DAY 24 1500m走でトップにならないといけなかった日
月曜日、一限目体育。
「週明けしょっぱなから長距離走とか、暑いし滅入るわー」
「1500mか。高校記録が三分半ちょい……まぁ四から四半狙いでいいか」
親友の波多野悠一が、ジリジリと刺さる日差しに文句をいいつつ準備運動を始める。
俺も身体を慣らし、どのぐらいのペースで走るか計算し始める。
正直目立ちたくないし、太っていた時代のようにビリでもいいのだが、せっかくダイエット計画で身体改造に成功したのだから、ちょい狙ってみるか。
うちのクラスには、野球部エース候補に、サッカーアンダー18所属でしかもイケメンとかいう神に二物を与えられたレベルの人材が数人いる。
「しっかし美山ー、お前この一か月で変わり過ぎだろ。人間、ここまで見た目が変わるものかね、ビビるわ」
「今まで努力とかしないで、だらけきってたからな。ちょっと意識改革して、努力を継続させてみただけだよ」
「だからよー、その努力を継続ってのがすでに才能なんだっての」
波多野悠一は体力的にはクラスで真ん中あたり。
つまり、彼を基準にペースを計ればいい。
一か月程度の努力で身に付けた、いわゆる付け焼刃が、中高とスポーツをやってきたイケメンたちに果たして通用するのだろうか。
「そういや波多野、アザ丸君トロフィーって知ってるか?」
「ああ? ああ、今度の学校祭でのイベントの優勝商品だろ? まぁ狙って欲しいって物じゃなくて、記念品、だよな。でも今回、よく分からんけど昨日突然スポンサーが付いて、アクションカメラとか追加されたらしいぞ」
学校祭で行われる伝統行事「出店ランキング戦」、その優勝商品であるアザ丸君トロフィーを波多野に聞いてみたが、あれ? 今年は他にも賞品あるんだ。
俺たちは西崎華さんが欲しがっている、その「記念品」のアザ丸君トロフィー狙いだったんだけどね……。
しかし追加でアクションカメラか。
なんだっけ、動画配信者がよく使っている撮影カメラだっけ。
それって、結構お高くなかった?
ちょっと……欲しいな。
そのカメラがあれば、こないだ撮った天使たちの溜まり場配信動画を、もっと綺麗に撮れそう。
いやぁ、今思い返しても、彼女たちのコスプレ姿は素晴らしかったなぁ。
「だから今年のランキング戦、結構参加者が増えるだろうな。高性能カメラとか、みんな欲しいだろうし。なんだ、お前も欲しいのか? やりたいってんなら、俺も手伝うけど、あれって毎回『どれだけ売り子さんの見た目が良いか選手権』に近いからなぁ。お前の見た目、結構良くなったけど、クラスのイケメンさんに勝てるかなぁ」
「ありがとう波多野。でも悪いな、俺、他から誘われててさ。アクションカメラ、ちょっと狙ってみようかなぁ」
「そっか、よし、俺は親友のお前を応援するぞ。何か困ったら言ってくれ、金以外なら相談に乗るぞ」
ランキング戦、悲しいかな、見た目の良い売り子さんがいるところが強いよな……だがまぁ……その点はクリア出来ている。
なんせうちのチームには『彼女たち』がいるしな。
「スタート!」
教師が合図をすると、スポーツ得意イケメンたちが爆走開始。
「きゃー、がんばってー!」
先頭を走るイケメン集団に、グラウンド中央で短距離走をやっている女子から黄色い声援が飛ぶ。
「クソが……いいよなぁイケメンには応援ブーストがあってよー! こっちは自分の記録との孤独な戦いだぜ……」
俺の少し前を走る波多野が文句を言い始める。
まぁ基本こういうのは、孤独な戦いだろう。
さてどうするか……このペースなら、先頭集団に追いつけそうだが……イケメン集団に紛れて女性たちのヒンシュクを買うのもなぁ……
「なにやってんだミャーマー、行けイケー! この一か月、天才スポーツ少女ももよーん様の過激な特訓を、逃げず諦めず前を見て立ち向かって、堂々その身体を手に入れたんだろうがー! その成果を見せてみろー!」
げ、藤浪桃世さんが俺を見て、でっけぇ声で叫んでいる……。
「美山くーん、がんばってー! いつももっと早く走ってるよねー、遠慮とか、いらないと思いますよー」
うわ、西崎華さんまで……さすがにクラス三大美女のうちの二人が名指しで俺を応援し始めて、イケメン集団が動揺しているぞ。
「……おい、なんだその走り。手抜きとかダッセェことしてんじゃねぇよ。止め、刺してこい」
金髪ヤンキー女子、伊江里クロワさんが首を斬る仕草をして、すっげぇ俺を睨んできた……!
クラス三大美女勢ぞろいで俺を応援し始め、イケメン集団がざわつきだしてるじゃねぇか。
やっばいな、手を抜いているのバレてる……面倒だけど、ここで行かなきゃあとで絶対怒られそう……!
「悪い波多野、ちょっとイケメン集団と戦ってくることになった」
「お、行くのか。お前ここ最近ずっと走ってたんだろ? さぁ、努力を継続させた男の逆転劇ってのを、俺に見せてくれよ」
伊江里クロワさん、藤浪桃世さん、西崎華さんの応援と親友の後押しをもらい、俺は走る速度のギアを上げる。
1500m、正直今の俺にとって、スタミナを気にする距離じゃあない。
残り半分か……なら……全力で走っても大丈夫だ。
「行けイケー! そうそう、その速度だ! 神であるももよーん様レベルにはほど遠いけど、一般人レベルでは充分天下取れるよー!」
藤浪桃世さん、あの人マジで無限の体力の持ち主だからな……この一か月、一度も勝てなかったし。
あの人、神レベルには絶対に勝てないけど……そう言われれば、一般人レベルならいけそうか。
いや、野球部エース候補に、サッカーアンダー18所属とかって一般人レベル超えてねぇか?
「そうそう、体力お化けの桃世に、唯一追いつけていたのが美山くんなんだから、このぐらいなら勝てると思うよー」
おおう、西崎華さんのジャンプしながらの応援……すっごい揺れてるぅ……おっと、伊江里クロワさんに睨まれているぞ。
「てめぇ、どこ見てやがる……美山進太。負けたら今日の夜、私を乗せて腕立てだからな」
おっふ、伊江里クロワさんが激オコ……!
アカン、行くしかない……!
「なんだコイツ……速い……!」
「クソ……俺は小中高とずっとサッカーで走って来たんだぞ……こんなやつに負けてたまるかよ……!」
俺は波多野悠一がいた中間グループを飛び出し、走る速度をさらに数段上げる。
一瞬で先頭集団のイケメングループに追いつくが、サッカー部の浜野君が俺を見て速度を上げる。
おお、確かに速いが……藤浪桃世さんの速度、地平線の遥か向こう……こんなの絶対に無理……レベルじゃあないな。
その程度の速度なら、俺でも届きそう。
あと100m、手抜きはしないぞ。
そんなことをしたら、絶対に伊江里クロワさんに怒られるし。
「……てめぇ……速すぎだろ……サッカー部入れ……」
イケメン集団のトップを走っていたサッカー部の浜野君の断末魔を聞き、俺は1500m走を一位でゴール。
やった……良かった……これで伊江里クロワさんに怒られずに済んだ……。
「フハハハ! さすが我が弟子……だが一般レベルで勝って自惚れるなよ? 世界レベルにはかすりもしていないし、ももよーん様のような宇宙レベルからはミジンコレベルでしかない! フハハ!」
歩きながら休んでいたら、わが師、藤浪桃世様が俺の尻をパーンと叩いてきた。
うっふ、すいません……師の顔に泥を塗るわけにはいかないと頑張ったんですが……って、いつから俺の師匠になったんですか。
「おめでとう美山君。格好良かったよ、ふふ」
おっと西崎華さん……なんとお優しい笑顔とお言葉……心に染みます。
「華はこいつに甘ぇんだって。てめぇ、最初手抜きで走ろうとしやがって。やっぱ今夜私を乗せて腕立てな」
ええええええええ……俺勝ちましたよ伊江里クロワさん……。
確かに最初、目立ちたくないから手抜きしましたけど……まぁ、俺が悪いか……。
「あれぇ? クロワ、さっきすっごい喜んでなかった? あれあれぇ、ふふ」
「……ウッザ。おい美山進太、しっかり水分取れ」
とりあえずダイエット計画の成果が出て、1500m走でトップになったが、今夜は伊江里クロワさんを乗せた腕立てが待っているらしい。
……今夜?
あれ、もしかしてみなさん、また俺んち泊まるんですか……
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影木とふ




