DAY 12 楽しいランチタイムが恐怖のお肉裁判だった日
月曜日 お昼休み。
「今日も自分で作ったのか美山。うちはまだヨーグルトブームが去ってなくてさ、またヨーグルトソースだぜ……」
「ごめん波多野、俺今日、急用があってさ、お弁当は中庭で食べるよ!」
親友がいつものごとくお弁持参で俺の席の前に座るが、俺はカバンからお弁当箱を取り出し、全速力で教室から逃げる。
今日のお弁当、寝ぼけていつも通りの肉弁当を作ってしまった。
これを金髪ヤンキー女子、伊江里クロワさんにでも見られようものなら、ほっぺを千切られること必至。
「あ、てめぇ逃げんな……! さては弁当に良からぬ物を入れてきたな……桃世、確保だ!」
「ほーい! ふっふっふ……このスーパースプリンターでありスーパーステイヤーでもある二刀流のももよーん選手に勝負を挑むとは命知らずめ、二位以下は全て参加賞で地べたを舐めるはめになるという現実を教えてやるー!」
「え、あ、二人とも落ち着いて。桃世も急に燃えないの、ケガだけはさせないようにね」
俺がマシュマロボディを揺らし、ダッシュで教室から逃げると、伊江里さんがすぐさま反応。
ちっ……そういえば藤浪桃世さんは無限の体力+短距離も速いんだった。
だが俺だってこの三日間、サボることなくマラソンをしていたんだ……その結果をみせてやるぜぇ!
「ほい、ミャーマ確保ー! 師匠であるこの私を超えるのは、十年早いってやつー! あははははは!」
「ほぎゃああ……!」
俺は廊下を必死に走り、階段を降りようとしたが、その手前で悪魔みたいに目を光らせた存在に羽交い絞めにされた。
はっや……! 教室を出て数秒……もう追いついたのかよ!
つか誰が師匠だって?
「ふはははははは! 脱走者はフニフニの刑だー!」
「え、フニ? ちょ、くすぐった……ほぁああああああああ!」
背後から藤浪さんにがっしり抱きつかれ、背中に二つの柔らかい物が……!
堪能しようとしたが、藤浪さんの手が四本に増え、俺の脇腹やら首筋やらをくすぐってくる。
うそだろ……ってあまりに高速で動いているから、手が四本あるように見えるだけか……ってそんなことが普通の人間に可能なのかよ!
「おい美山進太、なんだこの肉は」
「えっと、その……寝ぼけてつい、いつも通りのお弁当を作ってしまって……」
逃走を試みるも、あっさり阿修羅藤浪桃世さんに捕まってしまった。
その後、女性三人に高校の中庭に連行され、お弁当チェックタイムという名の肉裁判へ。
「でも美味しそうー! ミャーマって一人暮らししているだけあって、料理上手だよね。これはいい奥さんになるぞー! あははは、お肉もーらい! これうまー!」
「あ、桃世ってば勝手に……。わ、私もこのアスパラのお肉巻き、いただこうかな……うん、美味しい!」
「肉は全没収な。ったく、油断も隙もねぇな。代わりにこれ、食え」
俺のお弁当箱に詰まった夢、きらきらと光る油を纏ったお肉たちが、次々と女性三人の箸に摘ままれ、消えていく……。
あああ、俺のお弁当からお肉を取ったら、もうご飯しか残らないんですけど……と嘆いていたら、金髪ヤンキー女子、伊江里クロワさんが自分のお弁当から小さい青魚のフライをくれた。
あ、油……! 例え魚だろうが、今は油であれば何でもいい、いただきます!
「う、うまい……お肉じゃなくて魚だけど美味い……!」
「……そうか……」
俺が食べるところをじーっと見ていた伊江里さんが、少し安心したような顔になる。
「良かったねー、クロワー。ミャーマにあげようと頑張って自分で作ったんだもんねー、あはははは!」
「……うざっ。そういうんじゃねぇよ」
「あ、私のもあげるね。はい、だし巻き卵」
和風美人、西崎華さんも自分のお弁当から厚焼き卵をくれたが、これがマジで美味い。
「うわっ……これ土曜日に食べさせてもらった高級なお店の味がする……! ありがとう西崎さん、これ美味いよ!」
「ふふ、私でもこれぐらいは出来るんだから。でも良かった、喜んでもらえて」
え、これ西崎さんの手料理……?
ヤバ、こんな素晴らしい物を、俺とかいうマシュマロマンが味わっていいものなのか?
つか、中庭でワイワイ騒ぎながら食べているもんだから、周囲の視線がすごい。
まぁ……クラスどころか、伊江里クロワさんに藤浪桃世さん、西崎華さんと言えば、学校でもトップクラスのお美しさを誇る有名人だしな……。
彼女たちにアタックをし、玉砕したイケメンは数知れず……それを俺みたいなシルエット丸めの男が彼女たちの手作りお弁当とおかず交換とか、今夜闇討ちに遭ってもおかしくないレベル。
うん、帰り道、背後に気を付けよう。
「お、おい美山……大丈夫だったのか……? なんか伊江里クロワさんに拉致られたらしいけど……」
中庭での肉裁判も終わり、お弁当は完食。
いやぁ、伊江里さんと西崎さんからもらったおかずは美味かった。
藤浪桃世さんはゼリー飲料と果物とかだったけど……すごいな、やはり俺も一か月ぐらい、あれぐらい覚悟を決めて徹底してやるべきなのかなぁ。
ダイエット計画で結果を出せば、伊江里さんが一つ言うことを聞いてくれて、西崎華さんとお出かけデートが出来るんだもんな……うん、もっと徹底するべき。
明日からはお弁当も油断しちゃいけないな、と考えながら教室に戻ると、親友波多野が心配そうに俺に声をかけてきた。
「え、拉致? あ、ああ、えーと……」
そういえば俺って、いきなりダッシュで教室を逃げ出したけど女性三人に捕まった、って周りには見えているのか。
「その、捕まって寄ってたかって肉をついばまれた……かな」
「え……? おい、大丈夫なのかよそれ。飢えたハイエナか鷲にでもやられたのか?」
波多野が驚愕の顔をしているが、あれ? 俺、なんか表現間違った?
ええと、逃げようとしたが捕まって、みんなにお弁当のお肉を全部取り上げられた、うん、合っているよな?
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影木とふ




