エレクトリック・ギター革命前夜 第2話:ピックアップという名の魔法
作者のかつをです。
第2話をお届けします。
今回は、エレキギターの心臓部である「ピックアップ」という技術と、チャーリー・クリスチャンとの、運命的な出会いを、描きました。
一人の天才と、一つのテクノロジー。
その二つが出会う時、歴史は、大きく動き出します。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
チャーリー・クリスチャンは、貧しかった。
しかし彼の耳は、誰よりも豊かだった。
彼はラジオから流れてくる偉大なサックス奏者、レスター・ヤングの滑らかで歌うようなソロを、一音また一音と必死に耳でコピーしていった。
彼はギターで、サックスのように歌いたかったのだ。
しかし彼のアコースティック・ギターでは、サステイン(音の伸び)があまりにも足りなかった。
管楽器のように一つの音を、長く美しく伸ばすことができない。
そして何よりも、音量が絶望的に小さかった。
そんな彼の前に、一つの新しいテクノロジーが現れる。
「ピックアップ」だ。
それは磁石とコイルでできた、小さな装置だった。
ギターの弦の振動を微弱な電気信号に変え、それをアンプという機械で増幅する。
それはまだ黎明期の、不格好なテクノロジーだった。
ピックアップは後付けで、無理やりギターのボディに取り付けるしかなかった。
アンプはすぐにハウリング(不快なフィードバック音)を起こす、気難しい代物だった。
しかし、チャーリーにとってはそれはまさに魔法の道具だった。
彼はなけなしの金をはたいて、最初期のエレクトリック・ギター、ギブソン社のES-150と小さなアンプを手に入れた。
そして初めてそのギターをアンプに繋ぎ、音を出した瞬間。
彼は新しい世界の扉が開く音を聴いた。
音が伸びる。
アコースティック・ギターではすぐに消えてしまうはずの音が、まるで永遠に続くかのように豊かに響き渡る。
そして、音量が大きい。
サックスやトランペットとも対等に渡り合えるだけの音量。
彼はついに、翼を手に入れたのだ。
彼は来る日も来る日も、この新しい楽器の可能性を探求した。
レスター・ヤングのように滑らかな、歌うようなシングルノート(単音)のソロ。
それまでのギターには存在しなかった全く新しい音楽言語を、彼は独力で編み出していった。
彼の噂はオクラホマの田舎町を駆け巡った。
「クリスチャンという、とんでもないギタリストがいる」
「まるでギターが、サックスのように歌っている」と。
しかし彼はまだ、ローカルな天才でしかなかった。
彼の革命が世界を本当に揺るがすためには、もう一つの運命的な出会いが必要だった。
ジャズの王様、ベニー・グッドマンとの出会いである。
その出会いはしかし、最悪の形で始まろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ギブソンES-150は、その特徴的なピックアップの形状から通称「チャーリー・クリスチャン・ピックアップ」と呼ばれ、今なお多くのジャズギタリストに愛されています。
まさに歴史を作った、ギターですね。
さて、田舎町でその才能を燻らせていたチャーリー。
彼の運命を大きく変える、一本の電話がかかってきます。
次回、「ジャズの王様のオーディション」。
しかしそのオーディションは、屈辱的な罠でした。
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