」
「は、はい、まあ」
あまりに食いついてくる、学園長に若干呆れ気味に肯定を返す。
「それで....その、なんですが、被害が出てまして、これがその請求書ですね」
言いにくそうにホワイトは紙を机に置いた。
そこには『地下練習場半壊、被害額ー』と書き記されていた。
その事にふふっ、と非常を浮かべると。
「で?どんな被害になった?」
「そ、それがー」
ホワイトは語り始めた自分の見た、壮絶なる力を。
今から5時間前、Sランククラス試験のため、地下練習場にSクラス候補生を連れてきていた。
「ここは、地下練習場とても頑丈に作られていて並大抵の攻撃じゃあ傷もつかない......『フリーズ』」
後ろの壁を触り一節詠唱による氷結魔法を唱えると壁は一瞬で凍りつくが、少しすると氷結はポロリとくずおれたてしまった。その壁には傷一つ付いていない。
「とまあ、こんな感じ、壊れる事はないから、安心して本気で魔法を放ってね......あ、見ればわかると思って言い忘れてたけど試験内容はあの人形に魔法、もしくはスキルを当ててくれればいいわ、それで威力の判定をして誰が一番強いのか教えてあげるわ」
その言葉に息を飲むもの、腕に自信があるのか余裕そうにしているものまで。
「さて、誰からやってくれるのかしら?」
試すような視線に誰もが黙ってしまうなか、先程の冒険者達が名乗りを上げた。
「俺達が先にやらせてもらうぞ!!雑魚はどいてろ!!」
周りの人間達を押しきり抜け出してきたのは、ダンク?とか言った奴を筆頭にしたB級冒険者達。
奥に並べられた、人型人形を見据え、魔法を唱え出した。
「『大いなる命が巡りし、大地よ。我が手に力を授けたまえ!【土流槍】」
高らかに発した呪文により、土属性魔法LV10【土流槍】が発動する。
青年の手には岩、砂、土、塵が集まり槍のような形を作り上げていた。
「いっけぇ!!」
方向とともに飛来した土流槍は人形の中心を的確に射抜いていた。
「おお!」
「あいつスゲェな!!」
周りから感嘆の声が漏れ、土流槍を放った青年は自慢げに鼻を鳴らしていた。
(え?.....嘘でしょ....これが...凄いの?)
エミリーはあまりのレベルの低さに固まってしまった。
そしてある思いが浮かぶ、こんな学院に入って本当に意味があるのか?と。
「次は俺が行くぜ!」
「私も!」
青年に続き、何人もの少年少女達が剣技、魔法を駆使して人形を破壊して行く。
あらゆる所から感嘆の声が響くなか、ついにダンクが重い腰を上げた。
あまりの巨大さと存在感に周りの奴らは一歩身を引き、道を開けた。
「この程度で凄いだと?雑魚どもめが、フンッ!!」
前に出たダンクは目の前の人形に無造作に大剣を振り回すと、人形はすぐに真っ二つに割れた、それどころか....
「す、スゲェ!!地面が割れたぞ!!
「なんて力だよ!!」
「やっぱこの人が最強だ!!」
たったそれだけの事で大絶賛されるダンクとやら。
(なかなかやるわね、あの子.....さて残りは....)
これで凄い、レベルの低さを痛感していると。
絶賛が終わった後の少年少女達がギロリと数多くの瞳がカノン達を睨んだ。
「さあ、次はお前らだぜ!!」
「もしかしてびびって腰が抜けちゃいましたかぁ?」
「「「ぎゃはははは!!」」」
そんな笑い声が響くなか、流石のミキもあまりの張り合いのなさに萎えたのか、どうでもいいと言った感じだ、ゴブリンも試験に落ちてもいい、そんな考えが丸わかりだった。
けど、無理やりとはいえ、せっかくユウキさんがお金を出してくれたのに、それを無駄にはできない。
「私やってきますね、皆さんは?」
ミキもゴブリンもヒースミルもどうでもいいそんな感じだった。
そんな中カノンだけは付いてきてくれた。
「私も行きます」
「ありがとうございます!」
そんな風に2人で前に出たのは2人の少女、赤髪の獣人と青髪の人間が前に出た。
「おっ!やっと出てきたぞ、それも女の子だ!!」
「へぇ、案外かわいいじゃん!俺の妻にしてやってもいいな」
そんな色々な声が飛び交う中、カノンは冷静に聞いた。
試験担当官に。
「一つ聞かせてください」
「なにかな?」
「本気でやっていいんですね?」
真剣みを含んだ顔で試験管に尋ねれば、当然と肯定を返される。
「ええどうぞ」
「もし壊れても、弁償とか?.....」
「ないですよ、まず壊せないでしょう?」
そんな舐め切った考え、私はちゃんと聞いた、それでも理解しなかったあいつが悪い。
「エミリーちゃん本気でやりましょう」
「分かりました」
エミリーはカノンの言葉に頷くと、ゆっくりと目を閉じて左手を前にして、右手を引いた、まるで弓でもあるように。
精神を落ち着かせ、狙いを定め始めるエミリー。
それを見たカノンは小さく頷くと、右手を掲げた。
『地獄の力よ、紅蓮の焔よ、裁きに背き力持ちて、我が前に顕現せよ!』
聞いたこともない、詠唱にただ黙り見ていた。
だが気づく、途中からあの2人を渦巻く魔力がとんでもないことになっている事に。
エミリーの手にはいつのまにか冷気の弓が.....カノンの右手には紅の焔が巻きついている。
そして、最大限まで集中、魔力が高まった瞬間。
『荒れ狂え!【極焔竜】!!』
「【零の矢】」
そのカノンの腕から焔が出た瞬間、膨大な焔が渦巻き、まるで竜のような形を作り上げると、練習場の床、天井、あらゆる所を焦がしながら人形も全て飲み込み、最終的に一番奥の壁を突き破った。
エミリーの冷気の指から発せられた1矢は、真っ直ぐと人形の体を突き抜けた。それだけなら良かったのだが、【零の矢】が通り抜けた所からは、氷塊が鋭利な刃物のように突き出し、練習場も何もかもを凍らせ破壊した。
まさに唖然、規格外の化け物にもう声も出ない。
あまりの光景に、魔法の威圧により腰をついた少年少女達が多数だ、ダンクという奴も同じように腰を抜かしていた。
左は紅蓮、右は極寒、なんとも酷い光景に担当官も唖然としてしまっていた。
「な、なんなのよこれ....次元が違いすぎる.....」
あの時見くびってしまった自分をぶん殴りたい、そうすれば被害は出なかっただろうに。
「それで?誰が一番強かったのですぅ?」
そんな後悔渦巻く担当官にヒースミルはいやらしく声をかけた。
「教えてくださいよぉ〜.....あーあ、負けちゃったかもしれないなぁ〜、ダンクさん?だっけ強かったもんなぁ?これは負けちゃったかなぁ?」
既に結果は分かっているのにいやらしいヒースミルの口撃が続く。
「テメェ!!」
「なにぃ?怒ってるなら、まず立ってくださいよぉ〜」
だが、それでも完全に腰が抜けてしまった少年少女達は立つことが出来ない。
「あれれ?もしかしてぇ、ビビって腰が抜けちゃいましたかぁ〜?」
ヒースミルがオモチャを見つけたように悲惨に笑みを浮かべたー
「とまあ、そんな事があって、その被害額です.....それで入れてもいいでしょうか?」
「んあ?何を?」
「その子達です、どうせ去年と同じように一番強いの連れて来いって言うでしょう?」
「おお分かってるぅ!入れて入れて!」
扉をホワイトが開けると、そこから出てきたのは紅髪の少女、その後ろには高身長の黒褐色の青年と、小さな子供、そしてその姉?のような青髪と紫髪の少女達が。
「ようこそ、Sクラス生徒諸君!ささ、まずは座ってくれ」
学院長は目の前のソファに誘導して席に着かせると、同じように学院長も席に着く。
「何の用でしょうか?弁償という件なら払いませんよ」
「いやいや、その程度払わせるなんてそこまで器が小さくないわよ、そういう話じゃないんだけどね、少し頼みがあって、ね」
長くなりそうな話、それに面倒ごとだろう、
すぐに理解すると嫌そうにゴブリンが口を挟んだ。
「じゃあなんの話だ?俺達は今すぐ家に帰りたいのだが?」
その発言をさっさと話せ、と取ったのかとても率直に、簡単に言った。
学院長が最も言ってはいけない言葉を。
「お願い!この学院をぶっ壊してくれ!」
♯
「大、丈夫?お兄ちゃん」
「あ、ああ....あんまり触んないでくれ」
城から脱出後、追われることを危惧して路地裏に隠れたまでは良かったが......
今フィリアナは心配そうに俺の背中を触っていた。
「もう、馬鹿ですね....あの程度の魔法、私なら無効化出来たのに」
そう、ユウキはキミヲが放った魔具による闇魔法を全て受けていたのだ、妹をかばいながら。
そのせいか背中には殴られたような青黒いあざができている。
「全く、少しは信用してくれてもいいのに.....『エンシェント・ヒール』」
神秘的な光がユウキの背中を包み込み、痣を癒していく。
「ありがとう、フィリアナ」
「えへへ、どういたしまして......それで、これからどうしますか?」
「うーん?.....特にすることも無いんだけど...」
甘いもの巡りでもするかな?もしくは寝間着の服とか買いに....
「だ、だったらついてきて欲しいところがあるんだけど!」
ついてきて欲しい?
まあ、いいか.....寝間着なんていつでも買える。
「今日は特に用も無いし別にいいぞ.....」
「じゃあ決まり!ほら、早く早く!」
「ちょ、引っ張るなって」
俺の手を掴むと、駆け足で南地区方面に連れていかれた。
「ここだよ!!」
「いや、お前ここって....」
連れられて来たのは、酒瓶溢れるゴミ屋敷、その家の前には兵士が並んでいた。
「そそ、知っての通り魔女の家」
「おいおい、まだ会いたくないんだけど....ってか」
ここは師匠の家、元は俺が掃除してあげ、綺麗に片付いたはず。
(あの野郎、酒はやめるって約束どうしたんだ)
「そんな酷いこと言わないであげなよ」
「いや、だって師匠、ほぼストーカーだし、俺にベッタリだったし......お前分かるか?自分の使ったスプーンをお金より大事に保管される気分が」
「え?愛されてるってことでしょ?」
「はぁ.....お前はこんな奴だったっけ、同情を誘った俺が馬鹿だった」
頭を抱えながら、付近に立つ兵士をスルーして扉の前に行くと、フィリアナが叩きつけるように扉を開けた。
「おっはようございます!!元気ですか師匠!!」
俺も手を握られ、家の中に入ると、そこには黒髪ロングの女性が机に突っ伏していた。
周りには空の大量の酒瓶。
そこに埋もれている女性はゆっくりと顔を上げた。
「なんだ?フィリアナか.....?...いつつ....」
「もう酒飲み過ぎなんですよ....しっかりしてください」
「お酒飲まなきゃやってられ無いんだよ....なんか作ってくれ.....」
「はいはい、台所借りますよ」
呆れ気味にそういうと、奥の台所に姿を消した。
あまりの部屋の汚れように俺が昔折角掃除したのに、なんでだよ!と文句を言いたい。
師匠は床に纏まって置いてある服の中に飛び込むと、ひょっこり顔を出し。
「んあ?誰だお前....」
朧げな瞳に潜む鋭い眼光がしっかりとユウキを突き刺していた。
「お、俺はその....フィリアナの付き添いです」
「ふーん、私お前と何処かであった事あるか?」
「い、いやあった事は無いと思うけど....」
「へぇ、じゃあなんでここに入れる?」
「へ?.....」
「ここにはな、私の事を深く知ってる者しか入れないように結界がはってあるんだよ、因みにだが、この技術を教えてくれたのはフィリアナの父だ」
(あのやろぉ!なんて余計な事を!)
頭の中で舌を出して、テヘッと笑っているあいつをぶん殴りたい。
「で?なんなのお前」
初めて向けられた敵意、ずっと信頼していた者による敵意というものがこれ程怖いなんて、思いもしなかった。
少し後ずさりながら、引き攣った笑みを浮かべた。
「まあいい、フィリアナの連れてきた男だ、私は別にフィリアナの事を疑っているわけじゃない、信じているさ.....だからこそ聞きたい」
ここからが本題だと、雰囲気がさらに変わった。
その空気に本当に目の前の魔女は強者である事を伝えている。
瞳を瞬かせると、ギロリと刃物のような視線で、突き刺すような言葉を投げかけた。
「なんだあの笑顔?.....お前何した?」
「は?笑顔?...」
「あのフィリアナの笑顔、それはお前に向けられる物じゃない....お前みたいな奴にはもったいない。あの笑顔をされてもいいのはユウキだけだ、何故ユウキだけに向けられる笑顔を私の前に見せた?何故お前に見せた?...」
「.......」
「フィリアナはユウキが....兄が死んでから一度も笑わなくなった.....なのにどうして笑ったんだ?.....ユウキがいた時だけ見せた笑顔を私に見せたという事は、フィリアナはお前ごときがユウキの代わりになる、と思っているという事なのか?」
こいつ、鋭すぎて怖い。
それでもなお、やはり俺がユウキであると思はないのは、生まれ変わったなど誰も思はないからだろう。
「愚王のユウキの代わりなんてするわけないだろ?俺は俺でフィリアナを笑顔にー」
試しに少しだけ、自虐を言ってみると。
「愚王だと?....巫山戯るな!」
次の瞬間、家を吹き飛ばす爆炎がキリアの姿を飲み込んだ。
詠唱もない、ただの動作による魔法行使。
これが魔女を魔女たらしめる動作魔法。
「ぐっ!?」
炎に包まれ、皮膚を焦がしながら後ろに跳躍。
だが、それでも威力を殺しきれず、地面に跳ねられた。
「私は絶対に認め無い!!お前がフィリアナを笑顔にするだと!!?それが出来るのはユウキだけだ!ユウキ以外なんて私は認め無いぞ!!」
右手に灼熱、左手に雷剛を纏った魔女はただひたすらに暴れた。
奥に倒れているだろうキリアの姿が見えなくともひたすらに、涙を浮かべながら。
魔法を打ち込み続けた。
「何が起こってんだ!?」
「おいおい喧嘩にしては、やりすぎだろ!!」
ついには道を歩いていた人達までもが余りの爆音に集まってきていた。
だが、そんな人目など気にせず、打ち込み続けた。
「お前が!お前なんかが!!代わりになんて!.....ああああぁぁぁぁあ!!」
泣き叫びながら、まるで今までの悲しみを晴らすかのように、魔法を酷使し続けた。
地形と家が無くなるほどに。
「はぁ、はぁ.....いな、い?消し飛んだのか?」
あまりの高火力魔法の連続行使、死体にひたすらに魔法を使い続けた結果、自体も消し飛んだのだとその時は思ったが。
血が全く飛んでい無い地面を見て、考えを変えた。
逃げたのだと。
「な、な、何をやって.....」
後ろからフィリアナの恐怖に染まった声が聞こえた。
この声音はあの時と一緒、昔ユウキがいなくなった時。
(やっぱりフィリアナは、あんな奴をユウキの代わりに......)
「フィリアナ....お前は騙されてるんだ、あんな奴がユウキの代わりになる訳ー」
「あなたは!!何をしたか分かっているんですか!!!今自分の手でお兄ちゃんを殺そうとしたんですよ!!!」
お兄ちゃん?......おいおい何を言ってるんだ。
「お兄ちゃんって.....ユウキは昔に死んで.....」
「どうして貴方は、この部屋に入れた時点で気づかないんですか!!あの人は!....あの人は!!....」
喉から微かに溢れたフィリアナの言葉。
その声を、言葉が耳に入りこんだ。
「嘘、だろ?」
苦々しく、顔を歪めると目の前で泣きじゃくるフィリアナも置いて、魔女は走り出していた。
自分のしてしまった愚かさを理解しながら。




