第10話 トゥアール王家の血統
えーと……。
取り敢えず状況確認だな。
まず、髪の色は黄色。私は自分の髪の色を確認する。
ローリエのおいしいお菓子を食べたからな。
急に髪の色を変えたら変に思われるだろうし、このままでいこう。
楕円形の大きな机の、幅が一番ないところを挟んで私と先生が向かい合って座っている。
私から見て先生の右斜め後ろにローリエが立ってるな。
視線を右横に移すとイージャンが、その奥隣にシビアナが座っているのが見える。
イージャンに配られたお菓子が乗っていたお皿には手は届かない。
私がそのお皿を取ろうとすると、席を立って数歩歩く必要がある。
こんなところか……。
余裕だな。
では、イージャンに合図を送るか。
私はイージャンに視線を軽く当てる。
気付けよ。じゃないとここで終わりだ。
お、気付いたな。イージャンがこちらに顔を向けた。
よし。
私は、イージャンが口許に近づけていたお菓子と元々お菓子が乗っていたお皿に、交互で視線を移すことを数回繰り返した。
しばしこちらの意図が分かりかねている様子だったが、はっとしたイージャンがお皿にお菓子を戻した。
意図を察せたようだ。
後は任せろ。
そう言う意味を込めて私はイージャン片瞬きをした。
ここは可愛さは強調してみた。ふふん。私に惚れるなよ?
この国最強の美少女様の可愛いお顔の仕草だぞ。ありがたく頂戴しろ。
イージャンは何か微妙な顔をしていた。
なんだよ、その反応は……。照れたりしろよ。
気を取り直して私は目を瞑り、意識して息を吸いそしてゆっくりと吐く。
吸い込んだ息が体全体に行き渡るような感じだ。
目をゆっくり開らくと、私の黄色の髪が微かに淡く輝きだす。
光は微かに輝く程度になるよう気を付けて調整した。
絶対に先生には分からないように薄らと。
先生たちへ視線を当てないように注意しながら様子を窺う。
まだ、テレルの話をしている。変化はない。
よしよし気付かれなかったな。
先生から見えないように、私は自分の右手を机の下に移し中指と親指をくっつけて輪を作る。
それから、ある意思を込めた意識みたいなものを、中指の爪の上に集中させた。
すると髪を淡く輝かせていた光が、無数の黄色い線状になりながら中指の爪の上に光の玉となって収束し始めた。
そして、髪の輝きが消えると、指の腹程度の大きさになった黄色に輝く光の玉が完成した。
私はその玉がイージャンのお菓子に当たるように、中指の爪を使って弾いた。
光の玉は見事そのお菓子に当たり、さっき私の髪が光っていた程度に輝きだす。
すると、ぐぐぐっと大きさが圧縮していく。
そして縮むのが止まったかと思った瞬間、お菓子がぽーんと上空に持ち上がった。
お菓子は私の頭上に向かって斜めに上昇していたが、途中完全に輝きを消し勢いをなくすと、そのまま楕円を描きながら私の方へ落ちてきた。
私は顔をあげて口を開いた。
ぱくっ。
もぐもぐもぐ……。
ごっくん。
はい、御馳走様でした。
私はイージャンに向かって右手の親指を立てて成功を報告した。
それを見てイージャンは、ほっとしていた。
お疲れ様。
今私が使った不可思議な現象。
簡単に言うと、干渉する力を込めた光の玉をお菓子に当てて、私のお口に入るように体積を圧縮する。
その上で、上空に持ち上がるように指示を出して、私の方へ向かうよう上空に押し上げた。
ここで力は消える。
あとは惰性で私の口に入ってきたという感じ。
これは、茶会でテレルをきゃっきゃ言わせるために私が編み出した必驚の宴会奥義だ。
まあ、一発芸だな。
テレルを驚かしてやろうと、日々鍛錬を重ねた。
これ実際に茶会でやったら、テレルがすごいびっくりしてくれたんだよ。私も頑張って練習をした甲斐があったね。
でも、テレルがすごいすごいと言うもんだから、私もそれ見て嬉しくなって調子にのって芸をやってたら、後でシビアナに行儀が悪いと小言を言われてしまった。
反省。
ちなみにこの宴会奥義は多用はできない。基本一回限りの奥義だ。
何度もやってたら飽きられるしね。
よってテレルを喜ばせる為、私の宴会奥義は増産されていく。
話が逸れたが、まあこれが我がトゥアール王国の血統の力だ。
王族の女性だけが使用可能な不思議な力。
髪の色の変化に応じて様々な力を使うことが出来る。
私の髪は特に変り種。
明暗などによる若干の色の違いが出るとはいえ、普通は大別して1,2色しか変化しない。
悲しくても変化はないが、怒ると変化するといった感じだ。
しかし、私はそんなもんじゃない。
今までは多くても喜怒哀楽に応じた4色だったんだけど、私の場合は10色を超えるのだ。
こんなに多くの種類の変化はトゥアール王家初めてのこと。
そんな私の髪の変化を見分けて私の感情を推し量るシビアナはすごいねえ。
先生は推測の部分を多分に含むと前置きをした上で、髪の色が赤青黄緑の4色の場合については黄色の時は固体、緑は気体、青は液体、赤は私自身に対して干渉する力が一番あるのではないかとのこと。
確かにそれはその通りで私の力もその規則に沿って干渉を可能としている。
赤青黄緑を髪の色の基本色として、青と緑の中間色つまり青緑といった色はどうかというと、どうやら干渉できるものが増えるみたい。
例えば青緑でいうと、気体と液体を同時に干渉できる。
ただ、必要とされる力が大きいらしく、できることがかなり限られてくる。
基本色の時と比べると中間色の同時干渉はかなり疲れるんだよ。
最悪、私がぶっ倒れてしまう。
髪を光らせる為に必要となる力の源は気力や体力の類ということだろう。
先生は力の源については、疲れるからといって気力や体力だと断言しないようにしろと言われたけどね。
まあ目に見えないし確認できないから、先生ならそう言うかな。
でも大きな干渉を引き起こすと、すごく疲れるから当たらずとも遠からずかなって思うことしてる。
ともあれ干渉する力である光は、私の気力の類と髪の色を使うことによって効果が色々変化しているみたいだ。
ちなみに色の明暗ついてもよく分からないと先生に言われた。
赤青黄緑について色々比較してみたけど、法則性を見出すことができなかったそうだ。
本当に分からないことだらけだよ。
ただ、私の感覚なのだが赤黒い髪はただの赤より強い力が出ている感じはするかな。
私が使う王家の血統の力とはざっとこんな感じだ。
よく分かっていない部分が多いうえに使い勝手も悪い。
今これ必要だなと思っても前提に髪の色の変化が必要になる。つまり、感情を変化させないといけない。
いきなりそんなこと言われて変化できる感情は今の私には少ないし。
こんな不安定な力に頼るのは良くないだろうね。
ま、宴会芸で良いってことだ。
――ただまあ……似てるよねぇ。神の悪戯とさ。
例えば報告に出ていた水の玉を私も空中に作ることが出来る。
だからか、父様もあまりこの力を使うことにいい顔はしない。
銀髪を維持せよと命令を受けている。
神の悪戯と同じようなことができるというのは、一応国家機密扱いだ。
私の髪の裏事情について知っている者は近しいものを含めてごく限られている。
あと他国には、髪の色が変化することは知られている。
詳細は伝わっているとは思っていないが、何か疑念は持っているだろうね。
話が一区切りついたのか先生がこちらに顔を向けた。
「む、イージャン食べたのか。どうだった味の方は?」
お、先生がイージャンのお皿からお菓子がないことに気付いたみたいだな。
「はっ……。いえ、その」
イージャンはどう言えばいいのか迷っている。
うーん嘘つけないのか? 真面目な奴め。仕方ない。
「一口でペロリですよ」
私が助け舟を出す。私も嘘は言ってない。
「うむ。そうかそうか。がははは」
私の方を見て先生が嬉しそうに頷いた。
さて、これにて任務完了だ。
先生がお菓子の味の感想を詳しくイージャンに聞くかもしれないし、話の流れを変えてやろう。
そろそろここに来た理由の本題を話しておくれ。
「先生。そろそろ薬の話を聞かせて頂きたいのですが」
私は先生に薬の話をお願いした。
「うむ、そうだな。ローリエは仕事に戻っていてくれ」
「は、はい」
先生は私の言葉を聞いて、ローリエに退出を促した。
「お菓子ありがとう。美味しかったよ」
「い、いえ、あありがとうございます!」
私がもう一度お礼を言うと、ローリエが私たちに元気よくお辞儀をして退出した。
バタン。
先生はローリエが扉を閉めて退出したのを確認した後、一口お茶を飲むと私の方を見た。
「では、薬について話そうか」
さて、薬のお話を聞かせてもらおう。




