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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第三章 おっぱい大脱走編
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第26話 それは、始まりでしかなかった

「――ともかく」


 ゴトキールは、白装束に向けていた自分の首を戻す。


「我ら近衛騎士隊のする事は、このせいであまりないですな。有難いのやら、はた迷惑なのやら」

「…………」


 私は答えず、黙って考えを巡らした。

――機密。一体何を以って、トゥアール王国はこの事実を秘匿するのか。王家が絡んでいるのか。絡んでいるのだろうな。


 確かに、黒い煙から出現したあの姿や、石灰に変わるという事実は、機密に指定されてもおかしくない。シカルアヒダ王国は遠方の異国とはいえ、国民が知れば余計な混乱を生むだけだ。しかし、これだけでは足りない。『甲種』の軍事機密辺りになるはず。『特種』や『禁種』にはならないだろう。


 機密は、その重要性により、五段階に大別されている。種というのはその等級を指す。下から、『丙種』『乙種』『甲種』そして、『特種』と『禁種』。


 その中で、王女である私が閲覧できるのは、下から三番目の甲種まで。そして今回は、その王女でも国王に許可をもらわなければ知ることが許されない、特種か禁種に該当している。だから、ササレクタも教えてくれなかった。


 私の知る限り、特種も禁種も王家絡みだ。特種の方が、その関連が薄いって感じ。禁種は、もろに王家そのものだった。まあ、機密の全てを閲覧したわけじゃないから、言い切るのは軽率かもしれないな。


 けど、区分の仕方が、それっぽいんだよね。取り敢えず王家に関わってたら特種にしとけ、みたいな。禁種は、こりゃあかん、絶対バレちゃ駄目だわってものが指定されてる。だから、この二種類は王家の機密って、思っているわけ。


 で、今分かっている事実だけじゃあ、この二つには該当してないと思うんだ。どう足掻いても、甲種止まりなんだけどなあ。いや、逆にこれだけなら、そうしてもらわないと困る。


 私は、常に戦場の先陣に立ち、戦う事を求められてきたトゥアール王家の王女だ。事前に備えられる事があるのであれば、備えておかなければならない。知っておくべきことは、知っておかなければならない。当然、敵の戦闘能力といった情報は、戦いの勝敗に直結しているから、尚更だ。


 シカルアヒダ王国は友好国ではある。しかし、今後どうなるかなんて誰にも分からない。だから、シカルアヒダの溟騎士が、実は異形の姿をしているというこの事実。いつの日か敵となった場合を考慮して、教えてくれてても良かっただろうに。現に彼らは今日、トゥアール王国の敵となった。


 今回出てきたのは、異形の姿といえど雑魚と言われても仕方のない連中だ。それでも、あの姿は驚くべきものであった事に違いはない。もし、これがササレクタとやり合った連中であったならと思うと、やはり危険だったろう。


 驚きが、攻撃に迷いを生じさせたかもしれない。それが、生死を分けることにだってなる。だけど知っていれば、そういう事は起こっても、最小限に留めることは出来るはず。先生は、納得させかねると言っていてはいたが、やはり何も知らずでいきなり初対面よりは、前情報があった方が良い。動揺の度合いが、かなり変わってくる。


 それに、私だけじゃない。近衛騎士たちも、同じように驚いただろう。先生がいなかったら、危険だったはずだ。だからこの事実は、混乱少なく対処できるよう、近衛騎士や王宮兵士、王国兵士たちにだって、知っていてほしいくらい。こんな事、父様でなくても分かりそうなもの。


 なのに、特種か禁種の最上位重要機密扱い。秘匿されてきた。だから、これだけじゃないはず。他にもあるのだ。最重要にせざる得ない何かが。王家が関連しているものがね。


 つまり、シカルアヒダ王国に、トゥアール王家が関わりを持っているってわけさ。


 やれやれ。一体どんな秘密が隠されているのやら……。私は、縁遠かったこの国が、急に身近なものになった気がした。


 ホント知りたい事ばかりだよ。でも、全部中途半端。いくら色々考えて答えに辿り着こうとしても、結局機密が壁となってその先に進めない。父様に聞くなり、開示要請をするなりしなければ、詳しい情報は得られそうにないか。先生が何処まで教えてくれるかにもよるけど。


 先生に聞ける事情を聴いてから、父様に聞く。この順序で良いだろう。逆に、何も知らないままだと、突っ込めなくなる。隠される事が増えそうだ。先生から色々聞いた上で、父様の話に整合性があるか見定めるか。まあ、その機密を教えてくれればの話だけどね。父様は、駄目だって言うかもしれないし。


 駄目なら、どうするかな? やっぱり、独自に調べるかね。自分でもある程度、調査はできるだろう。でも実際しようとすれば、時間も経費も多く掛かる。機密に該当するような、過去の出来事を洗い出す。その事件を知っている証人の捜索。証拠品があれば、その真偽調査――、等々。


 それに、国家の秘匿事項に首を突っ込むんだ。邪魔される可能性だってある。しかもそれは、身内。だから、自分で動くのは、実現性に乏しいと感じるし、時間の無駄と言っていいだろう。そして何より、そんな事をするなんて、私自身が面倒くさいわ。


 であるならば、やはり機密を知っている父様に直接問うてみて、それから考えればいいか。シビアナに相談してみるというのもあるな。ま、こんな感じでいこう。私は、これからの段取りを取り敢えず決めた。


「ゴトキール」

「はい?」

「ここはどうする?」


 考えが纏まった所で、これからどうするか確認しておこうか。まずは、この中庭からだ。ゴトキールが言う様に、機密となれば近衛騎士ができる事は少ない。それはつまり、ここは別の者達が担当するという事を意味する。


「後は『月鏡院げっきょういん』に任せますよ」

「ミストランテか」


 まあ、そうなるわな。


「はい。報告に行かせましたから、直ぐにでも出張って来るでしょうな」

「そうか」


月鏡院げっきょういん』。この院は、トゥアール王国の情報機関だ。国のあらゆる情報が、ここに集まってくる。そして、機密の秘匿もここが管轄。他にも国内の監察、諜報、それから外国への間諜といった表沙汰にできない裏の仕事もやっている。


 それを取り仕切っているのが、私の元側付筆頭侍従官、ミストランテ。シビアナにその席を譲った後、おばばは、この月鏡院を取り纏めている。侍従官は辞めても、現役まで引退する気はなかったらしい。元気な婆様だ。とはいえ、今は後進の育成が主で、実際に指揮を取っているのは、他にいる。


「我々にも、守秘義務は課せられるでしょうな」

「だろうな」


 機密も機密。特種か禁種だからな。当然そうなる。でも、漏れるだろうなあ、これ。無理だって。王家の機密に関する事は、大丈夫だとは思う。でも、こいつらは――。私は中庭を見渡した。ここは密室じゃない。屋外だ。何処に目や耳があるのか分かりゃしない。


 しかも、こんな大騒ぎになってしまった。狼煙玉は低かったが上がってるし、ササレクタの至極天が轟音を上げて突き刺さったのだ。近隣に民家は少ないとはいえ、朝っぱらから何事だと気づいた者は多いだろう。


 逆に、彼ら近衛騎士から漏れる可能性は少ない。守秘義務の経験は、何度もある。勝手は知っている奴らばかりだしね。見たところ、若手の姿は見受けられなかった。


「そういやあ、王宮兵士は一人もいないんだな」


 私は、そんな近衛騎士たちを見て、ふと気づく。王宮近衛兵団は、私達王族や要人の他に、今回の様な貴賓の警護も務める。これは主な任務の一つ。だから通常、近衛騎士だけでなく王宮兵士も、その任務に当たる。


 そのために、同じ王宮近衛兵団だという括りになっているのだ。けれども、ここにはその王宮兵士が一人もいなかった。


「ええ。クロウガル様の指示ですな」

「成る程……」


 どうやらクロウガルは、少数精鋭で警護をさせたようだ。しかも、ここにいる近衛騎士は、熟練の中堅どころしかいない。少数精鋭でかつ選りすぐりを寄越していたか。


「ああそれと、ここはこのまま放置するつもりです」

「ん? 何もしないのか?」

「現場保持は大切ですよ? ねえ姫様?」

「お前な……」

「はっはっは」


 軽いなー。このおっさんは。単に面倒くさいんだろうな。確かに、月鏡院が来るならできる事は殆どない。だが、こいつはそれを良い事に、全部あっちに放り投げる気満々なのだ。


 これは、別に悪い事じゃない。専門の院へ任せるだけだからな。向こうからしても、下手に現場は荒らされたくないだろう。ただ、その理由が面倒くさいからっていうのがね。適当というか無責任というか……。 


「とはいえ、生死の確認だけはしますがね」


 お? それはちゃんとやるんだな。なら、いいか。


「ああ、気を付けてやってくれ。相手がアレだ。急所を抉ったとはいえ、万が一がある」

「はい。白装束の数が多いですから、少し時間が掛かりますな」

「近衛騎士は、少ないからな」

「ええ」


 こういう時は、人手があった方が良いよね。


「ま、そこらへんの白装束からやっていきますよ」

「分かった。それが終わったら、お前たちはどうする?」


 後の事は、月鏡院に任せるとしても、シカルアヒダの護衛任務は別だ。それを続けるんだろうけど。


「シカルアヒダ次第ですが……。まあ、王宮へ移動でしょうな」

「そうか」


 確かに、ここにはもういられないな。ユーノ王女の容体が良くなったら、すぐにでも王宮へ直行してもらおう。先生はどうするんだろう? 流石にこの状態では、あの人もここにはいられない気がするが。後で聞いとくか。


「はあ……」


 ゴトキールが、溜息をつくと、げんなりそうに眉を歪めた。


「どした?」

「やはり、他国の貴賓を護衛するのは、気疲れしますな」

「――は?」


 いや、お前お酒飲んでたんだよね? どうして、も自分は頑張ってた風を装うの? 護衛していたのは、他の近衛騎士たちだろうが。


「しかも私、非番なのに……。はあー、面倒くさい。王宮に移動したくないですなー」


 そして、お前は本当にそういう事を、平気で言っちゃうよな。これが、うちの誉れ高き近衛騎士隊の隊長ですよ。王国に忠誠を誓った、騎士の模範となるべき立場なのにね。


 とはいえ、お酒云々は置いとくとしても、今この現場の指揮を執っているのは、ゴトキールだ。そして、休日返上で、警護の任務にそのまま就くのだろう。これに対しては悪い気はする。


 非番だったら、ちゃんと休んでほしいとは思うんだよね。シビアナが私の侍従官に休日を作ってから、更にそういう考えが強くなった。但し、こういった状況下でなければな。


「ゴトキール」

「はい?」

「お前の言い分も分かるが、そうも言ってられまい。非番を理由にして、この場を他の者達に任せたら、お前は間違いなくあいつに殺されるぞ?」

「えええ!?」


 何でそんなに驚いてんだ? お前が一番知っているだろうに。


「獲物は何だろうな? 槍か剣か刀か、それとも斧かな? ま、どれでもいい。それを持ったあいつは、お前を地の果てまで――」

「ちょっ、ちょっと姫様!」

「ん?」

「冗談は、よして下さい!」


 ゴトキールは、慌てて私の言葉を否定しようとした。


「ふっ……。冗談、か……」

「え?」


 空を見上げる。真っ青で綺麗な晴天。雲一つ見えない。今日は、いい天気ですなあー。そして、再び顔をゴトキールに向けた。


「そうだといいな?」


 本当にね。


「…………」


 うーん、見事に凍りついたな。微動だにせん。こいつは、自分の妻に対する認識が甘すぎる。だから、いつも平気そうなんだよね。その妻を知っている者からすれば、それは絶対に怒られるだろって事をしても。


「さ、さあて。そろそろ、私もはりきって指示を出しちゃおうかなー? おーい、ここの桶を持ってってー。あ、私も一緒に手伝ってきますねー」


 呪縛が解け再び動き出したゴトキールは、そわそわしながら近くにいた近衛騎士を呼び寄せる。そして、私が使った桶を一緒に持って行った。やれやれ、やっと分かったか。


 これで、嫌々ながらもきちんと隊長の本分を果たすであろう。しかし、あいつは何度痛い目を見ても、学習せんよな。毎日顔を合わせてると、そうなるのかね? いや、あれは性格だな、うん。


「あの夫婦も、相変わらずなんですのねえ……」


 私とゴトキールのやり取りを見ていたのか、ササレクタがぽつりと呟く。


「まあな。あいつは、いつも生と死の狭間で生きているよ」


 何回、死にかけたことか。


「ゴトキール様も、もう少しやる気があればいいですけど……。あれじゃあ……」

 

 イルミネーニャも苦笑いだ。そうなんだよね。この子の言う通り、近衛騎士隊の隊長としての責任感をきちんと持てば、死ぬ危険性はぐんと下がる。でも、それをしようとしないからなあ、あのおっさん。


 だから、良い奥さんなんだよね。無精者のあいつの尻を引っ叩いてくれるからさ。まあ、その加減は知らんがな。


「しかし、イルミネーニャ。お前の嫌な予感は、見事に当たってしまったな」

「え?」

「驚くことばかりだよ」


 やはり、この子の予感は正しかった。黒い煙もだし、あの異形の姿は、びっくりだ。挙句の果てには石灰になるしな。私の想像を遥かに超えていた。ただ、その結果は碌なものがない。それには当てはまらないかな。


「ま、被害は大したこと無かったから、半々ってとこか?」


 ササレクタが、危険視していた奴らでもなかったし。ちょっと拍子抜けだったんだよね。もっと最悪の事態を想定していた。先生が、至極天を本気で使わなければいけない相手だと、思ってたんだ。


 でも、先生は至極天を一部しか呼び出していなかったし、その一部も殴ったり斬撃を防ぐくらいにしか使ってなかった。だから、ここら辺が妥当であろう。


「はあ……。姫ちゃん……」

「ん?」


 ササレクタを見ると、何か眉間に皺寄せて目を閉じていた。何? 何か違った?


「まあ……。あたしの予感って、結果が悪いのばっかだったから、姫姉がそう言うのも分かるけどさ」

 

 イルミネーニャは、諦めたような顔で話し始めた。


「でもね。予感が外れる唯一例外があるとしたら、それは――」


 例外? そんなのがあるの? 私は、興味津々で次の言葉に耳を傾ける。しかし、彼女はその続きを話そうとしてくれない。そこで、言葉が止まる。そして、どんどん顔が青褪めていった。


「お、おい。イルミネーニャ?」

「イルミネーニャちゃん……?」


 私は、彼女のその様子に只ならぬものを感じた。それは、ササレクタも同じようだ。表情が真剣なものに変わっている。私の言葉にイルミネーニャは、泣きそうな声で答えた。


「どうしよう、姫姉……」

「どうした?」

「まだ、感じるんだよお……」


――っ!? 


「何だと!?」


 まだ!? 終わってないっていうのか!?


「どうしよう! どんどん強くなってくる!」

「なっ!?」


 私は、周囲の気配に不穏なものがないか、急いで見渡し始めた。


「ごめん、姫姉! あたし、これで終わりだって思っていたから、気付くのが遅く――!」

「それはいい! 有難いんだ! お前のおかげで、誰よりも早く危険を察知できる!」


 緩んでいた気持ちを、切り替えられる。油断を無くせる。警戒もできる。数え上げたら切りがない。この子の予感は、本当に助かる。


「ササ! 至極天を!」

「分かりましたわ!」


 ササレクタは、至極天を取りに行こうと走り出したが、イルミネーニャの言葉に足が止まる。


「ねえ、姫姉……」

「どうした!?」

「どうしたんですの!?」


 私たち二人の言葉に、彼女はゆっくりと中庭の奥を指差した。


「あれだけ白くないよ……?」

「何!?」

「何ですって!?」


 私たちは視線を向ける。それは、一番最初に吹き飛ばした目の鋭い珊瑚頭だった。白くない、か? ここからでは、よく分からなかった。抉れた地面に倒れているのは、見えるのだが……。服が邪魔で、褐色の素肌がよく分からない。


 その近くに倒れているのは白い。ホムラオロチを使った奴だ。その体が横たわっている地面は、抉れていないからそれがよく分かった。私からすれば、二つとも同じように見える。いや、そんな事はどうでもいい! イルミネーニャが、そう見えるという事は――!


 そして、変化は唐突に訪れた。私は目を見張る。頭を吹き飛ばされたはずの、その異形の体が動き出した。むくりと立ち上がったのだ。


 イルミネーニャの予感は、的中した。

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