第22話 カトゼ大神宮 その3
これを口で説明するのは、些か面倒だ。納得させかねる――。やはり、先生が言ったことは本当だった。
「さ、珊瑚の頭、ですか……?」
イージャンが、自分の耳を疑ったように、私へ聞き返してきた。
「そ。髪の毛が、その珊瑚に変わったって言うかさ」
「は、はあ……」
半開きになった口から零れたのは、何とも言えない様子の生返事。まあ、気持ちは分かる気がするな。
「しかも、耳が貝殻って……。ははっ」
オウサは、苦笑いの半笑いだ。だよねえ、然もありなん。
「それから、白目がない碧眼。頬まで裂けた口に牙……。褐色の肌には魚の鱗……」
キルサは、また口許に手を押し当て、視線が右下になったまま動かない。それが、想像しようと考え込んでいる様に見える。
「そして、死んだから、白い石灰になった……。あれが、その残骸――、ですか……。はあ……」
シヴァルイネは、理解を自分に追い付けようとしているのか、眉間に寄った皺を揉み続けていた。まあねえ……。そうなっちゃうよねえ……。
先生は、まずあつらの体の特徴について話してくれた。私も直接見たから、一緒に補足を入れたりしてね。そして、四者四様ではあるが、返ってきた反応はこんな感じで似たようなものだった。俄かには信じられない。誰も信じ切れていていなかった。
もしかしたらとは思ったが――。皆、西黄人にそんなのがいるって、知らなかったか。そもそも、シカルアヒダは遠方の国。そんな国の情報なんて、王都じゃあ西黄館ぐらいしかない。一般的にはね。
「まあ、自分の目で見なければ、こうなろうな」
「ですねえ……」
先生の言う通りだ。私も、自分の目で見なければ、こうなっていた自信がある。だから、知って欲しいんだよ。いきなりそんなのに出くわせば、絶対に動揺が走るし隙が生じる。
これはやっぱり、父様に進言する必要があるよね。王宮に戻ったら、今回の件について情報の開示を頼まないと。最悪、この体の特徴だけでもと言いたいが、やっぱり色々知りたいよなあ。
「さて、ここからどう話すか。機密に関することが含まれる故、あまり詳しくは言えぬが……」
うーん。どうしよう。先生に言われて考えてみる。
「――なら、こっちから聞いちゃっていいですか? 駄目なら駄目と言ってくれればいいですし」
「そうだな。そうするか」
「はい。ありがとうございます」
ま、別にこれでいいだろう。私も聞きやすいからね。
「お前たちも、取り敢えず納得するのは後にして、何かあったら先生に聞いてくれ」
『分かりました』
オウサとキルサがそう答えて、シヴァルイネとイージャンが頷く。ではでは、質問開始だ。
「能力は、どんなのがあるんです?」
まずは、最初にお願いしたこれ。これだけは、確認しておきたい情報だ。知っているなら、教えて欲しい。出来れば、全部。
「お前には言ったが、人並み外れた怪力だな」
それかー……。怪力、ねえ……。うーん。
「でも、あの程度じゃあ――」
話にならない。白装束だけでなく、あの三匹もだ。ここにいる者たちの方が、まだ力がある気がする。え? もしかして、これしかない?
だとしたら、あの異形の姿だけ、驚かないよう注意しておけばいいという事になる。それならそれで、ありがたいが……。
「いや。あれは、まだ稚魚だったからな。故に、力もあの程度だったのだ」
違うと首を振る先生から、的外れのような言葉が聞こえてくる。稚魚?
「稚魚ですか? 雑魚じゃなくて?」
そう聞き直すと、先生がにやりと笑う。
「ふっ。そうだ、雑魚ではない。稚魚だ」
いや、冗談を言いたかったわけじゃないんですけどね。感想を述べただけで……。
「まあ、この稚魚というのは、儂が便宜上言っているだけだ。半分魚みたいな奴らだからな」
ほうほう。そう言われれば確かに。魚の鱗なんかもあったしね。先生によれば、結局それで合っていたみたい。装飾の類ではなかった。
「本来は、つまり成魚はもっと大きい。さらに巨大な体をしておるのだ」
「それって、どのくらいになるんです?」
その稚魚っていうあいつらでも、でかい体ではあった。それから、膨らむように大きくなっていたが――。
「そうだな……。此の咬みの半分を超えるくらいは、あるだろうな」
「へえ……」
先生に釣られて、私たちもこの肩に担いだ至極天を見上げる。あれより二回り程違ってくるな。となると、重樹の小さい奴くらいはあるのか。
「そして、成魚になるにつれ、力も増す」
「そいつらが、やばいと」
先生に顔を戻した。
「そうなるな。成魚は、人の知性を持った重樹とでも思っておけ」
巨大な体を持つ人。つまり、巨人。そういう感じか。ホント伝説の類だな。この巨人というのも、鬼と同じく実際この目で見たことはない。
「ふっ。しかし、雑魚か……」
ええ? まだそれ引っ張ります? 何か気に入ったのかな。
「まあ、お前がそう言うのも分からんでもない。あの三人は稚魚の上に、武人としても大した能力はなかったであろうからな」
「あ――。外れ、ですか?」
確かそんな事言ってたよね、先生。
「うむ。脅威は感じなかったのであろう?」
「ええ、まあ」
威勢がいいだけ。体格に物を言わせる奴らと、さして変わらない。そう思った。
「恐らくは、武術を知らぬ者。しかも、成り立てであっただろうな」
「成り立て……? 騎士にですか?」
「そうだ」
そういう事か。なら、あの拙い剣術にも納得が出来る。ただ、そんなのが成れるってのは、よく分からないが。騎士ってのは、成る前から多少なりとも武芸を嗜んでいるもんじゃないのかね。そんな気配は、微塵も感じられなかった。
そもそも、何であんなのを寄越したんだろうか? 狙いは、ユーノ王女だったはず。首を持って帰るとか、舐めた事を言っていたからな。
だが、弱すぎる。襲撃の意味がない程に。事前に、こちらの戦力を調査とかしなかったのかな? ていうか、その成魚って奴を、連れてくるべきだったんじゃないの? うーん。やっぱり、ちぐはぐした感じがする。
あと、この成り立てという言葉――。私は、妙に引っ掛かるものがあった。
「怪力の他には、何かないのですか? 例えば、奴ら独自の技とか」
取り敢えず、それは置いとくとして、とにかく能力的な事を優先したい。私は質問を続ける。
「ふうむ。そうだな――」
思うに、三叉の剣を使う技とかはあるんじゃない? あいつらは見せなかったが、ちゃんとした騎士なら持ってるっぽいよね。先生は、顔を上げて一旦見上げると、すぐに戻した。
「リリシーナ。『水弾き』があるだろう?」
「え? お風呂とかでやる奴です?」
「うむ」
また場違いのような言葉が出て来たな……。水弾きってのは、入浴時にお風呂のお湯などでやる技なんだよ。つまり、お遊び。
まず、左右両方の掌を広げ、お湯の中で密着するように合わせる。それから、その掌の中を膨らませて、お湯を吸い込ませる。そして、少し隙間を作り、そこから吸い込ませたお湯を一気に押し出し、イルミネーニャの顔目掛けて浴びせるのであーる。
ああ、いや。別に、あの子じゃなくてもいいんだけどね。私がそうだったもんだから、つい。逆に、あの子の場合は私だな。しかも、当てるのが上手いもんだから、鼻の中や眼とか顔の部位を狙ってくる。的を小さく絞ってくるんだよね。怖い怖い。
「その水弾きが?」
私が、もう一度聞き返す。
「奴らの攻撃手段の一つだ」
「ほっほう……」
そんな事に使えるまで、強力に出来るって事か。
「シドー様。その威力は如何ほどに?」
シヴァルイネが尋ねた。
「船体に、大砲の弾が当たった程度はあったな」
「中々にあるのですね」
「うむ。しかも、地の利を生かされれば、話も面倒になってくる」
「地の利、ですか?」
キルサが聞き返す。私も、その言葉に関心がいった。
「そうだ、地の利。つまりそれは水中だ。そもそも奴らは、海の中での活動を得意としておるからな」
それもそうか。シカルアヒダは浮島都市。周りは全て海で囲まれている。
「そこでなら、弾の数を気にする必要はない。海水の全てが弾になる」
そりゃ、経済的ですこと。大砲の弾とは違い、ただ。お金も掛からないとはね。
「他にもあるが、儂の知る限り似たようなものだな。要は、水を利用した攻撃をしてくるというわけだ」
水ね。だから、襲撃の時には言わなかったのか。あいつらが持っていた風でもない。近くにあったのは、桶に入ったものぐらいだったし。そのくらいの量じゃあ、脅威に成りえないなかった。たかが知れていたってことかな?
「速さはどうなんですか、シドー様?」
オウサが、自分の体を素早く左右に動かし、横跳びを繰り返す。うん、そういうのも聞きたいよね。
「瞬発的なものになるが、お前くらい動ける奴はおったぞ」
「げっ……」
苦々しく顔が歪み、動きが止まる。オウサ並……。そうなると、カトゼの上位陣並には動けるのか。しかし、持続的にではないと。ずっと同じ速さで動き回れないようだ。
「だが、これも地の利を生かせば、話が変わってくる」
え? あ、そっか。
「奴らは、巨体であるにも拘らず、まるで魚の様に素早く海中を動いておったからな。しかも、それがかなり長い時間出来る。稚魚だけでなく、それよりも大きい成魚も含めてだ」
うへえ。面倒くさ。地上なら、速さ重視のかく乱戦なんかに持ち込まない限り、向こうが有利。そして、海上や海中なら、どういう作戦でいっても関係ない。奴らが断然有利というわけか。
「なるほど……。泳ぐ事にも長けているのですね……」
「うむ。だがな、こちらは、それだけではないのだ」
「え?」
納得したように呟いたキルサが、伏せていた目を先生に向ける。泳ぐだけじゃない?
「確かに、儂らが泳ぐよりも速い。これだけでも、十分やり辛いだろう。しかし、それ以上に厄介なのは――」
彼女だけでなく、皆の視線が注ぐ。
「奴らは、息継ぎを必要としないのだ」
『ええっ!?』
オウサとキルサが、驚きの声を上げた。イージャンとシヴァルイネは、目を見開いている。私も。おいおい……。それは――。
「これは、非常に厄介だ。一旦、海の中に潜めば、襲撃は思いのままだからな。いつでも奇襲が出来る」
それだけじゃない。深く潜れば、砲弾を避ける必要がないし、天候にも左右されない。守備も当然有利だ。島や陸にでも上がらない限り、一方的に攻撃されるんじゃないか?
「その方法としては――。例えば、船を使うとしても、水弾きで牽制されつつ、その船体を真下から破壊されて、海の中に全て引きずり込まれる、とかになるな。これは、奴らにとっては造作もない事だ」
うん。具体的に言えば、確かにこうだろうね。そして、それがいつでも出来るのか。水の中なら。
「はあ……。本当に魚みたいなんですね……」
いや。それより性質が悪いか。
「うむ」
私が溜息を零した後、しばし沈黙が流れ、皆そのまま石段をゆっくりと登っていく。今聞いた事実に言葉がないようだ。考え込んでいるようにも見えた。明らかに、これまで戦ってきたどんな奴らとも違う。自分が相対したとして、どうやったら対処できるか、その対策でも捻り出そうとしているのだろうか。
「さて――。儂から話せるのはこのくらいになるか。後は、ジャムシルドたちから、カトゼに話が行くだろう」
げ。これだけ? 本当に身体的な特徴だけとなってしまった。
「ああ。それから、今言ったことを妄信せぬように。場合によっては、全く違う事がある。これは、この件に限った事ではないがな。まあ、あくまで目安程度に頼むぞ」
『はい』
先生に念を押され、シヴァルイネたち四人が答える。参ったな。まだまだ聞きたいことはあったんだけど。結局、あいつらは一体何なんだとか。先生は、あいつ等といつ出遭ったのかとかさ。それに――。
「あのー、先生」
まだ質問したいこともあったが、それとは別にイージャンたちに伝えておきたい事がある。黒い煙と仮面の奴ね。もしかして、これも言えないのかな。
「リリシーナ。これ以上は、ここで話せぬ」
やっぱり、駄目なのか……。あいつらの事も重要だが、こっちも知っていて欲しかったんだけど。いや、駄目だ。これは絶対に知っていて欲しい。よおし、こうなったら強硬策で――。
「ふっ」
先生が私の顔を見て、困ったように笑う。――あ。やば。これ、ばれたわ。
「まあ、お前が今朝見聞きした事は、厳密に言えばまだ機密に指定された訳ではないからな。儂は何も言えぬが、ここにいる者にそれを教えてやるといい」
ほっ。良かった。先生から言ってもらえて助かるな。
「しかし、後は駄目だぞ?」
「分かりました」
要らぬ混乱が生じるのは、避けたいって事ね。
「お前たちも、今から聞くことは儂が教えたのと同様に、他言無用で頼む」
『はい』
先生に念を押され、四人がそれぞれ返事をしながら頷いた。
「――それで、姫様。他にも何かあったのですか?」
シヴァルイネが、真剣な眼差しを向けてくる。これに釣られて、残りの三人も。さて、どう話すか。まあ、見たことをそのまま話すしかないか。でも、そうなると多分これも――。
「黒い煙が空から降りてきて、それが塊になった。で、この塊が奴らになったんだよ」
「は、はい?」
真剣だったその顔が一気に崩れ、聞き返してきた。足も止まる。それに合わせるかのように、私も含め他の皆も止まった。だよねえ、同じようになるか。
「それと仮面もね」
「か、仮面、ですか?」
「うん。この仮面も黒い煙からそうなったんだ。宙に浮く白い仮面で、あと言葉を喋るしこっちの姿も声も分かるみたいだった」
「な、何ですか、それ……?」
私も何なんだと問いたい。あれって、生き物だったのか? だとしたら、父様が粉々にしたし、先生も何もしなかったから、多分あれで問題なかったのだろう。けど、他にもまだいるかもしれないよね。ササレクタの反応を見るに、その可能性は高い気がする。
「まあ、とにかくだ。黒い煙に遭遇したら注意してくれ。それが人の姿や仮面になる可能性がある」
「…………」
シヴァルイネは、もう何も聞き返してこない。唖然としている。これは、他の三人も一緒か。
「いや……。いや、殿下……。流石にそれは――」
しばらくして、首を振りながら何とか声を絞り出したオウサ。それに、私も首を振る。
「実際、あいつらはそれで現れたの」
「ええー……。ほ、本当にですか……?」
「本当。私は、最後に現れた奴らと仮面しか見てないけどね」
「ひええ……」
他の奴らは、どこから湧いて出たんだろうか。やっぱり同じように、黒い煙から現れたのかな。でも、それならあの数だ。気付きそうなもの。あ、夜なら気付けないか。雨も降ってたし、星空も見えない時間はあった。けどさ、だったら襲撃もその夜にやるべきだったって事にならないか? でも、それをしなかった。
ふむ……。何か理由や条件があったのかもしれないな。例えば、あの時間帯じゃないと、あの三匹は無理だったとか。なら、襲撃が早朝になったのも分かる。それに合わせたって事だ。
うーん、けどなあ……。いまいちピンと来ない。こうなるのは、情報が足りないからだろう。いや、逆に判断なんかできないって。憶測が過ぎる。はあ……、やっぱりまだまだあいつらの事、知りたかったなあ。
「イージャンとシヴァルイネは、後でゴトキールにでも――、聞いてみるといいよ」
先生に振り向きながら言うと、頷いてくれる。これは、大丈夫なようだ。許可が取れた。
「あの人に……。分かりました」
「はっ。確認します」
シヴァルイネが頷き、イージャンが敬礼で返す。
「ああ、イージャンは別にあいつじゃなくてもいいか。あそこにいた近衛騎士は、全員見ているからね。そっちでも構わない」
「はっ」
「私からも、以上だな」
伝え終わると、私は階段を登り始める。これに続くよう、皆もゆっくりと登りだした。先程と同じように黙りこくっている。やっぱ、似たような感じになったな……。
「はあー……」
何段か登った辺りで、オウサが深い溜息を吐いた。
「何だか、凄い事聞いちゃったなあ……」
「うん。未だに信じきれない」
「ああ、俺も」
妹と一緒になって、頷き合っている。
「けど――。それを直に見たゴトキール様や近衛騎士の皆様は、さぞ驚かれたことでしょうね……」
「だな」
キルサ残念。他の近衛騎士は知らないが、あのおっさんはいつもと変わらず、飄々とした感じだったんだよね。
そう言えば――。ふと襲撃の、千響万歌を使った時の事を思い出す。あの時、近衛騎士の中にゴトキールっていたっけ? いなかったような……。いれば、あの顔だ。すぐに気付きそうなもの。うーん。別の場所にいたのかな? 王宮侍従官を、避難させたりしてたのかもね。
しかし、ゴトキールは非番ではあったが、鎧も着てたし帯剣もしていた。お酒も飲んでいたが、泥酔というわけでもない。ならば、ああいう時は、隊長であるあいつがその場で指示をし、事に当たるべきだったとなる。避難は、別の者に任せてね。
だが、近衛騎士たちは隊長がいなくても、緊急時は各自で動ける。そういう想定も訓練してやっているのだ。だから、あいつがいなくても、私はそこまで気にならなかった。
ちなみに、そんな訓練をするようになったのは、随分と昔の話だとか。王族が戦の先陣を切る、この国特有の気質から自然にそうなったのだと、先生に教わった。戦を指揮する王族が戦死しても、そのまま戦えるようにってね。だから、これは彼ら近衛騎士に限った事ではない。他の兵団でも、似たような事はやっている。
「そうだ。近衛騎士って言えば、兄貴」
オウサが、イージャンのいる私の後ろへ、振り向いた。
「さっき丘を下っている時なんですけど――。滅茶苦茶、足速かったですね」
「――あ、うん。確かに」
キルサも気付いて同意すると、同じ方を見る。そっか。オウサ達は、シトエスカたちと一緒にいたから見てるよね。出くわしたのは、外壁門より前だったか。
「俺、兄貴があんなに速かったなんて、知らなかったですよ」
「そうか……?」
「はい」
オウサに言われて、イージャンが歩きながら腕を組んでじっと考え込む。この双子は、二人でなければ玉響を感じることはできなかったはずだからね。だから、その理由も分からないだろう。力を使い合う状況じゃなかったって事だ。まあ、走っていただろうし。
しかし、あんまりそこら辺の事を指摘しないで欲しいんだが。玉響がその原因だったってばれてしまうかも。まあ、別にばれても、それがどうしたって感じもする。悪い事ではないわけだし。でも、私としては、黒刀を手に取るまで、何も知らない方が良いって思うんだよね。根拠はないんだけど。
気になったので、イージャンがいる後ろを見ながら登っていると、しばらくして顔を上げた。
「うーん。どうだったか……。自分では、よく分からないのだが……」
「そうなんですか?」
「ああ」
やっぱ、自覚なしか。私は顔を戻す。それに、今は引っ込んでるからね。違いも何もない。ここに来るまでも、感じなかった。
「ふふ! それは、あれよ。兄さん」
キルサの顔が、にんまりと悪戯っぽく変わる。
「ん? 何だよ?」
「シビアナ様が心配だったから、いつもより力が発揮されたのよ」
そう言われ、オウサの顔もにんまりと変わった。
「ははー、成程……。流石は兄貴……」
顔とは違い、神妙な物言いで納得する。そして、冷やかすような目つきでイージャンの方を見つめ出す双子。すると、
「んっん゛ん゛……」
さっきの先生と同じように、バツが悪そうな咳払いが聞こえてきた。誤魔化そうとしているらしい。
「――ふっ! ふふふふ!」
「ははははは!」
きっと照れた顔でもしているのだろう。それを見て、キルサとオウサは笑いを吹き出す。ふっ、シビアナの事で突っ込まれると、それが年下でもイージャンは形無しだね。まあ、玉響の事がばれずに済んだから良かったかな? ――っと。
さて、そろそろこの石段も登りきる。鳥居がもう目の前だ。私は、『笠椰海の内鳥居』を見上げた。




